バレー石川祐希、イタリアで変貌。「代表でもバトルがあっていい」

バレー石川祐希、イタリアで変貌。「代表でもバトルがあっていい」

 助走から迷いがない。

 高い打点でボールをとらえるだけでなく、腕もよく振れ、床に叩きつけられたスパイク音の響きが重い。

「調子は悪くないし、上がっています。でもなかなか勝てない。それじゃあダメですよね」

 チームの成績は14チーム中13位、21試合を終え2勝19敗と厳しい状況ではあるのだが、各国の代表選手が揃う世界のトップリーグでケガもなくほぼフル出場。プロのバレーボール選手としてスタートを切った今季、セリエA1に昇格したばかりのシエナでプレーする石川祐希の表情は明るい。

大げさでなく、チームの軸に。

 大げさではなく、チームで攻守の軸を担っているといっても過言ではない。

 2月2日、ホームで迎えたパドヴァ戦も1、2セットを落とし、3、4セットを連取。最終セットに入る前のわずかなセット間、ベンチの前では石川の対角に入る元イタリア代表のウィングスパイカーであるクリスティアン・サバーニと、イラン代表のセッターで主将も務めるサイード・マルーフと3人で小さな輪をつくった。

「プロ1年目の今シーズンは試合に出続けることを目標に掲げてきて、現段階ではちゃんと実現できています。だからフルセットに入る前の大事な場面でもマルーフから声をかけてくれるし、要所でトスを上げて、頼ってもらえる。それがチームの中心でいられるということにもつながっているのだと思いますし、やっと自分の普通というか、カラダをかばうことなくプレーできている実感はあります」

 試合はフルセット負け。「もったいない」と苦笑いを浮かべたが、うなだれるのではなく堂々と話す姿は、充実感で満ち溢れていた。

どこかしら痛いのが当たり前だった。

 学生時代は負け知らず。星城高ではインターハイ、春高を含めた主要タイトルをすべて制し、2、3年で6冠を達成。小中学校から共にプレーし、現在はVリーグのジェイテクトスティングスに属するセッターの中根聡太はこう言った。

「石川からトスの注文をつけられたことはありません。どんな状況でも、どんなトスでも打ってくれる。セッターからしたらこんなに心強い存在はいませんでした」

 中央大1年の2014年に日本代表へ選出され、アジア大会やワールドカップで華々しい活躍を残す一方、相次ぐケガにも見舞われた。どこかしら痛いのが当たり前だった、という状況で大学、イタリア、日本代表とフル稼働するも、1シーズンまともにケガなく戦い切れたことはない。

 自分なりのルーティーンやこだわりがある一方で、周囲から「こうしたほうがいい」と言われれば拒めず、過酷な環境でもOKサインを出し続けて来たことが体の悲鳴につながった。

「だいぶ注文するようになった」

 学生時代までならばそれでもいい。だが石川が選んだプロという道を歩む以上、自身のコンディションを整えるのも自己責任で、評価されるのは結果のみ。その厳しい環境で生き残るためには、セッターにもほしいトスを要求せず何でもOK、ではやっていけない。

「マルーフのトスはすごくきれいだし、質もいい。でもパイプの時に低くなることも多いし、すべて正確かというとそうではないんです。低くなった時に対処するのも自分のすべきことではありますが、打ちやすい高さを要求したり、ここで欲しい、というのはちゃんと伝える。

 損するのも得するのも、嬉しいのもダメになるのも自分なので、そこは個人として意識しないといけないですし、マルーフにもだいぶ注文するようになって、今はお互いの感覚でタイミングがわかってきました」

 迷いなく打ちつける伸びやかなスパイクは、意識と行動の変化が生み出した賜物だった。

 イタリアに初めて来た18歳の頃は苦いコーヒーが飲めず、日々の食事もパスタとピザのローテーション。あれから4年の月日が流れ、世界選手権を終えた直後の9月から間もなく半年が経つ今は、野菜や鶏肉を煮込んだり、肉を焼いたり、自炊の機会も増え、エスプレッソを少し薄めたアメリカーノを、好んで飲むようになった。

ストレスが石川を強くする。

 変わったのは食生活だけではなく、バレーボールに対する考え方もそう。

 チームメイトはイタリアだけでなくイラン、キューバなど国籍もバラバラで個性も強い。たとえばブロックの位置取り1つとっても、失敗したら自分が悪いと言う選手もいれば、人のせいにする選手、監督の指示が悪いと主張する選手もいる。

 1本1本のプレーで「なぜそうしたのか」とぶつかり合うのは当たり前。石川自身も「日本人同士だとお互いわかり合っている中でできるのに対して、バラバラな中で1つのチームをつくる。そのストレスを感じながらバレーをすることで自分も強くなるし、そこで負けるようなモチベーションやメンタルでは生き残れない」と実感している。

 そしてそれこそが日本代表にも必要だ、と言う。

「お互いが本当に納得するためには、監督やコーチに言われることを何でもOKではなく、選手ももっと主張しないといけないし、もっと代表内での戦いというか、バトルがあっていいと思うんです。僕はやっぱり代表は強くなければいけないと思っているので、そのためには選手も変わるべきだと思います」

「海外を選ぶことは特別じゃない」

 昨季の代表候補メンバーで海外リーグに属するのは石川、ポーランドでプレーする柳田将洋、古賀太一郎と、フランスでプレーする本間隆太のみ。バレーボール界ではまだ少数の彼らを日本では「海外組」と呼ぶのが現状だ。

 昨季、日本代表で主将を務めた柳田はこう言う。

「海外を選ぶことは特別じゃないし、むしろ石川や自分のように日本の中心とされる選手が属するチームは、そのリーグで下位にいるのが現実です。僕らはそこに身を置くことで、上にいるクラブのすごさ、そしてそこにはイタリア代表、ポーランド代表の主軸を担う選手がたくさんいることを知っている。だからここにどう勝って行けばいいのかと日本代表として考えると、焦りしかないです」

「オリンピックは特別。ましてや東京」

 石川も同様だ。限られた時間で「やるべきことは果てしなくある」と日本代表について語る、石川の言葉に熱が帯びた。

「世界選手権の結果をみれば、『男子バレーは勝てない』と、観てくださる方の評価が低いのは当然です。でもだからこそ、そこを覆したい。絶対にチャンスはあると思っているし、そのためにもっと自分を高めたい。だから僕は海外でやっているし、その経験を言葉で伝えるのではなく、姿で示す。

 もちろん柳田選手や古賀選手と一緒に、僕らが中心になってチームを引っ張っていかなければなりませんが、選手、監督、協会も含めたバレーボール関係者がどれだけ本気になれるかだと思うし、ここで本気にならないと結果は出ない。やっぱり誰だってみんな、勝ちたい。オリンピックは特別で、ましてやそれが東京であるのに、そこで『負けました』で終わっちゃったらカッコ悪いじゃないですか」

調子がいいならチームを勝たせたい。

 だからこそ、と今の自分に話を向ける。

「今シーズン、これだけ負けているのに何を言っているんだ、って思われるかもしれません。でもそういう状況にいるから学べることもある。自分自身は調子がいいので周りにアプローチもできるし、面白くて楽しいですけど、それだけで終わったら無責任ですよね。自分の調子がいいならチームを勝たせろよ、って思われて当然。プロですから。残り試合は少ないですけど、次のステージに向けて、僕もトライしていきたいです」

 負けから学ぶことはいくつもある。でもそれは、最後に勝つからこそ、面白い。

 海外でプレーすること、好調を保ち試合に出続けること、チームを勝たせること、そして日本代表で勝つこと。それはすべて、自分が為すべきこと。

 特別ではなく、当たり前に。見上げるのではなく、石川は前を見据えている。

文=田中夕子

photograph by Takahisa Hirano


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