錦織圭が無冠の天才から脱するため、好相性のマイアミで見たい執念。

錦織圭が無冠の天才から脱するため、好相性のマイアミで見たい執念。

 今年最初のマスターズであるインディアンウェルズは、オーストリアのドミニク・ティームのマスターズ初優勝で幕を閉じた。

 今シーズンもこれで11週を終えたが、その中で戦われた19大会の優勝者が全て異なるという珍しい展開だ。開幕から11週を終えた時点で誰もシーズン2つ目のタイトルを手にしていないという状況は、過去30年間で初めて。1988年に同じことがあったが、それでもその間の大会数は14と今より少なかった。

 さらにその19人の中にツアー初優勝者が7人いる。昨年は予選上がりやラッキールーザーが優勝した大会が史上最多の9つにのぼったが、同じ流れが続いている。

新王者の誕生と3強の健在。

 マスターズのチャンピオンにも昨年は新たに3人の名が加わった。インディアンウェルズでのファンマルティン・デルポトロ、マイアミでのジョン・イズナー、パリでのカレン・ハチャノフ。前年もアレクサンダー・ズベレフ、グリゴール・ディミトロフ、ジャック・ソックの3人がマスターズの新チャンピオンとなっている。

 いわゆる〈ビッグ4〉がマスターズのタイトルを独占した時代は長く、2011年から2017年前半の6年半の間に〈ビッグ4〉以外の優勝者が4人しかいなかったことを振り返れば、2年連続して年間3人の新チャンピオンが生まれたことだけで新鮮だ。

 しかしその一方で、2017年の全豪オープンから今年の全豪オープンまでのグランドスラム9大会は全てロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダル、ノバク・ジョコビッチの3強によって占められている。

 グランドスラムでの彼らの猛威が衰えないにもかかわらず、マスターズではその他のトップ選手にチャンスが広がり、「500」や「250」のレベルではもはや誰が勝ってもおかしくない――それが男子テニス界の〈今〉だ。なぜこうなったのか。

ジョコビッチの予言めいた発言。

 今シーズン開幕戦のカタールで、ジョコビッチはこう予言めいた発言をした。

「若い選手がランキングの上位に来て、たとえばズベレフはマスターズもツアーファイナルズも勝った。グランドスラムで彼らが勝つようになるのも時間の問題だろう。

 でも〈ビッグ4〉が支配した過去10年間から判断すれば、僕たちが健康である限り、今年もグランドスラムでは僕たちが勝つチャンスが大きいと思う。5セットマッチで2週間戦われるグランドスラムを勝ち抜くという経験と理解の点で、僕らが絶対に有利だ」

 全豪オープンではフェデラーもこれに同意した。しかし彼らも年はとった。37歳のフェデラーを最年長として、ナダルは32歳、ジョコビッチも31歳だ。彼らがグランドスラムに注ぐエネルギーを最優先させ、トップとしての息の長いツアー生活を考えてスケジュールを組めば、自ずと出場大会は減るだろう。

 ジョコビッチは年齢以外の事情についても説明する。

「昔みたいにフルシーズンで力を注ぐことができればいいけど、2人の子供を持つ父親である今、状況は以前と違う。家族も優先させたい。プロフェッショナルとプライベートの両方を満足させるためのバランスをとることが、常に重要なんだ」

 つまり、たとえば年間10個以上のタイトルを獲得した2004年から2006年までのフェデラーや、7大会連続優勝した2011年のジョコビッチはもう存在しない。グランドスラムでは3強が健在のままでありながら、ツアー全体としては彼らの壁が崩れつつあるという現状を読み解くなら、以前よりも的を明確に絞る彼らの戦略が背景にあるのではないだろうか。

イズナーやソックが優勝したのに。

 それにしても、過去2年間に新たにマスターズを制した顔ぶれを見るたびに考えてしまう。

 優勝時に32歳だったイズナーや、22歳とまだ若くトップ10入りもしていないハチャノフ、グランドスラムでは4回戦が最高成績のソックまでもがトロフィーを手にして、錦織圭がまだそれを獲っていないという不思議について……。

 錦織が10年以上に渡って男子テニスの歴史に残してきた足跡が彼らに劣るはずもなく、そんなことは誰もが知っていて、タイトルの有無だけで勝ち負けや優劣を評価するなど馬鹿げている。でも、だからこそ欲しい。獲ってほしい。「上から目線」と非難覚悟で言うなら、獲らせてあげたい。

錦織の準優勝4回という数字。

 現在のトップ10の中で錦織以外にマスターズのタイトルを持っていないのはケビン・アンダーソン、ステファノス・チチパスだけだ。しかし「獲れそうで獲れない」という印象において、現在32歳で晩成型のアンダーソンと錦織では比較にならない。

 錦織のマスターズの準優勝は計4回。優勝経験のない選手の準優勝回数としては現役で最多である。ソックがトップ10の誰とも対戦せずパリのビッグタイトルをさらったような幸運は、錦織のもとに一度も舞い込んでこなかった。

 初めて決勝に進出した2014年のマドリッドでナダルを相手に勝利目前から逆転され、最終的に途中棄権に終わったことは今なお悔やまれるが、運はその取りこぼしを責め続けるかのように、錦織にはあと一歩のところでいつも高い壁を用意する。

 2016年のマイアミではジョコビッチ、同年のトロントでもジョコビッチ、そして昨年のモンテカルロではまたもナダルと、初優勝への道はいつもこの2人に阻まれた。

 天敵ジョコビッチが右肘の故障で不在だった2017年後半、不運な偶然で錦織もまた右手首のケガでツアーを離れてしまった。ジョコビッチが復帰後しばらく苦しんだ時期は、錦織もやはり同じプロセスを歩んでいた。そうこうする間にジョコビッチは完全復活し、若手も伸び、中堅も自信をつけ、トーナメントの早い段階からまったく油断のならないツアー模様となった。

「第2の故郷」マイアミは好相性。

 以前よりもその道は険しくも思えるが、錦織が〈無冠の天才〉から抜け出す日が今週こそ訪れるに違いないといつも期待する。マイアミのように相性のいい大会ではことさらだ。

 今年は新会場が舞台となるため相性にも多少変化が生じるかもしれないが、マイアミは前述のように一度準優勝したほか、2014年にはベスト4に進出し、何より本拠地と同じフロリダにあって本人が「第2の故郷」と呼ぶほど居心地のいい大会だ。

 ブリスベンでの優勝で好スタートを切った錦織は〈19人〉の中に名を連ねるが、全豪オープンの準々決勝を途中棄権して以降、流れは良くない。特にここ2大会、ドバイとインディアンウェルズでは連続して同じ相手、22歳のホベルト・ホルカシュに敗れて3回戦までに姿を消している。

相変わらず楽なドローではない。

 インディアンウェルズでの敗退後は、マイアミに向けて「環境が変わるのでまたテニスは変わってくると思う。練習して調子を上げていければ」と型通りの言葉をつなぐだけだったが、そろそろムードを変えるタイミングだ。

 ナダルの欠場で第5シードに繰り上がった錦織は、順当なら3回戦で第27シードのニック・キリオスと対戦する。これまで錦織の4戦全勝だが、素行は悪くとも才能はピカイチの23歳もまた〈19人〉の1人であり、相変わらず楽なドローではない。

 準々決勝の山には第3シードのティーム、そして準決勝の山には第1シードのジョコビッチがいる。

 もう〈挑戦〉という言葉は使い慣れてしまった。今は29歳の執念が見たい。

文=山口奈緒美

photograph by Getty Images


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