松井裕樹は守護神を再び奪い取る。心に秘めた「今年、見てろよ!」。

松井裕樹は守護神を再び奪い取る。心に秘めた「今年、見てろよ!」。

 伸びのあるストレートが勢いよく捕手のミットに収まる。ボールが狙ったコースより少し高くても気にしない。いい感覚を忘れたくないと自分に言い聞かせるように、楽天の松井裕樹は躊躇することなく滑らかに腕を振る。

 久米島での春季キャンプ。松井の球質は第1クールからほぼ仕上がっているように映った。「非常に、調子がよろしい印象があるけど」。少しフランクに様子を窺うと、「非常に、調子がよろしいです」と質問を反芻するように答えるだけの余裕もあった。

「ここ数年では一番いいですね。今までのこの時期なら、『このコースに投げたい』って意識が持てない状態だったんですけど、今年は多少、ボールが高くてもコントロールできていますね。

 フォームの部分でも、下半身をうまく使ってリラックスして投げられる確率が高くなっていますし。去年の12月から1月にかけての自主トレで取り組んできたことがちゃんと出せていると思います」

 表情はすこぶる明るい。

何度も口にする「やり返したい」。

 松井は今年、「ここ数年では一番いい」と同時に、ここ数年で最も悲壮感を秘めたシーズンを迎えようとしている。

 競争を前面に打ち出す平石洋介監督の方針は、守護神であっても例外ではない。昨年、プロ野球史上最年少で100セーブをマークした松井ではあるが、抑えに転向してから最も少ない5セーブと苦悩の1年を送った。厳しい現実は自身も重々理解していることだ。

「自分では後ろ(守護神)で投げたい気持ちはありますけど、監督からは何も言われていないので争う覚悟はあります。自主トレから抑えをやるために練習してきましたし」

 松井は1月の公開自主トレから、何度も「やり返したい」と口にしている。それは、2017年まで3年連続で30セーブを挙げ、「不動の守護神」と呼ばれた男の意地だ。

 今でも忘れてはいない。昨年のZOZOマリンでのロッテとの開幕戦。1点リードの9回にマウンドに上がったが、痛打を浴び同点とされた。チームは延長戦を制して勝利したものの、オープニングゲームでの悔いは松井の脳裏に今も焼き付いている。奇しくも、今年も同じ舞台で開幕戦が控えている。

久々の先発が1つのヒントに。

「今年もZOZOマリンで開幕するんで、必ずリベンジしたい」

 これも松井が繰り返し述べていることだ。思えばこの試合での痛恨から歯車が狂った。30セーブが当たり前だった男は昨季、5勝8敗、5セーブ。防御率3.65と近年で最も低調なパフォーマンスに終わった。自身への憤りも、守護神への意欲を掻き立てる。

 とはいえ、何も収穫がない1年だったかと言えば、そうではない。

 ヒントはシーズン終盤に上がった、2試合の先発マウンドにある。

 新人だった'14年以来となる9月27日のロッテ戦で5回無失点、7奪三振で勝利投手となった。10月4日の日本ハム戦でも、敗戦投手にこそなったものの7者連続を含む6回14奪三振と持ち味を発揮した。

「あの2試合は、力を入れなくても140km中盤の真っすぐを投げられたんですね。フォームの感覚もすごくよかったんで、この状態を今年('19年)まで持続させたかった」

オフに取り組んだフォーム改善。

 松井が手応えを抱いた感覚。それを技術的な要素に落とし込み、今年へ向けフォーム改善のサポートをしたのが、彼の自主トレにも同行するトレーニングコーチの星洋介だ。 

 ポイントは右足。ボールをリリースするのと同時に、踏み出す右足をしっかり伸ばす。スムーズな体重移動でその再現性を高めることによって、松井が好感触を抱く、リラックスした状態で勢いのあるボールが投げられるというのだ。

 シーズンオフの12月にその提案をした星が、意図を解説する。

「去年の松井は、リリースと右足の使い方のバランスがよくなかったので右肩の開きが早かった。だから、ボールに十分な力が伝わりませんでしたし、コントロールもできなかったんです。それが、先発した2試合はうまく右足を使えていたんで、『右足を起点に上体をリラックスして動かしていけば、全体のバランスもよくなる』と話しました」

 松井はプロになって初めて、無休のオフを過ごした。「いつまでも力投型で投げ続けられない。いつかは変えないとダメだと思っていた」と言う。

平石監督の「奪いに来い!」。

 1月の自主トレでは、ヤンキースの田中からアドバイスを受けることでフォームを固めていった。 ここ数年で一番いい状態と語るキャンプ。松井の順調な仕上がりは、平石監督の目にも同じように映っているようだ。

「動きが非常にいい。ボールもフォームのバランスも、すごくいい状態だと思いますね。去年、苦しんだ分、ひと皮むけたというかね、今年は成長した松井を見られるんじゃないかなって思って見ています」

 指揮官も認めている。だからといって、現時点で「守護神候補」とは明言しない。

「奪いに来い!」

 平石監督は松井へのメッセージを強めた。

「本人にもそう言っていますしね。後ろで投げたい気持ちは誰よりも強いのは僕も知っていますし、本人が一番わかっている」

 指揮官の言葉を報道陣から伝え聞かされた松井は「よっしゃ!」とこぶしを握り、呼応するように守護神争いに宣戦布告する。

「監督がそう見てくれているのは嬉しいですね。僕も『9回以外は投げるつもりはない』って気持ちでやっているんで」

 闘争心がグツグツと湧き上がる。

「あります、全然あります!」

 メディアの前では言葉を選びながら話す松井ではあるが、その熱さが冷めることはない。

――心のなかでは「今年見てろよ、この野郎!」って、感情をさらけ出しながら見返したい気持ちが強いんじゃないの?

 松井の心情に探りを入れると、「わかります?」と不敵に笑う。

「あります、あります。全然あります! もちろん前向きな感情ですけどね。そういう想いは、今年は特に強いです」

 キャンプのブルペンで捕手の乾いたミットの音が反響する。ボールをリリースする左腕と右足が前を向く。その先にあるのは、松井の本来の居場所である。

文=田口元義

photograph by Genki Taguchi


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