<WTA「BNPパリバ・オープン」展望>大坂なおみ、連覇への険しい挑戦。

<WTA「BNPパリバ・オープン」展望>大坂なおみ、連覇への険しい挑戦。

 今年一つ目のWTA〈プレミア・マンダトリー〉であり、同じく今年一つ目のATP〈マスターズ1000〉である『BNPパリバ・オープン』が間もなく開幕する。

〈プレミア・マンダトリー〉は年間4大会しかなく、その中でもシングルスのドロー数が96あるのは、このインディアンウェルズと、すぐ翌週に続くマイアミの2大会だけ。今年のシングルス優勝賞金は135万4010ドル(約1億5000万円)で、文字通りグランドスラムに次ぐビッグイベントである。

『BNPパリバ・オープン』は大会の正式名称だが、テニス界では、いつ変わるかわからない冠スポンサーの名前ではなく開催地で大会を呼ぶのが慣例だ。『インディアンウェルズ』。42年の歴史を持つテニス大会の開催地でなければ、ほとんどの日本人が恐らく耳にすることもないこの地名は、だからこそ特別な響きがある。南カリフォルニアの砂漠地帯に築かれた高級リゾート都市で、リッチな人々が作り上げるテニスの祭典は、プレーヤーが選ぶ『トーナメント・オブ・ザ・イヤー』でも男女ともに過去5年連続で選ばれている。

 実は、砂漠地帯特有の乾いた空気のせいかボールがよく飛び、「打球感覚が得られない」とこぼす選手も少なくないのだが、それを補う環境と運営のクオリティの高さなのだ。選手にとっての居心地の良さは、パフォーマンスのクオリティに反映されてファンを喜ばせる。気温30度前後のカラリとした3月の気候も、テニスを味わうのにうってつけだ。

昨年のインディアンウェルズで初優勝。

 21歳の新女王・大坂なおみのシンデレラ・ストーリーは、昨年のこの場所から始まった。

 グランドスラムデビューも果たした2016年の1年間で世界ランキングを144位から40位まで上げた大坂は、しかし翌年は伸び悩んだ。グランドスラムはあいかわらず3回戦の壁を突破できず、ツアーでもベスト8が精一杯という状況。背負っていた『将来の女王候補』という肩書きが不安気に一人歩きし始めていた。

 そんな中、2018年のスタートは全豪オープンの4回戦進出で壁を一つ越え、このインディアンウェルズでマリア・シャラポワ、アグニェスカ・ラドバンスカ、カロリナ・プリスコバ、シモナ・ハレプというビッグネームを次々と倒しての見事なツアー初優勝を果たしたのだ。

 インディアンウェルズはここ数年は番狂わせが多く、過去5年で一桁ランキングの選手が優勝したのは2015年の当時3位だったシモナ・ハレプのみ。プレミア・マンダトリーの他大会(マイアミ、マドリッド、北京)と比べても“番狂わせ度”は顕著だが、その中でも世界ランク44位だった大坂の優勝は劇的だった。

 しかしその後は決して順風満帆ではなく、「インディアンウェルズのあと、みんなが自分を倒そうと向かってくるのがわかったし、私も全ての試合に勝たないといけないようなプレッシャーを感じた」と、多少のスランプも経験した。が、そういう時期があったからこその半年後の全米オープン制覇だっただろう。さらに、年明けの全豪オープンを制して史上26人目の女子世界ナンバーワンとなり、〈大坂時代〉の幕開けを高らかに宣言した。

バインが抜け、新コーチ決定。

 あのターニングポイントから1年。大坂にとってはディフェンディング・チャンピオンとして出場する初めての大会となる。若き女王として、ただでさえ注目される大会だ。そこへきて、ここまでのサクセスストーリーに欠かせなかったはずのサーシャ・バインをコーチから解任した騒動を巡り、注目度はますます増している。10代の頃から「有名になりたい」「注目されるのは大好き」と無邪気に話していたものだが、今回自分に向けられる視線の種類は心地好いものではなかった。

「みんなが自分を見ているような気がする。いい意味で見ているのではないことも感じる」

 全豪オープン優勝後初の試合となったドバイでの初戦敗退は「まさかの」と報じられたが、その精神状態を考えれば十分に予測できた。追われるだけの立場の恐怖と不安は、経験した者にしかわからないだろう。

「最悪だった」「悲惨だった」と表現した敗戦から2週間あまり。バインの抜けたチームには、今度はかつてビーナス・ウィリアムズのヒッティング・パートナーだったジャーメイン・ジェンキンスというアメリカ人が加わった。これをプラスの刺激として自らを立て直し、連覇への挑戦のスタートラインにつくことはできるだろうか。

セリーナにとっては因縁の場所。

 拭いきれない不安材料に思いを寄せるとき、恐らくアスリートとしてありとあらゆるプレッシャーと試練を乗り越えてきた絶対的な“女王”の存在が浮かぶ。

 セリーナ・ウィリアムズ。

 インディアンウェルズはセリーナにとって因縁の場所だ。2001年のこの大会で観客から不当な扱いを受けた事件をきっかけに、翌年から姉ビーナスとともに出場をボイコット。どんなペナルティを科されようとも、セリーナの出場拒否は2014年まで実に13年間続いた。1999年、2001年と2度優勝しているが、2015年に大会復帰してからはトロフィーに手が届いていない。出産後の復帰からちょうど1年。昨年はウィンブルドンと全米オープンで準優勝に終わったセリーナが、そろそろ何かやりそうな予感もする。

 現役選手でセリーナ以外に複数優勝の実績があるのは、マリア・シャラポワ(2006年と2013年)とビクトリア・アザレンカ(2012年と2016年)のみ。いずれも複数のグランドスラム・タイトルを持つ元女王だが、シャラポワは右肩のケガのため欠場が決まっており、現在世界ランク50位のアザレンカは出産後の復帰からまだ完全復活とはいえない状況だ。

復活のクビトバ、大坂世代の台頭。

 現在のトッププレーヤーの中では、2015年の優勝者でもあるハレプや、2011年に優勝、2013年に準優勝しているカロライン・ウォズニアッキが大会と相性がいい。プリスコバとアンジェリック・ケルバーはベスト4が2回。強盗の襲撃による左手負傷から全豪オープンの準優勝で完全復活したペトラ・クビトバはベスト8が最高だが、やはり気になるベテランの一人だ。

 他の大坂世代にも期待は大きい。

 昨年、大坂と決勝を戦ったのは同い年のダリア・カサキナだった。この1997年生まれのグループは逸材揃いで、パワーの大坂と技巧派のカサキナとの好対照の対決は「未来の女王対決」と呼ばれたものだ。ちなみに、2017年の全仏オープンでノーシードからの優勝を果たしたエレナ・オスタペンコも同じ97年生まれだが、カサキナもこのオスタペンコもこのところやや停滞気味だ。

 その中で、復活してきたのがベリンダ・ベンチッチ。97年組の中で誰よりも早くトップ10入りし、18歳のときにすでに7位をマークしたのだが、2017年は左手首の手術で5ケ月間ツアーを離れて一時は300位台までランキングを落とした。大坂が初戦で敗れたドバイで1年8ケ月ぶりのツアータイトルを手にし、意気揚々とインディアンウェルズに乗り込む。

 大坂なおみという大スターの誕生を目の当たりにした人々は、今年も胸躍るドラマを待っている。誰が、どう応えるのだろう。大坂のみならず、個性豊かなライバルたちのストーリーにもぜひ心を寄せてみてほしい。

文=山口奈緒美

photograph by AFLO


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