世界がアーモンドアイにお手上げ。凱旋門賞で唯一の心配は臨戦過程。

世界がアーモンドアイにお手上げ。凱旋門賞で唯一の心配は臨戦過程。

「いつも少しうるさい面があります。いつも通りです」

 パドックから馬道を抜け本馬場に入場するアーモンドアイ(牝4歳、美浦・国枝栄厩舎)。頭を激しく振り、2人曳きする根岸真彦調教助手と宮田敬介技術調教師を引きずるようなシーンもあった。装鞍所やパドックではいつも少し興奮するタイプの牝馬ではあるが、現場で見ていた限り、初のナイター競馬のせいか久しぶりの実戦のせいか、いつも以上にエキサイトしているように思えた。

 しかし、跨ったクリストフ・ルメール騎手が語った冒頭のセリフ。何も心配していなかったと言う。

 昨年の年度代表馬が2019年の始動戦として選んだのは海の向こう。3月30日に中東ドバイで行われたドバイターフ(GI・メイダン競馬場、芝1800m)だった。

ルメール「少し短めのところを」

 秋には凱旋門賞(GI・フランス、パリロンシャン競馬場、芝2400m)という話もある同馬にとって、ドバイでの選択肢は2つあった。芝2410mで行われるドバイシーマクラシック(GI)かドバイターフだ。

 秋にフランスの大一番を目指すなら距離的にはドバイシーマクラシックを使った方が道理としては腑に落ちる。しかし、陣営が選択したのはドバイターフ。同じくルメール騎手が主戦でノーザンファーム産のレイデオロ(牡5歳、美浦・藤沢和雄厩舎)がドバイシーマクラシックに出走するため、苦渋の決断かと邪推したが、ルメール騎手は頭を振った。

「確かにレイデオロとの関係はあります。現在のレイデオロは長めの距離の方が良いけど、アーモンドアイはどちらでも大丈夫ですから……」

 ただそれ以上に、と続ける。

「アーモンドアイは昨年11月のジャパンC以来の出走です。少し短めのところの方が良いと僕自身も思いました」

ライバルが失速するのを尻目に快勝。

 こうして勇躍ドバイターフへ駒を進めた日本の最強牝馬。迎え撃つライバル達の筆頭格にいたのがドリームキャッスル(せん5歳、S・ビン・スルール厩舎)だ。

 ドバイターフと全く同じメイダン競馬場の芝1800mで行われる前哨戦のジェベルハッタ(GI・UAE)では馬群の大外を回りながらも先行勢を一蹴。次元の違う末脚を披露していた。

 去勢後は負け知らずの連勝中であることに加え、今シーズンのドバイはとくに地元ゴドルフィン勢が強く、当日を迎えるまでに芝で行われた12の重賞を全て制している事もあり、強力なライバルになるかと思われた。

 しかし、勝負の行方は思わぬ結末を迎える。直線に向き、抜け出すか?! という場面も演出したドリームキャッスルだが、何かのアクシデントがあったのか、急失速。結局、最下位に沈んでしまう(レース後の獣医の診断では何も発見されず)。

 これに対し、アーモンドアイはまざまざと力を見せつけた。イレ込み気味のパドックはいったい何だったのだろうと思わせるくらい、終始危なげのない競馬。馬群に包まれないよう、外を回りながらも早目先頭から押し切った。

 日本のヴィブロスが思った以上に善戦し差を詰めたものの、その時はすでに勝負は決していた。JRAのオッズでは実に1.2倍という圧倒的な支持に応え、1分46秒78の時計で優勝してみせた。

マーフィー騎手も事実上のお手上げ。

 ジャパンCの衝撃は世界中を駆け巡ってはいたものの、今回は自らアウェーに出ての完勝劇。本当の意味で世界へ向けてヴェールを脱いだ形だ。

「もちろん全力を尽くしたけど、まぁ、アーモンドアイが勝つだろうとは思っていましたよ」

 センチュリードリームに騎乗したオイシン・マーフィー騎手はそう言った。昨年の暮れから今年の年頭にかけて短期免許で来日し、日本馬の強さを充分に知っている彼は「予想出来る結果だったので何も驚きはありません」と続けた。

世界中がアーモンドアイに注目している。

 2着に敗れたヴィブロスの手綱を取ったミカエル・バルザローナ騎手も「満足のいく競馬が出来ました。勝ち馬が強過ぎただけです」と言い、お手上げのポーズをとった。

 思えばレース前から現地での注目度も半端ではなかった。水曜日の最終追い切り時には、外国のプレスが騎乗したルメール騎手や見守った国枝調教師を次々と囲んでコメントを求めた。毎朝顔を出した白髪の指揮官は、地元はもちろん、アブダビやトルコのテレビ局からもマイクを向けられ、その都度英語で応対をしていた。

 私も多くの外国人関係者から逆質問をされた。ドバイターフにマジェスティックマンボとユーロンプリンスの2頭を送り込んだ南アフリカのマイク・デコック調教師は、自分の馬達のコメントを述べた後、「でもアーモンドアイにはかなわないだろう」と苦笑して語った。

 ウートンを出走させたチャーリー・アップルビー調教師も「前哨戦で良い競馬をして本番が楽しみになったと思ったけれど、アーモンドアイが来るとは運がない」と言い、両てのひらを上に向けて笑った。

 また、ドバイワールドカップにヨシダで挑んだアメリカのウィリアム・モット調教師の子息にあたるリリー・モット調教師補佐は、次のように語った。

「自分のレースとは関係ないけど、今回はアーモンドアイを見るのが楽しみなんです。ヨシダも同じ日本産。日本馬が世界レベルである事はよく分かっていますからね」

唯一の不安は、レースの消耗度。

 このように世界中のホースマンが注視する中で横綱相撲を披露したアーモンドアイ。しかし、唯一暗雲が立ちこめかけたのは、やはりレース直後の事だった。

 レースを終えて口取り写真の撮影を行った同馬を、陣営はすぐに引き上げさせた。世界各国のカメラマンが「えぇ、もう?!」と帰厩するのに待ったをかけようとしたが、その時、最強牝馬の四肢は小刻みに震えていた。オークス、秋華賞、そしてジャパンCでもそうだったが、レース直後にどっと疲労が出るのだ。

凱旋門賞の懸念はステップレース。

「秋華賞の時は立っていられないほどで少し心配したけど、それに比べれば今は大丈夫です。今回もすぐに回復しました」

 国枝調教師はそう語った。しかしこの症状が懸念材料となり、凱旋門賞の3週間前に同じ舞台で行われるヴェルメイユ賞(GI、3歳以上牝馬)は使わない公算が大のようだ。

 国枝調教師から意見を求められた私は、もう少し間を開けて本番に挑めるレースとして、8月に行われるヨークシャーオークスを推奨したが、果たしてどこを叩く事になるのかはまだ分からない。

 3カ月以上の休み明けで凱旋門賞を制した馬はすでに半世紀以上出ていないだけに、本番までにどういう路線を敷くのか。日本のホースマン達が願い続けて来た頂点についに手が届くのかどうか……。アーモンドアイの課題は臨戦過程となりそうだ。

文=平松さとし

photograph by Satoshi Hiramatsu


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