藤沢和雄、ぶっつけで桜花賞2勝目。グランアレグリアと20年前の記憶。

藤沢和雄、ぶっつけで桜花賞2勝目。グランアレグリアと20年前の記憶。

 4月7日、阪神競馬場で行われた桜花賞(GI、芝1600メートル)を制したのはグランアレグリア(牝3歳、美浦・藤沢和雄厩舎)だった。

 牝馬三冠レースの第1弾となるこのレースに藤沢和雄調教師は2頭の管理馬、すなわちシェーングランツとグランアレグリアを送り込んだ。

 グランアレグリアは2歳時にデビュー戦、サウジアラビアロイヤルC(GIII)と2連勝。3歳の頂上決戦は牝馬同士の阪神ジュベナイルフィリーズではなくあえて牡馬が相手となる朝日杯フューチュリティS(GI)に挑戦。アドマイヤマーズに敗れたものの1番人気に推され、馬券圏内の3着に粘ってみせた。

 しかし、この桜花賞はその朝日杯フューチュリティS以来、約3カ月半ぶりの実戦。阪神ジュベナイルフィリーズや前哨戦のチューリップ賞を含む4連勝中と順調に使われているダノンファンタジー(牝3歳、栗東・中内田充正厩舎)に1番人気の座を譲った。

新馬戦以来となる再戦で。

 この両馬が相まみえるのはこれが初めてではなかった。

 2018年6月3日。東京競馬場で行われた芝1600メートルの新馬戦で、2頭はともにデビューを果たした。

 この時、勝利したのはグランアレグリア。2馬身差の2着がダノンファンタジーで牡馬最先着となった3着馬はダノンファンタジーから3馬身半、4着の牡馬は3着馬から更に9馬身突き放されるという結果に終わった。

 2頭の牝馬の強さばかりが目立つフィニッシュだったわけだが、中でも勝ったグランアレグリアのパフォーマンスは素晴らしく、順調ならGIを勝てる器だと思わせたものだった。

 それでもこの桜花賞のオッズを見ていると、やはりファンは休み明けという点に不安を抱えていたのだろう。ダノンファンタジーはデビュー戦でグランアレグリアに敗れているものの、今回は順調度の差で逆転可能と多くのファンが推察したようで、ゆえに2.8倍の1番人気。グランアレグリアは3.4倍で2番人気となった。

 ところが蓋を開けてみると、久々も何の、グランアレグリアの強さばかりが目立つ結果が待っていた。

4コーナー手前で一気に先頭へ。

 序盤は好位に控えたグランアレグリア。前後半の3、4ハロンが35秒4−47秒7→45秒0−33秒3。上がりの方が速いスローペースに、グランアレグリアはやや行きたがる素振りを見せた。

 しかし、それはダノンファンタジーも同じだった。グランアレグリアのすぐ後ろという好位置をキープしながらも何度も頭をあげて掛かる素振りを見せた。

 3〜4コーナーで「これ以上、我慢ならん!」とばかりに上がって行ったのがグランアレグリア。4コーナー手前では一気に先頭に立って自ら後続を引っ張る態勢を作った。

 ちなみにラスト600mから400mの地点のレースラップは10秒8。先頭に立った後はグランアレグリアが作った時計だが、ラスト600m地点ではまだ先頭に立っていなかったのだから、彼女はこれ以上に速いラップでこの地点を走り抜けたことが分かる。

 それもかなり馬群の外を回り、直線では逆にインへ持って行くという、つまりロスがありながらこのラップを刻んだということだ。

ダンスインザムード以来の制覇。

 阪神競馬場の最後の直線は476.3mと長く、しかも急勾配の上り坂が用意されている。あれだけ早目にスパートするようなラップをマークすれば普通は止まってもおかしくないのだが、グランアレグリアにそんな様子は見られない。

 むしろ、離されまいと追走していったダノンファンタジーの方が一杯になったため、後方に控えていたシゲルピンクダイヤとクロノジェネシスが急追し、わずかに捉えたところがゴール。その時、グランアレグリアはシゲルピンクダイヤの2馬身半前方、1分32秒7の桜花賞レコードでゴールを駆け抜けていた。

 藤沢和雄調教師としてはこれが'04年のダンスインザムード以来、2度目の桜の戴冠となった。一昨年の'17年にはグランアレグリア同様、クリストフ・ルメール騎手を背にしたソウルスターリングで臨んだ。同馬は単勝1.4倍の圧倒的1番人気に支持されたが3着に敗れた。同じコンビでの優勝劇に、当時の悔しい思いは少しでも晴れただろうか……。

思い出すのは名牝スティンガー。

 そして、それ以上に思い起こされる出来事が1つある。

 今回のグランアレグリアは先述した通り、休み明けという臨戦過程だった。オールドファンならスティンガーという名牝を覚えているのではないだろうか?

 1998年、今でいう2歳の11月にデビューした彼女は、その新馬戦を快勝。中2週で臨んだ赤松賞を連勝すると、連闘でGI・阪神3歳牝馬S(現在の阪神ジュベナイルフィリーズ)に挑戦する。

 するとここもあっさりと優勝し、デビューから1カ月経たずにGIホースへと上り詰めた。

 そんな彼女を、当時まだ47歳だった若き伯楽はぶっつけで桜花賞に出走させた。当時、師は前哨戦を使わずに出走させた理由を次のように語っていた。

「2歳時にわずか1カ月足らずの間に3回も使い、最後はGIを勝つほど頑張って走ってくれました。桜花賞を使う前にひと叩きしようとすれば、全く休ませてあげることができなくなります」

 それは可哀そうと続いた言葉の行間に、何よりも末永く走れる馬を壊してしまいかねないと言う心情が見え隠れしていた。

桜花賞での惨敗に批判の声が。

 しかし、桜花賞の結果は芳しくなかった。スタートで後手を踏むと12着に惨敗。1番人気を裏切る結果に、レース後、批判の声が相次いだ。

 その後のスティンガーは京都牝馬S(GIII)を優勝したほかに、牡馬相手の京王杯スプリングC(GII)連覇など21戦して7勝と、6歳春まで息長く活躍した。

 桜花賞こそ敗れたが、若い時期に使い詰めでいっていたら、これだけ長く一線級で活躍することはできなかったかもしれない。

奇をてらって挑ませたのではない。

 スティンガーが引退する際、私は伯楽に次のように声をかけた。

「いずれまた休み明けで桜花賞に挑み、今度は勝ってみせてください!」

 すると、藤沢師はフッと息を吐くように笑った後、答えた。

「それは違う。私は奇をてらって休み明けで挑ませたわけではない。あくまでもスティンガーの体調を考えてそうしただけ。何も意地になってぶっつけで挑むつもりはないですよ」

 その後、藤沢師が桜花賞に出走させた馬は、先述のダンスインザムードやソウルスターリングなど、昨年までで計8頭。そのうち年内初戦が桜花賞だった馬はスティンガーただ1頭。

 つまり今回のグランアレグリアはそれ以来、2頭目のぶっつけでの挑戦だったわけだ。

 ちょうど20年前の雪辱を果たしましたね? などと声をかければ、67歳となった大調教師はきっと次のように答えるのではないだろうか。

「何も意地になってぶっつけで挑ませたわけではないよ」と。

文=平松さとし

photograph by Kyodo News


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