憲剛、大島、守田、そして田中碧。フロンターレ中盤の系譜にまた新星。

憲剛、大島、守田、そして田中碧。フロンターレ中盤の系譜にまた新星。

東京五輪まであと500日を切る中で、JリーグではU-22世代の
若手有望株が続々と台頭している。
短期集中連載として、2019シーズンに見ておきたい、
五輪世代の各選手をピックアップした。
今回はJ1王者・川崎フロンターレの田中碧だ。

 チャンスとは、突然やってくるものだ。

 川崎フロンターレの田中碧に巡ってきた今季初先発は、まさにそんな感じだった。

 3月10日、Jリーグ戦第3節の横浜F・マリノス戦。

 今季リーグ戦とAFCチャンピオンズリーグの3試合で、田中は出場機会がなかった。直近に行われたACLの上海上港戦では、遠征には帯同されていながらもベンチ外。いわゆる「19人目の選手」として、スタンドから試合を見守った。

 そして中国から帰国直後に迎えた神奈川ダービー。キックオフ2時間前に発表される先発リストに名前を連ねていたのは、大島僚太である。

 ところが、ウォーミングアップ中に大島が左太ももに違和感を訴えたことで、鬼木達監督は試合前に悩ましい決断を迫られる事態となっていた。

憲剛ではなく田中が先発起用。

 ベンチには大黒柱である38歳の中村憲剛も控えていたが、指揮官が指名したのは弱冠20歳の田中碧。プロ3年目で、Jリーグ通算出場は4試合。下部組織育ちの生え抜きボランチである。

 田中が先発を告げられたのは、アップを終えてロッカールームに戻り、さらにチームの円陣を終えた後だったという。まさに試合直前であり、難しい心理状態で臨まなくてはいけないことは容易に想像がつく。だが、ときに若者は怖いもの知らずだ。あまりに準備の時間がないがゆえに、開き直りにも近い感覚になった。

「急だったからこそ、過度に背負うものはなかったし、楽にやれたところはありました。自分のやることをしっかりやるだけでした。自信を持ってやるだけだと思っていましたし、迷いなくスムーズに入れました」

 そして指揮官から「自分の特徴を出して、楽しんでこい!」と送り出された若武者は、開始早々、いきなり自分の持ち味を発揮したのである。

スルーパスでいきなりアシスト。

 前半4分、相手のビルドアップに対して、高い位置からのプレスにうまく連動し、GK飯倉大樹から喜田拓也に入る縦パスがずれたところをインターセプト。組み立てのためにいびつになっていた相手陣形のバランスの悪さを見逃さず、絶妙ななスルーパスを通す。

 配球先にいたレアンドロ・ダミアンは絶妙なループシュートを放ち、あっさりとゴールネットを揺らしたのだ。

「チームの狙い通りに、前から奪いにいくというのは意識していました。相手が繋いでくるチームなので、前から行く。そういう意味では、奪って縦に早く展開することで点を取れたのは良かったですね」

 最高の入り方ができたことで、その後も自信を持ってプレーを披露。ボールを持てば、コンパクトなエリアでも軽快なパスワークを展開し、知念慶やレアンドロ・ダミアンが前線でキープする時間を作れば、自慢の機動力で相手ゴール前に迫るダイナモぶりも発揮した。

終了間際の失点で感じた責任。

 守備でも魅せる。前半終了間際のマルコス・ジュニオールとの局面勝負では、鮮やかにボールを刈り取った。相手の足元にボールがあったとしても、自分の間合いに絶妙に引き込んでボールを奪ってしまうのは、田中の真骨頂だ。

 後半も強気のプレーでチームを支え続けると、試合終盤には再びレアンドロ・ダミアンのゴールで勝ち越し。今季リーグ戦初勝利目前かと思われたが、ラストワンプレーで与えたCKで失点し、同点に追いつかれた。試合後のミックスゾーンに現れた田中碧に、笑顔はなかった。

「最後にやられたので、なんとも言えない。あれがなければ勝てたし、自分の責任だと感じてます」

 彼が「自分の責任」と口にしたのは、同点弾を決めた扇原貴宏のマークが自分だったからである。元々のマーカーは守田英正だったが、途中交代でベンチに退いたため、田中が扇原のマークを担当することになっていたのだ。そこで競り負けたことは、悔やんでも悔やみきれなかった。

 勝利こそ逃したが、鬼木監督の評価の高さは、その後のゲームでの起用法が示している。続くACLの第2節・シドニーFCでも先発出場し、我慢強い試合運びで勝利に貢献。さらにガンバ大阪戦でも先発出場。終わってみれば、過密日程の3試合をフルタイムで稼働し続けた。

 田中にとっては、唐突なチャンスを掴み、自分の成長を確かめることのできた3試合だったと言えるだろう。

「こんな試合は初めて。楽しかった」

 連戦を終えたガンバ大阪戦の翌日。

 激動とも言える一週間を振り返る田中碧の表情は、穏やかだった。

「そうですね……こんな3試合は初めてでした(笑)。一番思うのは、楽しかったなということ」

 試合自体はどれも楽しかったと話す。ただ連戦を戦い抜いたことに満足感はない。むしろ、チームを勝たせられなかった結果に悔しさが残ったという。

「リョウタくん(大島僚太)がいない中で、1勝1敗1分。リョウタくんがいたら勝っていたと思われるのは、自分としては悔しいです。でも、自分としてはやるべきことをやるだけでした。やれた部分、やれなかった部分もある。まだまだ足りないことに向かって、どうやってやっていくのかですね」

昨季まで守田がつけていた25番。

 実は今シーズンを迎えるにあたって、田中碧は背番号を変更している。

 32→25。

 今年から背負う「25」は、去年まで守田英正がつけていた背番号である。

 そのことを尋ねてみると、少し微笑みを浮かべて「これはあんまり言いたくないですけど……」と前置きした上で、こんな思いを語ってくれた。

「僕自身、選手として守田くんを超えたいというのがあります。守田くんは超えたい存在なんです」

 昨年に流通経済大学から加入した守田は、新人ながら恐るべきスピードで成長を遂げた選手だ。開幕時から出場機会を掴み、夏以降はボランチの一角として定着。9月には森保ジャパンとして始動した日本代表としてAマッチデビューも飾った。コンディションで辞退したものの、今回の親善試合でも代表に選出されている。しかし、だからと言って白旗はあげない。むしろライバル心を口にする。

「一緒にやっていて尊敬する部分はありますし、日本代表にも選ばれていてすごいな、という思いはあります。守田くんの良さを吸収して得るものもあります。でも、だからこそ負けたくないというのもあります」

川崎に続く代表ボランチの系譜。

 チームの定位置争いをしていく中で、守田は避けては通れない存在である。守田だけではなく、大島も含めて中盤で切磋琢磨することが、自分自身のレベルアップにもつながることも、田中はよくわかっている。

「毎日、毎日レベルの高い選手とやれているし、自分自身も吸収させてもらっています。結局は、1日の練習をしっかりやることが成長につながりますよね。そういう選手たちに追いつくために、もっともっと頑張るだけです」

 現在20歳。リーグ王者の川崎フロンターレでレギュラー争いを続けていれば、来年の東京五輪の日本代表メンバー候補にも名前は挙がってくるだろう。もしそうなれば、三好康児や板倉滉といった先輩たちとも日の丸の座を争うのかもしれない。周囲はそんな期待もしてしまうが、田中本人は至って冷静だ。

「そこがゴールではないです。五輪に出たいからというよりは、フロンターレで試合に出続けた結果、五輪に選ばれることが大事だと思ってます。五輪があるから頑張るというよりは、毎日毎日、このチームで勝つためにやるだけですね」

 中村憲剛、大島僚太、守田英正――今や川崎フロンターレのレギュラーボランチは、日の丸を背負う系譜になりつつある。このままいけば、田中碧もその道を歩んでいくのかもしれない。

 だが、それは少し先の未来だろう。あくまで「その先」ではなく、目の前の試合と日々の成長を見据え続けている。

文=いしかわごう

photograph by J.LEAGUE


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