ポドルスキがヴィッセルで持つ野心。「イニエスタも同じような考えを」

ポドルスキがヴィッセルで持つ野心。「イニエスタも同じような考えを」

神戸にはもう一人、勝者のメンタリティを備えた者がいる。
日本文化を堪能しながらも、世界とのギャップを鋭く指摘。
かつて世界一も経験した加入2年目のキャプテンが、
「アジアナンバーワン」実現に向けたビジョンを語る。
Number960号(2018年8月30日発売)の特集を全文掲載します!

 好奇心旺盛で、時間ができれば、方々へ足を延ばす。近場だと六甲山、大阪、奈良、京都を訪れ、少し遠方だと東京が気に入った。ルーカス・ポドルスキの通訳を務めるために、14年ぶりに日本に戻った村上範和は、同行する先々で突っ込まれる。「ノリカズは日本人なのに、日本のことを何にも知らないじゃないか(笑)」と。

 プロ野球は甲子園球場でも観戦し、阪神タイガースの糸井嘉男からサイン入りのバットを贈られた。小学生の息子とはテニスやバスケットボールを一緒に楽しみもする。それでも溢れ出すのはフットボールへの深い愛。プロサッカー選手としての強い誇り。

「世界ナンバーワンのスポーツはサッカーだ。ヨーロッパの多くの人たちは、日本も同じだと思っている。でも、実際は同じじゃない。ベースボールとの人気の差は、まだかなり大きいだろう。その差を少しずつ埋めていかなければならない」

三木谷会長と継続的に議論。

 スポーツ紙の1面が、なぜサッカーではないのか。村上に違和感を訴えてくるポドルスキの顔は悔しそうにも、悲しそうにも映る。プロ野球との差を、あるいはヨーロッパとの差を埋めていくためには、何が必要なのか。

 ヴィッセル神戸の代表取締役会長、三木谷浩史が目標に掲げる「アジアナンバーワンの、ヨーロッパでも通用するクラブ」へ、着実に前進していくためには?

「時間はかかる。今日始めて、明日チャンピオンになれるわけじゃない。でも、ヴィッセル神戸は、僕が来日してからの1年ですでに大きな変化を生み出している。スタジアム、トレーニング施設、クラブハウスと、いろんなところに少しずつ手を加えてきたからだ。僕ら選手も同じ。大きな変化のためには、小さなことからコツコツ積み上げていくしかない」

 三木谷会長との議論も、それこそ継続的に重ねてきたと言う。

「今から1年半ほど前に、このプロジェクトの話を聞かされ、オファーをもらった時からだ。来日する前も、来日してからも」

イニエスタと経験を伝える。

 強い信頼関係は“行動”によって育まれてきたらしい。

「ヴィッセル神戸では、提案が本当に一つひとつ叶えられてきた。僕のアイデアだろうと、別の誰かのアイデアだろうと。日本のよそのクラブがどうかは知らない。でもサッカーの世界では往々にして、せっかく議論したのに何も変わらないケースがある。

 ヴィッセル神戸のプロジェクトに関われて楽しいし、このクラブに居られる幸せを感じもする。三木谷会長からは熱量を感じる。ひたすら前進していくエネルギーを」

 まずヨーロッパから多くを学び、その上で日本のオリジナリティーを出していけばいい。来日後、そう主張してきたポドルスキは、神戸のチームメイトやスタッフに何を伝えようとしているのだろうか。

「経験だ。自分がここに来た意味は、経験を伝え、活かしてもらうところにもあるだろう。おそらくイニエスタも、同じような考えを持っているはずだ」

 そうした意見交換をもう始めているのか。

「これからだ。イニエスタの来日からまだ間もないし、今は目の前のシーズンに集中しなければならない。しかるべきタイミングが来たら、腰を落ち着けて、クラブのスタッフも交えながら、しっかりとした話し合いをしていきたい」

W杯直後からポジティブな連携。

 では、ピッチ上の手応えは掴んでいるのか。アンドレス・イニエスタとの初の揃い踏みは取材の2日前、Jリーグのジュビロ磐田戦で実現したばかり。5月上旬から怪我で戦列を離れていたポドルスキにとっては、約3カ月ぶりとなる復帰戦でもあった。

「ポジティブなフィーリングをすでに感じている。イニエスタはワールドカップを戦い、しかもシーズン途中の合流で、ふたりともコンディションが万全ではない難しい状況だったのに、ああいう試合ができた。他のチームメイトとの連携を含めて、この先は良くなっていくだけだ」

 実際、磐田戦でイニエスタの来日初ゴールを左足のラストパスでアシストしたのがポドルスキだった。世界水準のプレーに鳥肌が立ち、声にならない声が出てしまうようなエモーショナルなシーンだったと伝えると、ポドルスキは頷きながら振り返る。

「重要なのは勝利を収めたこと。勝点3をきっちり取れたから、あのゴールも引き立った。イニエスタと初めてチームメイトとしてプレーした試合で、ああいうゴールが生まれ、最終的には勝利で良いストーリーに仕上がった。

 こういうシーンを増やし、良い試合をすることで、スタジアムを訪れるファンが増えてくれたら、嬉しいね。勝点3にフォーカスして、戦いに臨むのが自分の役割だと思う」

まるでやんちゃな少年。

 休養日翌日のこの日は、ジムとプールを中心とした1時間弱のリカバリーの後、インタビューに応えてくれた。2日前、久々の実戦をナイターとはいえ蒸し暑い中戦ったばかりで、疲労も残っていたはずだ。しかし、一つ質問すれば、その返答には淀みがなく、力強いドイツ語が響き渡る。

 通訳を介するインタビューは、アイコンタクトが取りにくい。ただ、神戸市内の最高気温が33度を超えたこの日は、酷暑が味方してくれた。

 トレーニングの後、休む間もなく駆けつけてくれた村上通訳の汗が止まらず、おどけるようなポドルスキの反応でインタビューは中断し、笑いが起こる。楽しい出来事を共有したがるように、満面の笑みでこちらの目を覗き込んできたポルディは、やんちゃな少年のようにも見えた。

慈善活動にも積極的。

 ポドルスキは2児の父親だ。ヴィッセル神戸のアカデミー(U-12)に所属するルイス君は、お父さんと同じFWながら右利き。2歳のお嬢さんは、最近サッカーボールと戯れるようになった。ポドルスキは喜んでいたという。自分の娘がたどたどしくも、左足でボールを蹴る姿を目撃したからだ。「俺と同じレフティーじゃないか」と。

 自分のルーツやアイデンティティを、大切にしてきた人なのだろう。両親はポーランド出身で、幼少期を過ごした同国南部の都市ザブジェをはじめ、居住した街とその街を本拠地とするサッカークラブへの愛着を隠さない。

 ドイツには2歳半で移住し、育成年代の初期に在籍したベルクハイムのスタジアムには、現在は自身の名前が冠されている。その名も「ルーカス・ポドルスキ・シュポルトパルク」だ。

「子供たちがいつでもプレーできるように、全天候型の人工芝のグラウンドやロッカールームを新たに造った。僕自身がそこでプレーしていた原点だし、それまでは芝と土のグラウンドしかなかったから、何かできることはないかと思案して。これまでクラブに関わった人が、それぞれの立場や状況の中で協力していくのが、当然だと思っている。単純に自分の心から出てきたものが形になり、今のような施設になっている」

恩返しは絶対にしていく。

 ここ神戸も、そんな掛け替えのない大切な場所になっていくのだろう。

「今、僕が受けている恩を返していくつもりだ。恩返しは絶対にしていきたい」

 予定の取材時間をオーバーしても、真摯な受け答えは変わらない。せっかくなので質問を続ける。聞きたい話があった。ポドルスキが進めている慈善活動についてだ。

「児童施設をポーランドと(下部組織出身でプロデビューしたクラブがある)ケルンに作り、親のいない子供たちに食事を提供したり、勉強を手伝ったり、そんな活動さ」

 振り返れば、多くの人に助けてもらったからこそ、移民の子にも道が開けた。恵まれない子供たちの力になるのは当たり前。財団を設け、慈善活動に力を入れるポドルスキには、そんな思いがあるようだ。次の話は、この人物の懐の深さを物語っている。

「財団で取り組んできたどのプロジェクトも印象的で、記憶に残っている。そこからひとつだけ選べと言われても、選ぼうとするだけでアンフェアだ。全てのプロジェクトが、本当に思い出深いものだから」

特注品のキャプテンマーク。

 インタビューを終え、写真撮影へ。ユニホーム姿で、キャプテンマークを巻いてもらう。やがて室内にシャッター音が鳴り響く。フォトグラファーのリクエストに応えながら、ポーズを変えていく。

 その様子をこちらは横から眺めているので、表情までは分からない。ふと記憶が蘇る。力強い表情を出すには、握りこぶしに力を入れるといい。何かで読み、役立つ日が来るかどうかという記憶だった。見ると、ポドルスキは両手のこぶしをぎゅっと握りしめていた。

 2年目の今季から、キャプテンを引き受けた。

「特別な理由はない。ただ、自分の経験を活かす意味ではチャンスじゃないかと」

 そんな動機の存在を明かしてくれたポドルスキが左腕に巻いているキャプテンマークは、実はオーダーメイドの特注品なのだと神戸の広報担当が教えてくれた。

 意識してか無意識なのか、こぶしをきつく握りしめ、フォトグラファーとも誠実に向かい合う男。主将指名をやはり意気に感じ、その思いを特製の腕章に込めているのではないか――。横顔に、日本での挑戦への覚悟が滲み出ている気がした。

(Number960号『ルーカス・ポドルスキ「恩返しがしたいんだ」』より)

文=手嶋真彦

photograph by Asami Enomoto


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