八村塁、NCAAのベスト8で無念の敗退。「このチームが好きだった」

八村塁、NCAAのベスト8で無念の敗退。「このチームが好きだった」

 NCAAトーナメントは2試合を勝ち上がるごとに開催地を移して、次のステージへと上がっていく大会だ。最初のステージでは全米8会場で行われていた試合が、2つめのステージでは4会場になり、最後は1カ所に集まる。戦いを勝ち抜いた強者たちが集まっていくシステムは、NCAAトーナメントに独特な空気を作り出している。

 特別なのは開催地の変遷だけではない。3回戦からは、ラウンドごとに特別な名前がつけられている。

 16強の戦いは“スイート16(Sweet Sixteen)”、8強の戦いは“エリート8(Elite Eight)”。数字の頭のアルファベットにちなんだ言葉遊びだが、実際に16強の戦いができることは“スイート”な(楽しい)ことで、そこから勝ち上がって8強に入ったらエリート・チームの仲間入りをしたと認められる。そして3つ目のステージ、“ファイナル4”に進むことは、どのチームにとっても究極の目標だった。

 最初の2試合を勝ち抜いたゴンザガ大も、次のステージの舞台、カリフォルニア州アナハイムに移動した。

「僕がやらないとチームも回らない」

 スイート16の戦いを前に、八村は「最初からアグレッシブに行く」と決めていた。それは、1年前、同じNCAAトーナメント3回戦で同じフロリダステイト大と対戦したときに相手のフィジカル差に圧倒されてしまった反省に加え、今年2回戦のベイラー大戦で相手の変則ディフェンス相手に考えすぎてしまい、最後までオフェンスのリズムを取り戻せなかったことへの反省があった。

「僕がやらないとチームも回って来ない。それは僕の仕事だと思っている」と八村。トーナメントでは勝ち進みさえすれば、前の試合でうまくできなかったことを挽回する機会が与えられるのだ。

 フロリダステイトは1年前と同じように、サイズがありフィジカルの強いチームだったが、八村自身、自分の身体の強さには年々自信を持つようになっていた。1年目には、日本とは別レベルのフィジカルな身体のぶつかり合いに、練習や試合をするたびに「この中で自分が一番弱い」と悔しい思いをしていたのだが、今では、アメリカの大学バスケットボール界でなら、「誰と対戦してもパワーで負けない」と自負するまでになった。

勝利に導く会心のアシスト。

 序盤で主導権を取ったゴンザガは、試合を通して終始リードを取っていたが、フロリダステイトもすぐ後を追っていた。後半、相手ディフェンスの前にフィールドゴールが決まらない時間帯があったが、そのたびに、八村が起点となって得点を取った。

 残り8分42秒、2桁点差だったのを8点差に詰められた直後には、ディフェンスの裏をつくバックドアプレーからのダンクを決めた。さらに、残り4分11秒に相手のフリースローで4点差に詰められ、流れを変える必要があったときには、ドリブルで攻め込んでからのパスアウトでザック・ノーベルの3Pシュートをアシスト。

「相手も(自分たちの得意とする攻撃が)わかってきて、僕とかBC(ブランドン・クラーク)がドライブするとパッと縮まってきた。このチームはいいシューターがいっぱいいるので、しっかりとパスできた」と、八村にとっても会心のアシストだった。

 結局、ゴンザガは72−58で勝利し、エリート8進出を決めた。シーズンが始まる前から目標としてきたファイナル4の舞台まで、あと一歩のところまで近づいていた。

エリート8の一方で抱いた寂しさ。

 その夜、エリート8進出の喜びのなかで、八村は少し寂しい思いも抱いていた。NCAAトーナメントで決勝まで行ったとしても、このチームで戦えるのは残り3試合だということに気づいたからだった。

「(このチームで)多くてもあと3試合しかないって考えて、ちょっと悲しくなってしまった」と八村。シーズン中に何度か全米ランキング1位になった今季のチームは、結束力も強く、共に過ごした時間は楽しい思い出ばかりだったのだ。

「やっていてすごい楽しい。バスケだけじゃなくて、外にいてもずっといっしょにいても楽しい。いろんな人がいて、いろんな話も出てきますし、バスケでもいろんなプレーが出てくる。チーム力ではどこにも負けないんじゃないかな」と嬉しそうに語った。

 そんな特別なチームで1試合でも多く戦い、チームメイトたちと1日でも長く過ごすためには、勝ち進む以外なかった。それも、モチベーションとなっていた。

エリート8では審判の判定に……。

 エリート8の対戦相手はテキサステック大。NCAAのスタッツ専門サイト、ケンポムによると、全米一番のディフェンス力を発揮してきたチームだ。

 対するゴンザガは全米一番のオフェンスを持つチーム。最強の矛と盾の戦いは、序盤からそれぞれの持ち味を生かし、時にはお互いの十八番を奪うようなプレーを見せあい、抜きつ抜かれつの接戦となった。

 点を入れ合う時間帯と、ディフェンスが勝る時間帯が波のように行ったり来たりするなかで、後半に入ってから、気づかぬうちに少しずつ流れがテキサステックに傾いていた。激しいディフェンスを相手に、ゴンザガはふだん少ないターンオーバーが珍しくかさみ、そのたびに、相手のファウルを吹いてくれない審判に対するフラストレーションを募らせていった。

「審判とも戦ってしまっていた。(オフェンスでは)イライラして単発のシュートになっていた」と、八村は後半に流れを持っていかれた理由を分析した。それでも、離されないようについていくのに必死だった。

試合終了をベンチで迎えて涙。

 しかし、終盤の勝負どころでビッグショットを決め、相手のビッグショットを止めたのはテキサステックのほうだった。残り2分10秒にゴンザガが点差を3点に縮めた直後、テキサステックは3点シュートを決めて突き放す。残り1分を切って、八村がコーナーから打った3Pは相手のブロックに阻まれた。最後まで粘りながらもあと一歩及ばず、69−75で試合終了のブザーが鳴り響いた。

 八村は、4ファウルになった終盤にはディフェンスのときはベンチに下がっていたため、そのブザーをベンチの上で聞いた。そのまま腕で顔を覆ってしばらく立ち上がれず、コートを去るときにもタオルで顔を覆ったまま、タオルの後ろで涙を流していた。

 試合に負けた悔しさ、目標としていたファイナル4の舞台に立つことなく終わってしまった喪失感。そして、何よりもこの仲間と共に戦ったシーズンが終わった寂しさ。それらの思いがすべて、涙となってあふれ出てきた。

「こんなに泣いたのは初めて」

「負けたのもある。もっと上にも行きたかった。本当にこのチームでやれたことが嬉しくて、これでこのシーズンが終わっちゃうというのが悲しくなった」

 試合後、目を赤くした八村はそう言って、涙の理由を説明した。

「終わってみて、やっぱり本当に僕このチームが好きだったんだなというのをすごく実感した。この1年間本当に素晴らしいチームでいろんなチームと戦って、いい結果が出たり、負けたりもしたんですけど、でもこのチームで戦えたことを誇りに思いますし、本当嬉しいですし、本当に人生においても僕の財産になると思います」

 日本語と英語ですべての取材を終えた八村は、最後に「(試合後に)こんなに泣いたのは初めてです」と言いながら立ち上がると、ロッカールームを一周し、チームメイトひとりひとりとハグした。

 今後の進路についてはまだはっきりとは語っていないが、今年6月のNBAドラフトにアーリーエントリーし、プロの道に進む可能性が高い。

 どの道に進むにしても、今年のこのマーチマッドネスの思い出は、楽しかったシーズンの思い出と共に、彼の胸の奥深くに刻まれた。

文=宮地陽子

photograph by Yukihito Taguchi


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