サニブラウンが日本タイ記録で復活!60m走6秒54ってどのくらい凄い?

サニブラウンが日本タイ記録で復活!60m走6秒54ってどのくらい凄い?

「気持ちよく走れましたね」

 全米大学室内選手権、60mの予選で室内日本記録に並ぶ6秒54の好記録。一緒に走った先輩に「自己ベスト、やったな」と褒められると、サニブラウン・アブデルハキーム(フロリダ大)は照れ笑いを浮かべた。

 アメリカでの大学生活2年目の今季は、1月中旬から室内レースに参戦。初戦で6秒62と自己ベストを出し幸先のいいスタートを切ったものの、翌週は発熱の影響もあり不調。その後もパッとしない成績が続いていた。

 しかも、この大会は学生の室内最高峰レース。60mにエントリーした16人中、サニブラウンの持ちタイム(6秒60)は8番目の記録で、予選通過さえ楽観視されていたわけではなかった。加えて、60mはささいなミスが命取りになる。大会前は「短すぎるし、60mはあまり……」と気乗りしない発言もしていたが、大きな試合で本領を発揮した。

 翌日の決勝ではスタートで出遅れるも、後半猛烈に追い上げ、6秒55で3位。レース前の3月6日に20歳の誕生日を迎え、本人も「いいスタートが切れました」と笑顔を見せた。

 個人はもちろんフロリダ大学の総合優勝もかかった大きな試合で、集中力の「スイッチがオンになりました」という。チームに6点を加点し、総合優勝に貢献。アメリカで学生としては初の表彰台に乗り、チームも連覇を果たしたことで、「やるべきことをやっただけ」というさりげないコメントの中にも、喜びの感情は隠せなかった。

価値ある「専門外」での好記録。

 100mなら「サブ10」、つまり9秒台が世界の仲間入り、といったイメージがあると思うが、60mはタイムのイメージが湧かない人がほとんどだろう。サニブラウンの出した6秒54は今季世界7位に該当する好記録だ(先月、バーミンガムGPで6秒54を出した大阪ガス・川上拓也も同様)。

 今季世界トップは中国の蘇炳添で6秒47、サニブラウンの大学の先輩、ホロウェイが6秒50で2位。ちなみに世界記録は昨年、アメリカのC・コールマンが樹立した6秒34で、100m9秒台で走る選手の多くが6秒4〜6秒5台前半を出している。

 後半型のサニブラウンが今回、「専門外」(本人談)の60mで好記録を出したことは、100m9秒台に大きく近づいたと言えるだろう。

新しい環境、ケガに苦しんだ1年。

 2017年8月からアメリカへ渡ったサニブラウンだが、昨シーズンはケガの影響で目立った成績を残せていない。

 渡米前には、日本選手権100mで10秒05の自己新記録で桐生祥秀らに競り勝ち、200mとあわせて2冠。夏のロンドン世界陸上200mで同種目最年少のファイナリストになって大きな注目を集めた。しかし、大会中に右大腿部を痛め、フロリダ大学入学後はリハビリ生活を送っていた。

 だが、大きな大会後のモラトリアム症候群もあって、リハビリはおろそかになっていた。新しい環境、慣れない英語での授業、山のような課題をこなすのに精一杯で、気づくと学業に比重が置かれる生活になっていたのだ。

 そして100%完治しないままに練習、室内レースに出場。昨年2月には足に違和感を覚え、満足な練習を積めないまま屋外シーズンに。それでも5月には徐々にタイムが上がってきたが、得意の200mのレース中に右大腿部を痛めてそのままシーズン終了。悪循環に陥り、ケガに泣かされる1年になった。

 落ち込んでいるサニブラウンにチームメイトやコーチは優しかったが、厳しい言葉をかける人もいた。このまま終わるのか、それとも奮起するのか――。真価が問われる現在の局面で、サニブラウンは歩み始めたといえるだろう。

室内シーズンに備え冬休み返上。

 昨年末、サニブラウンは日本へ里帰りせず、アメリカにとどまった。

「(日本は)寒いですし、時差ぼけになるのも、ちょっと」

 そう話したが、今季の室内レースである程度の結果を出さなければいけないのも事実だった。日本でゆっくりする暇などなかったのだ。

 年始も早々に動き出した。大学陸上部のスタッフが撮影するスタート動画には、週を追うごとにキレを増した走りが映し出されていた。

「スタートでは頭を低くするように心がけた」というように、以前と比べてスタートの飛び出しの体勢が低く、そして腕をダイナミックに振るようになっている。

「前はスタートがのそのそしていたけれど、それが少なくなったかな」と本人が語るように、ウェイトトレーニングで上半身が強くなり、腕を大きく使えるようになった。

ハキームはまだベイビーだから。

 練習態度も大きく変化した。

「今季はフルで練習に参加している」と言うように、ケガなく順調に練習を積めていることも自信につながっている。その姿にチームメイトとの距離も一気に縮まった。

「ハキーム、今年すごく頑張ってるよな。だから結果に結びついて俺もうれしいよ」と話すのは、ハンマー投げのマクファーランド。種目が違う先輩もサニブラウンの変化を感じ取っていた。

「ハキームはまだベイビーだから、ひとつずつ丁寧に体に覚えさせていかないといけない」とフロリダ大学のホロウェイコーチは話す。室内で200mではなく60mを走らせたのも、「スタートからの加速を覚えさせるため」だと言う。

 どちらかと言えば苦手意識のあったスタートが、どんぴしゃりで決まったレースでは自己ベストを出した。一方、スタートで失敗しても立て直す冷静さも身につけた。今後は60mで得た収穫を100m、そして200mにうまく繋げていきたいところだ。

6月に全米大学選手権、日本選手権。

「(アウトドアでは)個人だけではなく400mリレーもあるし、まだスタミナの部分が不安なので、その辺もしっかりやっていきたい」とサニブラウンは語っている。

 直近の目標は6月の全米大学選手権。昨年はケガで出場できず、名門のフロリダ大学は10点差の2位で総合得点でも連覇を逃した。短距離のエースとしてサニブラウンへの期待は大きい。

 その後、6月下旬の日本選手権で世界陸上の切符をかけた戦いに挑む。また大きな注目を集めるだろうが、ハイレベルなアメリカの大学選手権で強さを見せられれば、記録はおのずとついてくるだろう。次に「スイッチ」がオンになる瞬間を楽しみに待ちたい。

文=及川彩子

photograph by Ayako Oikawa


関連ニュースをもっと見る

関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る 動画一覧を見る

記事検索