2000円でプロOBに習う最高の講習会。「昔教わったことは間違いでした」

2000円でプロOBに習う最高の講習会。「昔教わったことは間違いでした」

 野球がオフの間の「冬」の時期は、私にとっては勉強の時期でもある。

 いいかっこをしているようで気恥ずかしいが、冬の間に探して勉強の場を求め、講演会や野球教室、講習会のたぐいに足を運んで話を聞き、一言一句漏らさぬようにメモに書き取り、なるほど、そういうことか……と頭の中を整理し、誤解を修正し、新たな知識を仕入れる。そういうことが好きである。

 こういう仕事をしていると、わかっているつもりだったことがあいまいな理解だったり、実はわかっていなかったり、そういうことにシーズン中に時々気づくのだが、野球が続いている時はどうしてもそっちを追いかけるのが先になって、“疑問”の解消が後回しになってしまう。

 シーズン中に溜まりに溜まったそういう“モヤモヤ”をクリーニングするのに持ってこいなのが、オフの勉強の機会なのだ。

 正式な講習会なので、名称をきちんと記しておこう。

「ベースボール・コーチング・セミナー 全国アマチュア野球指導者講習会・関東地区」という催しに行ってきた。

 日本プロ野球OBクラブ(公益社団法人全国野球振興会)が主催しているもので、ロッテ浦和球場の、冬場なので「室内練習場」を会場に行われた。

講師はそうそうたる元プロ選手たち。

 室内といっても、プロの室内練習場は中が明るい。照明の光度も高いし、自然光を豊富に取り入れている。踏みしめる人工芝のクッションもここちよく、ここで「藤原恭大」が練習するんだ……と思うと、感慨またひとしおである。

 講師はもちろん、元・プロ野球選手たち。今日は、投手部門を元大洋ホエールズ・“ヒゲ”の齊藤明雄投手、捕手部門が元ロッテ・“鉄砲肩”の定詰雅彦捕手、内野守備は元西武・“ゴールデングラブ10回”の石毛宏典遊撃手、そしてバッティングについては元横浜・“和製大砲”の中根仁外野手が教えてくださった。

 生徒側は、中学、高校などの野球部の指導者の方たちが大半で、今回、指導者じゃなかったのは私だけだったようだ。

バンザイのポーズから始まる投球姿勢。

 ありがたい講習会だった。これだけの講師の方たちが、それぞれ1時間、持ち時間を超過するほどの熱意で、わかるように教えてくださった。それで「授業料」は2000円である。

 私だけが教わってしまうのは、あまりに勿体ない。それぞれのレッスンの中で、講師の先生たちから発せられた「金言」をいくつか記し、私からの「おすそ分け」としたい。

 それほどに、「教えられた講習会」になった。

「バンザイの姿勢からヒジだけポンと下ろす。ただし、下げ過ぎない、ヒジは肩の高さ。その高さがいちばん肩甲骨がよく回る。その姿勢から、グラブサイドの手(右投げなら左手)だけを、90°ぐらい前に倒す。それが投げる時のトップの姿です」

 両足は肩幅ですよー。齊藤明雄講師の説明は、投げる動作をすごく「簡略化」してくれる。

「そのトップの姿勢で、前の腕のヒジと手首の真ん中あたりを、キャッチャーミットに向けるイメージ。それが“照準”になって、その時のグラブの位置に腕を振り下ろすイメージ。動作を形で教えようとすると、そうしなきゃいけないと思って、動きが硬くなる。動作はあくまでもイメージですから」

 狙ったポイントに投げられる確率なんて100分の1ですよ……。

「プロ128勝」の投手からそう言われると、すごく安心する。それもこういう講習会の醍醐味だと思う。

講師みずから実技をしながら。

「言葉のかけ方ひとつで、選手の伸びる伸びないが決まってきます。相手をしっかり向いて、目を見て話す。特に語尾をはっきり。そこから相手の信頼感が得られます」

 講師の先生が、実際にグラブやボール、バットを手にして実技をしながらのレッスンなので、とてもわかりやすい。

「スナップスローはポジションを問わず“必修科目”です。短い距離を素早く投げる場面はすべてのポジションにあります」

キャッチャーのミットの向きも変わった?

 捕手担当の定詰雅彦講師のレッスンは、実に実践的だ。話は広範囲に広がる。

「スナップスローは短い距離のノーステップから練習を始めて、投げたボールがたれる距離になったら、ステップを付ける。バント処理や投ゴロの一塁送球が苦手なピッチャーって、実はプロにも結構いて、それが致命傷になる場合もあるんです」

 キャッチングのレッスンが興味深かった。

 昔は、ミットの中の人差し指が上を向くように構えて捕れ、というのがスタンダードだった。

「この方法だと、捕球の瞬間に脇が締まって、ミットを止めるにはすごく効果的なんですけど、ミットを動かす自在性となると、どうなんでしょうね……」

 そう言いながら、今度は人差し指が右を向くように構えて、ミットをグルグル回してみるから、見ているこちらも、左手を顔の前でグルグル回してみると、なるほど、こっちのほうがミットの動きがスムースではないか。

「今の野球は、高校生でもチェンジアップ、ツーシーム、スプリット……速い変化を使いますよね。それには、ミットを横に構えたほうが対応しやすいんじゃないか。そういう考え方も出てきています。プロの捕手でいえば、古田(敦也)タイプですね」

 こうしなさい! という論調じゃない。

 自分はどっちを取るのか、その選択は選手にしてもらってください。そういう意味合いが込められているようだ。

「たとえば、巨人にいた駒田(徳広)さんなんか、一塁手ですからミットを止める必要がない。だから、ファーストミットを真横に使って捕球点がすごく広かったし、ショートバウンドなんか実に見事に吸収するように捕球してましたよね」

 キャッチングのレッスンが「捕手」の範疇にとどまらない。こうした話の広がりが堪えられない。

過去の常識を次々と覆す石毛宏典講師。

「左足の前で捕れ、グラブは立てろ、低く出せ……昔、教わったことは、全部間違いでした!」

 守備担当の石毛宏典講師のレッスンはテンションが高い。さすが、昭和の「太田駒澤」で薫陶を受けた野球人である。

 時折、厳しい叱咤の声もはさんで、ビシッとした緊張感漂う空間となった。

「プロの技を教えます!」

 そのひと声で、一気にピンとした空気に変わって、“生徒”たちの意識が石毛講師の動きに集まる。

基本とオリジナリティは二者択一ではない。

「ゴロに対して、意識して右足を直角に入れる。ここでつま先から入ると、捕球姿勢から送球に移る段階で、右足が伸びて体がこんなふうに流れます」

 生徒全員がその動きをなぞっている。確かに、つま先から入ると右足が伸びきってしまって体勢が崩れるが、右足を直角に入れると、捕球姿勢ですでに右足が送球姿勢になっていて、ヒザに適度な曲がりが残っているので、送球動作のバネになってくれる。

「私の場合は、強烈な打球に対して顔と心臓を向けたくなかったので、インパクトの瞬間、若干右半身を前にして軽くステップして、それからスタートしてました。基本さえ身につけていれば、その前のルーティンにはオリジナリティがあっていいと思いますよ」

中根仁講師のレベルスイング論。

 バッティング担当の中根仁講師は、今日が「講師デビュー」だったそうだ。それでもプロでコーチ経験もある方だから、レッスンにぎこちなさは全く感じなかったし、とても誠実なお話をされる方だった。

「バッティングでいちばん重要なのはタイミングなんです。でも、これは教えられないんです。タイミングは100人いれば100通りですから、自分の感覚で、自分で覚えていくしかないんですね」

 確信の持てないことを、知ったかぶりで言ったりしない。

「レベルスイングを誤解している人、すごく多いんです。プロの選手でも結構いるんですよ。レベルに振れていればいいのは、ホームベースの上だけなんです」

 そう言いながら、トップからゆっくりとグリップを振り下ろしながら、

「ここだけです。ここだけレベルに振れていればいいんです」

 と、ベースの上でゆっくりと手首を返してみせる。手首を返す瞬間だけ、確かにスイング軌道が“レベル=水平”になった。

「あ、そうだ……。試合で結果出せるバッターって、どんなヤツだかわかります? 相手のピッチャーをよ〜く見てるヤツですよ。もちろん、今投げてるピッチャー、ブルペンにリリーフが出てくればそっちも。ベンチからも見てるし、ウェイティングサークルでも見ながらタイミングとってる。内川(聖一)なんて、そうですよね。やっぱりバッティングはタイミングなんですよ」

強豪・名門の指導者にも来てほしい。

 講師ひとりがおよそ1時間で“科目”が4つだから、実質4時間あまり。 寒い室内に立ちっぱなしだったが、こんなに「豊かな時間」もなかった。

 頭の中でモヤモヤしていたことが、5つも6つもクリアになった。あんなに面白かった野球が、もっと面白くなった。

 もったいないな……と思ったのは、生徒の“数”だ。

 これだけの講師の顔ぶれなら、200人ぐらい来てるんじゃないか……と思っていたら、実際は40人ほど。こんなもったいないことはない。

 残念だったのは、“生徒”の中に強豪、名門校の指導者が見当たらなかったことだ。

「指導者の指導者」が必要な時代がやってきている。知らないことは恥ずべきことではなく、恥ずべきは知ろうとしないことであろう。私は指導者ではないが、その線でいったほうが、間違いなく心豊かな「野球人生」を送れると確信している。

 これからも探し求めて、「人の話」を聞きにいこうと、心に決めている。

文=安倍昌彦

photograph by Hideki Sugiyama


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