年俸高騰でメジャーのFAが危機?補強をへらす球団、高値を煽る選手。

年俸高騰でメジャーのFAが危機?補強をへらす球団、高値を煽る選手。

 メジャーリーグ選手組合の礎を築いた初代専務理事マービン・ミラーが自著「A Whole Different Ball Game」の中で、こう言っている。

「毎年オフに選手全員がフリーエージェント(FA)になったら、野球界は契約を求める選手で溢れてしまい、買い手市場になって選手の報酬は下がってしまう」

 今、メジャーリーグで起こっていることは、それに近いかもしれない。

 今年もまた、ブライス・ハーパー外野手(前ナショナルズ)やマニー・マチャド内野手(前ドジャース)ら有力なFA選手が市場に残っている。Baseball-Reference.comによると、2月6日の時点で(旧チームとの再契約も含め)所属先が決まったFA選手は406人。決まっていない選手は274人もいる。

 去年は最終的に416人が契約し、118人が契約しなかった(日本や韓国、あるいは米独立リーグと契約した選手、引退した選手を含む)。

 1年前の論争がまた、再燃しそうだ。

選手組合はチームの出し渋りを批判。

 去年の今頃、ダルビッシュ有投手(現カブス)やジェイク・アリエッタ投手(現フィリーズ)など、数多くの有力なフリーエージェント(FA)選手が市場に残っていたことで、メジャーリーグ選手組合専務理事のトニー・クラークがビジネス誌でメジャーリーグの各球団を批判した。

「3分の1ぐらいの球団が、(FAで補強せずに)競争に興味を失っている事態は憂慮すべきだ。それはチームとファンの信頼関係、さらに我々のゲームへの尊厳を脅かすものである。それがどのようにFA市場に影響し、シーズンに影響し、観客動員数に影響するのかは憂慮すべきことだ」

 選手組合の長としては、正しい姿勢である。選手たちに不利益なことが生じているならば、自分が矢面に立って口を開き、それを質そうとする姿勢は頼もしい。

年俸と成績が比例していない?

 ただし、クラーク氏の言うことが突っ込みどころ満載だったのは、昨シーズンが終わった時点で明らかになった。

 選手の年俸総額のトップ10(2018年開幕時)の内、5球団がプレーオフ進出を逃した=金を使っても、勝つとは限らない。

 選手の年俸総額ワースト10の内、2球団がプレーオフに進出した=金を使わなくても、勝つことはできる。

 2018年、メジャーリーグ全体の観客動員数は確かに減った。

 2017年の7267万8797人(1試合平均2万9908人)から、2018年は6967万1272人(同2万8660人)に減った。約300万人もの減だ。

 ただし、アスレチックスやブルワーズといった前出の選手年俸総額総額ワースト10に入っている球団は、プレーオフに進出して観客動員数を増加させた。

 それはプレーオフ争いで健闘したフィリーズも同様で「チームが強ければ客は入る」ことが証明された(中にはパドレスのように成績不振でも営業努力が実って観客動員数を増やした球団さえある)。

球団側は選手側の要求額を批判。

 だから当然、クラーク氏が批判した球団側の長、ロブ・マンフレッド・コミッショナーは真っ向から反論した。

「この時期になってもFA選手が市場に多くいるのは例年と同じです。いつもと違うのは、トップのFA選手たちが9桁(1億ドル超えの意味)に届くかなりのオファーを受けながらサインしていないということ。新しい労使協定の影響や、進んだ分析(≒選手査定)、守備位置の需要などで変動するFA市場において、クライアント(選手)の価値づけを正確に行うのが代理人の責任です。何人かの代理人が市場を正確に評価し損ねた責任を球団に押し付けるのは不公平であり、不当であり、不要な挑発です」

A・ロッドやプホルスの高額契約は成功したか?

 いつだったか「スーパーエージェント」と呼ばれているスコット・ボラス氏が「金額を決めるのは我々ではなく、球団の方です」というようなことを言っていたが、ハーパーやマチャドの契約が決まらないのはまさに、「トップのFA選手たちが9桁(1億ドル超えの意味)に届くかなりのオファーを受けながらサインしていない」からではないか。

 たとえば2000年のオフ、シアトル・マリナーズからFAになった「A・ロッド」ことアレックス・ロドリゲス(現TVコメンテイター)は、子供の頃からの憧れの球団、メッツとの合意目前になって、メッツを上回る高額契約をオファーしたレンジャーズと当時のメジャー最高となる10年2億5200万ドルで契約した。

 今は大谷翔平のチームメイトとして知られるエンゼルスのアルバート・プホルス(元カージナルス)や、今オフ、メッツに移籍したロビンソン・カノが古巣ヤンキースからFAになってマリナーズと高額契約した時も、同じだ。

 彼らは「リスペクトがなかった」と古巣からの再契約オファーへの不満をこぼしながら、市場の原理に則って「より高額な契約」をした。

 だが、彼らは移籍したチームであまり幸せな時間を過ごせなかった。やがてレンジャーズはA・ロッドをヤンキースへ放出し、マリナーズは今オフ、カノをメッツへ放出した。そして、プホルスはエンゼルスで大谷と指名打者の座を分け合わなければならない立場になっている。

FAから育成・分析に資金の投入先が変わった。

 MLBネットワークでコメンテイターのジョエル・シャーマンが過日、面白いことを言っていた。

「昔のGMはチームが勝てないことが理由でクビになっていましたが、近頃はそれに加えて、無駄にお金を使うことでもクビになるのです」

 だから、新進気鋭の編成トップたちは「他球団を出し抜いてFA選手を獲得する」資金を、ファーム組織と育成部門の強化、戦術と分析部門に投入するようになったのだ。FAの有力選手はあくまでの「最後の1ピース」。生え抜き選手が育った後で足りない部分を埋めるためだ。

スーパースターは決まるが、その下は……。

 セイバーメトリクス(統計分析)の積極導入で選手の査定方法が変わった今、一部の有力選手の値段を上げて需要も増やす「古き良き時代」は終わったのかも知れない。

 FA選手に頼らず、生え抜き選手の育成を根幹にチーム構築法を考える球団が増えれば、FAになる選手は例年通りでも自然と供給過多になり、結果的に商品=FA選手を減らすか、値段=年俸を下げて需要を増やすしかない。それが市場原理というものだ。

 ハーパーやマチャドの所属先はその内、決まるだろう。心配なのは「買い控え傾向」にのみ込まれた他のFA選手たちで、彼らにとって今冬はとてつもなく長く感じられるだろう。

 我々メディアにとっても、この2年は大きなニュースのない長く退屈なオフシーズンが続いている。今の労使協定が失効する2021年まで、毎オフそうなるのかと思うと、ゾッとする。

文=ナガオ勝司

photograph by AFLO


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