テコンドー元世界女王・濱田真由が30%の出来でも日本一を狙う理由。

テコンドー元世界女王・濱田真由が30%の出来でも日本一を狙う理由。

 テコンドーの濱田真由をご存じか。

 女子57kg級では長身の部類に入る174cmという背丈を活かした上段蹴りを得意とする、日本の切り札というべき選手だ。

 この韓国発祥のオリンピック競技は“蹴りのボクシング”と言われるほど、目にも止まらぬ速射砲のような連続したダイナミックな蹴り技が最大の魅力。濱田は兄の影響で小1からテコンドーを始め、2011年2月には全日本選手権に初出場で初優勝を果たし一気に表舞台へと躍り出た。

 オリンピックには、ロンドン、リオデジャネイロと連続出場を果たしている。

 2020年の東京も狙う濱田は、昨年7月から11月にかけ海外武者修行へと出かけた。行き先はオーストラリア、アメリカ、イギリス、クロアチア。最大の目的はイギリスで濱田と同じ女子57kg級の世界王者ジェイド・ジョーンズと一緒に練習することだった。

世界選手権女王がリオで屈辱。

「イギリスには、ほかにも強い女子がいっぱい。練習前にちょこっとやるコンディションを整えるようなテコンドー向けのウォーミングアップがとくによかった」

 最初の修行先であるオーストラリアでは同じ57kg級のフィンランド代表も参加した合宿に混ぜてもらった。

「私は復帰したばかりだったので、現地の町道場でちょっとずつ体を慣らしていこうと思いました」

 2015年の世界選手権で濱田は日本人選手として初めて金メダルを獲得するという偉業を成し遂げた。その流れで翌年のリオデジャネイロオリンピックでは優勝候補として期待された。しかし、選手としての最大の長所である伸びる蹴りを放つことなく後手に回り、2回戦敗退に終わった。

 いったい何があったのか。改めて敗因を訊くと、濱田は「リオではやらなければいけないという意識が強かった」と振り返った。

「でも、その時から股関節のケガがあったので、思うように練習を積めていなかったというのもあったかもしれない。それを理由にはしたくないですけど」

股関節の負担をかける蹴り方。

 医者からは「股関節唇(しん)損傷」と診断された。グロインペイン症候群。サッカー選手に多く見られる症状だ。激しいトレーニングによって、足の付け根に痛みが生じる。

 1〜2カ月で改善される症例が多い一方、騙し騙しプレイを続けるトップアスリートの中には痛みと付き合い続けている者も。濱田は後者のケースだった。

 意外にも2015年の世界選手権を迎える直前、症状は最も悪かったという。

「ただ、その前にいっぱい練習を積めていたので。大会の1カ月くらい前から右足の太股が痛くなったけど、(練習のおかげで)融通が利いた感じですね」

 振り返ってみれば、もう4〜5年前から股関節には鈍痛を感じていた。しかし、ケガだとは意識せず、練習と試合をしては休む。そんなサイクルを繰り返していた。

「もともと股関節は柔らかい方だと思うけど、その部分に頼っていた代償のような気がします。股関節に負担をかけるような、おかしな蹴り方をしていた自分が悪い」

海外武者修行での目的とは。

 ケガだということをしっかりと認識したのは、わずか1年ほど前のことだ。

「ケガだと思ったら、うまく向き合えたというか、しっかり受け止めることが大事だと思うようになりました。いろいろわかってきたかなという感じがします」

 だからこそ昨年の長期に及ぶ海外武者修行には現役の世界チャンピオンと一緒に練習する以外にも様々な目的があった。

「いまのオリンピックレベルがどんなものであるのかを徐々に感じたかった」

 試合の勘を取り戻そうと、イギリスとクロアチアでは久々に大会にも出場している。前者ではテコンドーのメジャーな大会のひとつであるグランプリシリーズに出場して初戦敗退に終わったが、後者で開催された国際大会では準優勝を飾ることができた。

「どれくらい今の自分にできるのか。試していた感じでした」

30%でもやらないといけない。

 取材した今年1月下旬の時点で濱田のコンディションは10〜20%。1日の多くの時間をリハビリに当てている状況だ。

「現在は(故郷でもあり、現在の生活の拠点である)佐賀県と東京を行ったり来たり。最近は東京に滞在している方が多い。東京にいる時はリハビリがメインですね」

 来る2月16〜17日には千葉で行われる全日本テコンドー選手権が控える。濱田は自分の体と相談しながら決戦までにコンディションを30%まで引き上げる青写真を描く。

 30%でも優勝できる?

「それでも、やらないといけないので」

 今回濱田は階級をひとつ上げ、62kg級にエントリーした。

「あまり蹴りたくないので、パンチで勝負しようと思っています。相手が自分に合わせられないように距離をズラしながら闘いたい」

 センスとポテンシャルはピカイチ。2011年以降、濱田は出場した全日本選手権では圧倒的な強さを見せつけ優勝を重ねている。ケガというもうひとつの敵と闘いながら、テコンドーの女王はどんなパフォーマンスを魅せてくれるのか。

文=布施鋼治

photograph by Koji Fuse


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