産休から復帰した竹下佳江の挑戦。「怒るより響くことを言う」監督術。

産休から復帰した竹下佳江の挑戦。「怒るより響くことを言う」監督術。

 2016年に誕生し、ロンドン五輪銅メダリストの竹下佳江監督のもと成長を続けてきた女子バレーボールのプロチーム「ヴィクトリーナ姫路」が、国内リーグV.LEAGUEのDIVISION1(V1)昇格をかけて戦っている。

 姫路は今シーズン、V.LEAGUEのDIVISION2(V2)に参入したばかりだが、レギュラーラウンドは17勝1敗という圧倒的な成績で52ポイントを獲得し、1位でファイナル6に進出した。

 レギュラーラウンドの上位6チームが争うファイナル6では、1位になったチームはV1昇格が決まり、2位のチームはV1の下位チームとのチャレンジマッチ(入替戦)に臨むことになる。

 姫路が地域リーグで戦った昨シーズンは産休に入っていたため、竹下監督にとっては、長期のリーグ戦で指揮を執るのは今季が初めてのこと。「日々勉強です」と苦笑する。

「自分自身は(指導者としての)キャリアがない監督で、コーチたちにすごく助けてもらっている部分は多いんですが、選手時代には考えなかったことを今はすごく考えているし、決断しないといけないことも出てきます。やっぱり選手起用であったり……。

 人数が増えれば悩みも増えます。コートに立てる人、立てない人というのが出てくるので、フォローしないといけない部分であったり、逆にドライでいないといけない部分もあります。情だけでは解決できないことが出てくるので、難しいなと感じる部分はありますね」

創部当初の3人から今は22人。

 3年前にたった3人の選手でスタートしたチームは、今年内定選手6人を加え、22人の大所帯となった。以前は、どうやって選手を集めるか、少ない人数でどうやりくりするかに苦心していたが、今季は違う難しさに直面している。
 
 現役復帰した選手や、他チームから移籍した選手、トライアウト受験など、選手の入団の経緯はさまざま。その1人1人の境遇に監督として寄り添ってきたからこそ悩みもある。

「シビアな世界だから、結果を出せるか出せないかで大きく変わってくる。それは選手たちもわかっているとは思うんですが、それでもメンタルのやりどころが難しいのもわかります。
 
 人間って感情の生き物だから、やっぱり感情はあるじゃないですか。情だってある。自分は選手に一番近いところにいる監督だと思っているので、選手の感情や葛藤、1人1人がどういう頑張り方をしているかというのはよく見えているんですが、それだけでは解決できない問題を、私が決断しないといけない。そこは入り込みすぎず、ちゃんとフラットな目で見てあげないといけないなというのはあります。

 振り返るといろんな指導者がいて、情で頑張っていた人もきっといただろうし、そこはフラットでいなきゃいけないということでドライな監督もいました。やはりここは実力社会なので、強い者がコートに立つという、ドライなところは持っていないといけないなとは思っています」

V1参入に向け、徐々に戦力も充実。

 V2に参入する今季に向け、昨年は新卒で4人の選手を獲得したほか、V1のJTマーヴェラスから移籍した金杉由香やブラジル出身のスエレ・オリヴェイラを補強した。

 レギュラーラウンドでは新人のミドルブロッカー吉岡可奈がアタック決定率、サーブ効果率でリーグトップに立つ活躍を見せた。リーグ途中からは内定選手も加わり、ユニバーシアード代表候補のアウトサイド貞包里穂は、すでにレギュラーとして起用されている。

 今年の内定選手には、4年前に高校三冠(インターハイ、国体、春高バレー)を達成した金蘭会高校の司令塔だった堀込奈央もいる。竹下監督と似て、身長158cmと小柄だが、正確かつクレバーなトスで攻撃陣を操り、主将としても抜群のキャプテンシーを発揮していた。

 バレーは大学で終えるつもりだったが、昨年、姫路のトライアウトの話を聞き、チャレンジすることを決めた。まだチームに合流して間もないが、堀込は目を輝かせながら言う。

「竹下さんは、身長が小さくてもバレーができるというのを一番教えてくれた人。これまで技術的なことはほとんど独学だったんですけど、今は竹下さんに手の使い方など技術を教えてもらって、『あ、そんな技があるんやな』と実感しています。今からどうやってうまくなろうかなとワクワクしています」

セカンドキャリアのサポートも。

 これまでは、チーム発足時からのメンバー河合由貴、片下恭子、筒井視穂子の3人や、高木理江、浅津ゆうこといったV1リーグ経験者がチームを支えてきたが、それを受け継ぐ選手たちが着々と加わってきている。

 ただ、加わる選手がいれば、退団する選手もいる。プロチームとして、姫路はそうした選手たちのセカンドキャリアをサポートする準備も進めている。

 これまでも退団する選手には個別に就職先を紹介するなどしてきたが、今後は地元の企業の協力を得て、システムとして構築していく予定だ。

支援企業はなんと約280社。

 ファイナル6の第1週は3月2、3日に姫路市のウインク体育館で開催された。ファイナル6はホームゲーム制ではないため姫路のホームゲームではないが、地元の人々が大勢応援に駆けつけた。

 橋本明球団社長は、会場を見渡しながら感慨深げにこう語った。

「最初は苦しかったですが、今は楽しくなってきました。以前はなかなかヴィクトリーナの試合を観てもらう機会がなかったので、営業に行っても、『本当に活動しているのか?』、『なんか記者会見ばかりやってるね』と言われました。

 でも今季はホームゲームを開催できましたし、こうして地元の人たちに見ていただける機会ができて本当によかった。早く上(V1)にあがりたいですね」

 今やスポンサー、後援会を含めヴィクトリーナ姫路を支援する企業は約280社にのぼる。ユニフォームやチームジャージにはスポンサー名が並ぶ。

 そんなチーム関係者やスポンサーの期待を、現場はひしひしと感じている。特に監督が背負う重圧は並大抵のものではない。竹下監督に、監督業の面白さについて聞いた時、こんな答えが返ってきた。

「今はチームを勝たせなきゃいけないというのが強いので、面白いというよりは、責任を果たさなきゃいけないというほうが大きい。会社(株式会社姫路ヴィクトリーナ)にはずっとそういう思いで営業活動をしてくれている人がいたり、この現場だけじゃなくいろいろな人が動いてくれていることはよくわかっているので、どうにか結果を出していかなきゃいけないという思いが強いです」

「選手がどう成長できるか」を一番に。

 しかしそんなプレッシャーのもとでも、コート上での竹下監督は変わらず泰然としている。

 試合中はコートサイドに立ち、選手に近いところから試合をじっと見つめる。劣勢になっても表情を変えることなく、先を読んで早めにアップゾーンにいる選手に準備するよう自ら声をかける。

 戦術面は中谷宏大コーチが担当しており、タイムアウト中は中谷コーチが円陣の中心で指示を伝える。監督はセッターの組み立てなど気づいたことを選手個別にアドバイスする。

 中谷コーチは、竹下監督についてこう語る。

「人間が大きいですね。体はちっちゃいですけど(笑)。竹下さんには、プロ選手とはこうでなきゃいけないという理想像がたぶんすごくあって、選手にもそうなって欲しいという願望がある。監督としてこうしたいというものもあるとは思うんですが、それ以上に、選手の個人的成長を望んでいる。

 その中でも勝っていかなきゃいけないので、バランスを見ながらうまくやっているんじゃないかなと感じます。僕なんて、選手に対して細かい要求をバンバン言ってしまうんですけど(笑)」

怒るより響くことを言う。

 竹下監督は、すべてを教えるのではなく、我慢強く選手に考えさせるスタンスだ。

「竹下さんが選手を怒ることは決してないですけど、怒るより響くことを言っているかもしれないですね」と中谷コーチ。

 竹下監督は「彼に任せている部分が多い」と言うが、それも懐の深さだと中谷コーチは言う。

「本当だったら、やはり自分が監督として責任を取らなきゃいけない立場なので、自分のやりたいことをしたいと思うんですが、そこを割り切って任せてくれて、責任は自分が取るよというところが、大きいなと感じますし、すごいですよね」

目標はただひとつ、1年でV1昇格。

“V2で優勝して1年でV1に昇格”という目標を掲げた今季の戦いは佳境を迎えている。3月3日の試合ではレギュラーラウンド5位のGSS東京サンビームズのサーブや堅い守備に苦しみながらも、デュースの競り合いを制し、ファイナル6も連勝スタートで首位をキープしている。

 しかし、2位のJAぎふリオレーナとはわずか1ポイント差で、3位の群馬銀行グリーンウイングスとも2ポイント差。まだ何も決まってはいない。

 竹下監督は「目の前のことを頑張ること」と繰り返す。選手時代にもよく口にした言葉だ。

「本当に1試合1試合、(3−0か3−1で勝って)しっかり3ポイントを取っていけるように準備をしていきたいと思います」

 ファイナル6は残り3戦。1勝、1勝がV1へとつながっていく。

文=米虫紀子

photograph by Noriko Yonemushi


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