走り高跳びで13年ぶり日本新記録。実業団を断り海外で育った戸邉直人。

走り高跳びで13年ぶり日本新記録。実業団を断り海外で育った戸邉直人。

 素晴らしい記録のニュースが海外から飛び込んできた。

 2月2日、ドイツ・カールスルーエで行われた陸上の室内競技会で、男子走り高跳びの戸邉直人が2m35の日本新記録で優勝したのである。これまでの記録は、2006年の日本選手権で醍醐直幸がマークした2m33。実に13年ぶりに塗り替えられることとなった。

 また室内日本記録も醍醐が2006年に樹立した2m28だったが、こちらも同じく13年ぶりの更新だ。

 この記録が示したのは、戸邉の五輪でのメダル獲得が現実味を帯びてきたという事実だ。2016年のリオデジャネイロ五輪の結果に照らし合わせてみると銅メダルに相当し、昨年の世界ランキングでも5位にあたる。

 走り高跳びは体格(身長)による面が大きいのか、日本選手があまり実績を残せずにきた種目だ。オリンピックの成績を例にとっても、戦後の大会の入賞者は男子がゼロ、女子も1992年バルセロナ大会の佐藤恵(7位)のみ。そういう点を考えても、価値の大きな日本記録だと言える。

大学時代から単身海外に渡る。

「ここまで跳べるとは思っていなかった」

 試合を終えて、戸邉はこうコメントした。シーズン初戦であり、現状を確かめるテストの意味合いもあった場だろう。だからここまでの記録が出たことに驚きがあっても自然なのかもしれない。しかし、戸邉が独自の道を歩みながら、競技に打ち込んできた蓄積の賜物だと言うこともできる。

 戸邉は高校3年生のとき、インターハイと国体で優勝した。高校記録も20年ぶりに更新して注目を集め、その後筑波大学に進学する。ここで戸邉は練習の場を大学の域に留めなかった。3年生になったとき、短期間ではあったが単身スウェーデンに渡り、後にエストニアでも練習を積んだ。

実業団からの勧誘を断ってヨーロッパへ。

 こうした決断の背景には、決められた練習メニューをこなすのではなく、選手自身が考えて競技に取り組む筑波大の環境があった。試行錯誤を繰り返す中で、やがてヨーロッパのトレーニング方法を学びたいという思いに駆られ、実行したのである。

 その意志を、大学卒業後も貫いた。大学2年生のとき、日本選手権で初優勝を遂げると、4年時には2m28と自己ベストを更新。2m30台間近に迫った戸邉には当然、実業団からの勧誘があった。しかしそれを断ったのは、ヨーロッパを活動拠点とすることに重きを置くためだった。そして最高峰の大会であるダイヤモンドリーグに参戦するなどしながら、強化に取り組んだ。

 そして、2014年には2m31を跳ぶなど何度も2m30台をマーク。たしかな地力の向上を見せ、2015年には世界選手権に出場した。

 2016年のリオデジャネイロ五輪などでも活躍が期待されたが、怪我の影響などで記録は伸び悩んだ。

 しかし昨年には、日本歴代2位となる2m32をマークして復活。そして今回の日本新記録となったのである。

探究心、行動力、高身長。

 大学で体験した自身で考える環境が性に合ったのか、その後は筑波大学大学院で走り高跳びの研究に勤しむようになるなど、探究心は強い。「より高く」の思いから、実業団という安定した場所とは異なる道を選ぶ行動力もあった。

 そして身長194cmという、日本の選手としては恵まれた体格を持つことも記録更新の要因の1つだろう。

 こうした点を考えても、日本勢が苦しんできた走り高跳びで新たな道を切り開く期待が集まっている。あとは怪我なく、高いレベルで安定した記録を出し続け、その中で記録のベースを上げられるかが鍵を握る。

東京五輪のためのポテンシャル。

 世界記録は2m40を超えているが、オリンピックで2m40以上の記録を出した選手はいない。直近の8大会を見ても、金メダルの記録は2m34から2m39の範囲内におさまる。

 大舞台では、勝負を最優先として駆け引きが繰り広げられる。通常とは異なる緊張感が漂うのは海外の選手も変わりない。だから世界記録には届かないところでメダルは決まってきた。

 本人も目標とする2020年東京五輪でのメダル獲得に向けて、まだ課題はある。それでも、今回の日本新記録は、その可能性とポテンシャルをあらためて感じさせた。

 オリンピックのプレシーズンにどこまでの結果を残せるか、注目される。

文=松原孝臣

photograph by Getty Images


関連ニュースをもっと見る

関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索