J2新潟・早川史哉が復帰できたから楽しめる「サッカーの難しさ」とは。

J2新潟・早川史哉が復帰できたから楽しめる「サッカーの難しさ」とは。

 サッカーのピッチは他の競技と比べると広い。最大で縦110m×横75mの広大なスペースの中に選手が11対11で配置され、複雑に絡み合った動きとボールに対応しなければいけない。

 ごく当たり前のことだが、アルビレックス新潟のDF早川史哉は、「サッカー」というスポーツの難しさを体感している最中にある。

 早川は昨年に急性白血病から復帰すると、11月には選手契約の凍結が解除され、正式に新潟の選手として復帰。現在、新シーズンを控えた高知キャンプでフルメニューをこなすまでに復調した。

 そんな彼は今、改めてサッカーというものの難しさ、奥深さに直面している。

頭と身体のリンクの難しさ。

「自分のイメージが全然作れていないと思います。違和感しかないですね」

 2月2日に行われたカマタマーレ讃岐との練習試合。45分×3本で行われた練習試合の3本目に、早川はCBとして出場した。

 2本目終了の段階で2−0でリードしていた新潟だったが、この45分間で2失点し、一時は同点に追いつかれた。結果的には4−2で勝利したが、早川にとっては到底納得のいく出来ではなかった。

「まだ試合に入れていないと感じます。試合勘もなくなっているけど、それ以上に『ここなのかな』と思っている場所が実際と全然違って、自分の位置把握が難しいんです。ボールに寄せたりスライディングで奪えてはいるんですが、空間的な把握となると少し不安がよぎる。特にクロスが難しくて、振られた時にどこに戻るか、距離を詰めるかがなかなか一致しないんです。

 あとは自分達がボールを持って、ボランチが前にいる場合です。ボランチに任せないで、自分が前に出ればアタッカーも前に押し出せるからいんだけど、わざわざボランチを下げさせて、自分も後ろに下がってしまう。映像を見ると、もっと速く動き出したいけど遅い。頭と身体のリンクさせる感覚が“気持ち悪い”んです。自分の身体がいつ動いて、移動中にどこまで動ききれるのか。そこの感覚もまだ出せてないんです」

予測がアジャストしないキツさ。

 実際、インターセプトや1対1になった時の対応力、奪ってからの縦パスや、ポゼッションの際のパスの質は驚くほど良くなっている。

 だが、ライナーのクロスが送り込まれたシーンでは、ボールを早く見切る中途半端なポジショニングだったり、戻るべき位置に戻れなかったり、ポジションが深すぎてビルドアップできなかったりと、組織の中でのエラーが散見された。

「ある程度動けるようにはなりました。今まではなかなかスプリントを出せなかったし、GPSで毎日測っていても最高スピードが出なかったけど、ここ最近は徐々に近い数字が出るようになった。寄せるスピードが上がって、自分のイメージと一致してきたんです。身体が動けるから、ボールを奪えるようになった。でも11対11で試合をすると、認知の部分が欠けていることを痛感しました。

 今日の試合を振り返っても、軌道の予測がまだできていない。予測しているつもりだけど、それが現実とアジャストしない……。もしかすると、今まで病気になってから一番キツい時かもしれません。身体はこれまでで一番キツくないけど、心のダメージが大きい」

チームの中で自分が生きるか。

 早川の最大の武器は広い視野と的確な状況判断と危機察知能力、洞察力だ。それをベースにポジショニングを取り、攻撃の起点となるパスを繰り出す。良質のアコーディオンのように自由自在に変化しながら、チームにとって心地よい音色を出していく選手だ。

 だからこそ、早川史哉にとって「生命線」と言える壁を乗り越えないと、その先の世界はない。そう言っても過言ではないほど重要な段階だ。そのことを彼も十分に理解している。

「今の自分は『何も良さが出せていない、ただの選手』。最大のアピールポイントが出せないなら、選手として勝負できていない。言うならば『凡人』なんです。そこを戻せないと先には進めない」

 だが、この壁までたどり着いたのは、彼にとって大きな前進を意味する。

 これまでは体力、ボールへの感触、ステップやスピードを戻そうとしてきたが、今年に入ってからは“縦110m×横75mのフルコートの、11人対11人のうちの1人”としてどう力を発揮するかという段階に移行できた。

 つまり、“自分を鍛える”部分から“チームの中において自分を鍛える”という相対的な部分に変化した。そのステージまでに行けたこと自体が凄いことで、ここから新たなレベルの挑戦に足を踏み入れている証拠だ。

今までは自主トレレベルだった。

 間違いなく停滞ではなく、前進。正真正銘、早川史哉はプロサッカーのピッチに戻ってきたのだ。

「はっきり言って、今まではサッカーをやっていた感触はない。あくまで自主トレレベルだった。でも、今はサッカーをやっている。最初は単純に動けなかった悔しさが強かったけど、今は組織の一員として凄く悔しさを覚える。チームの一員としての義務が果たせていない悔しさ、情けなさが出てきたんです。周りにも迷惑をかけてしまっている認識もあるからこそ、より自分が情けなく思う」

 正直な想いを吐露する早川だが、こんな確信も手に入れている。

「以前は練習試合の映像を見て『こういう現象が起きている』と振り返ることすらできていなかったし、自分自身の違和感、現状を把握できてなかった。裏を返せば、ようやくそのレベルまで辿り着けたということです。頭の中が活性化してきたから、試合中の感覚と照らし合わせて『あ、こうあるべきだ』と認識できているし、『次はこうしよう』と考えられる。それは僕にとって大きな前身ですし、将来への希望だと思います」

悔しい反面、幸せでもある。

 空間認知の徹底。そこが今後の課題だろう。今は点と点がズレている感覚だが、それが合わさった瞬間に未来が見える。そして何より、これは決して漠然としていない、明確な課題だ。

「悔しい反面、幸せでもあるのかなと。動けるようになって、このキャンプに参加できているからこそ見えて来たものがある。そういう風に捉えれば、ものすごくポジティブだと思う。それに『壁の正体』が分かっているからこそ、自分がどうやるべきか。ここで持ち前の気持ちの強さを発揮出来るかなと思います」。

 いちアスリートの悩みから、フットボーラーとしての悩みに進化した。これまで幾多の苦しい現実と大きな壁に直面しながらも、這い上がって前進し続けている男だからこそ――この壁の先の新しい景色を見るために、早川は今を戦い続ける。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando


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