レジェンドに挑む「ネクストジェン」。フェデラーは世代交代を恐れない。

レジェンドに挑む「ネクストジェン」。フェデラーは世代交代を恐れない。

 来るべき顔ぶれがついにセンターステージで暴れ始めた。

 先週、今シーズン2つ目のマスターズ大会となるマイアミ・オープンでカナダ人の2人の若者が旋風を吹かせた。

 19歳のデニス・シャポバロフと、18歳のフェリックス・オジェアリアシム。

 ともにグランドスラム・ジュニアのタイトルを持つ逸材が、揃ってベスト4に進出した。マスターズで10代が2人ベスト4入りしたのは、2007年の同じマイアミで当時19歳だったノバク・ジョコビッチとアンディ・マレー以来だ。

 さらにベスト8には21歳のフランシス・ティアフォーが入り、先のインディアンウェルズでも19歳のミオミル・ケツマノビッチ、22歳のホベルト・ホルカシュが初めてマスターズのベスト8に進出していた。

 この世代の中では図抜けた存在のアレクサンダー・ズベレフ、猛追するステファノス・チチパスがこの2大会では振るわなかったが、この世代の人材は実に豊かだ。

「ネクストジェン」の台頭。

 彼らの多くに共通することはフィジカルの強さを感じさせるパワーと、そのパワーだけに頼らない多彩なテクニック。シャポバロフとチチパスは片手打ちバックハンドで、巧みなネットプレーも披露してオールドファンを喜ばせる。

 ATP(男子プロテニス協会)が若いスターを育てるために撒いた「ネクストジェン」キャンペーンの種は、順調に蕾を膨らませ、花を咲かせている。

 そしてもう1つ、このブームの背景に大きく起因するのは、ロジャー・フェデラーの存在があるだろう。フェデラーの長寿現役がもたらすメリットは計り知れず、次世代スターの成長にも寄与している。

彼らにとって最高の贈り物とは……。

 マイアミで通算101回目のツアー優勝を果たしたフェデラーが初めて出場したマスターズは1999年、ちょうど20年前のこのマイアミ・オープンだった。シャポバロフもオジェアリアシムもまだ生まれていない。彼らが物心ついたとき、ラケットを握り始めたときにはフェデラーはすでにスーパースターだったのだ。

 ATPの公式サイトの選手プロフィールによれば、現在ランキングのトップ50内にいる21歳以下の6人のうち5人が子供時代の憧れの選手にフェデラーの名を挙げている。ズベレフもチチパスもシャポバロフもオジェアリアシムもアレックス・デミノーも……。

 彼らにとっての最大の特典、最高の贈り物は、そのフェデラーに直接挑むチャンスがあるということだろう。まだこうして光り輝いている37歳の現役レジェンドと戦う。それがどれほど大きなエネルギーとなり、かけがえのない経験を与えるか……。

フェデラーとの対戦は「夢のよう」。

 マイアミではシャポバロフがついに準決勝でフェデラーとの初対戦を果たした。

 対戦相手との歳の差「18」はフェデラーにとっても最大だったという。試合の前日、シャポバロフは「これまでの人生でずっと楽しみにしていた一戦だ。マスターズの準決勝でロジャーと対戦するなんて、夢のようだよ」と語った。

 結果は2-6、4-6で敗戦。それでも、試合後のコメントはフェデラーへの敬意にあふれていた。

「彼のレベルについていくことができなかった。まったくリズムに乗せてもらえなかったよ。練習を何度かしているから彼がどんなボールを打ってくるかは知っていたけど、経験の差を思い知った。彼のプレーには穴がない。完璧なプレーヤーだ。この試合から学んで次に進みたい」

「錦織世代」とは異なる状況。

 男子テニス界がこれほどの年齢差でトップレベルを争った時代はかつてない。従来のスーパースターに引導を渡すのは、せいぜい10歳くらい下の実力者だったのだ。今、テニスファンの関心はもっぱら、フェデラーとノバク・ジョコビッチ、ラファエル・ナダルを指す「ビッグ3」と「ネクストジェン」の世代交代の行方にある。

 いくら彼らが偉大で今なお健在でも、揃って5年先まで今と同じ支配力を保っているとは考えられない。新勢力は全力で挑戦し、学ぶだけ学び、得るだけ得て、彼らが去ってから自分たちの時代を作っていける。その意味で、全盛期の「ビッグ4」の壁を破ることでしか自分たちの時代を作ることができなかった「錦織世代」の重圧とは、大きく異なるだろう。

 今度の世代交代は実現するかしないかではなく、時間の問題といえる。

若手成長を促した「レーバー・カップ」

 しかし、フェデラーを敬愛し、心酔するファンでさえ、新たな時代の到来に興奮することができるのは、フェデラー自身が“そのとき”に対して怯えていないからではないだろうか。怯えるどころか、優しく厳しい目で見つめ、成長を助けている。

 2年前、フェデラーがオーストラリア・テニス協会と手を組んで立ち上げた『レーバー・カップ』はヨーロッパ選抜対世界選抜のチーム対抗戦だが、その大きな目的は「世代を超えた結びつき」にあったという。

「シャポやフェリックスのような若い世代が、僕やラファやその他の選手と同じチームで戦うことで、学ぶことはあるはずだ。また、キャプテンであるビヨン(・ボルグ)やジョン(・マッケンロー)からも何かを学べる。ロッド・レーバーも同じ空間にいる。彼らはテニスの歴史にも興味を持つだろう」

 レーバー・カップはフェデラーが願った通り、あらゆる世代のスーパースターが集うファン垂涎のイベントとして大成功をおさめ、過去に出場したズベレフ、シャポバロフ、ティアフォーの成長はその賜物だ。フェデラーは少なくとも20年続けたいと夢を語る。

フェデラーはよく「見る」。

 若い才能のチェックにも余念がない。フェデラーは'16年のウィンブルドンでジュニアの準決勝を戦ったシャポバロフとチチパスの試合を見ていたという。そして、その2年も前からシャポバロフのことは知っていた。トロントのマスターズで、まだ15歳にしてフェデラーの練習相手に抜擢されたシャポバロフと打ち合い、その強打力と動きの美しさに驚いたそうだ。

「すごく印象的だった。歳を聞いて、びっくりしたよ。一体どれほどすごい選手になるだろうと思ってね」

 その印象があったから、ジュニアの勝負にまで関心を寄せたのだろうが、とにかくトップ選手でフェデラーほどテニスを「見る」ことが好きな人はいないといわれる。ジュニアだろうが、女子だろうが、よく見ているのである。

 そんなフェデラーはまるで自ら未来に向けてテニス界を演出しているようでもあるが、世代交代劇のクライマックスは近づきつつも、まだ遠そうだ。

 そんな中、まもなくクレーコートシーズンが始まる。過去2年はクレーをスキップしていたフェデラーも今年は参戦するという。強いて言うならクレーが1番苦手のフェデラーに、新鋭たちはどう挑むだろうか。楽しみは続く。

文=山口奈緒美

photograph by Getty Images


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