田臥勇太復帰とBリーグ栃木の第2章。「優勝の時と同じか少し良いかも」

田臥勇太復帰とBリーグ栃木の第2章。「優勝の時と同じか少し良いかも」

 相手選手の放ったシュートがリングの手前側に当たって跳ね上がると、そのボールをつかもうと、田臥勇太が頭から飛び込んだ。

 田臥の手に当たってボールがこぼれると、今度は鵤誠司(いかるが・せいじ)が身体を投げ出した。4月6日、栃木ブレックスとアルバルク東京の試合、第3Qの残り3分を切った場面だった。

 Bリーグ初年度のファイナル、試合終盤にブレックスがリードしている時点で、ジェフ・ギブスや田臥がルーズボールめがけて飛び込んでいった姿を記憶している人も多いだろう。ギブスはそこでアキレス腱断裂の大怪我を追い、田臥は勢いあまってコートサイドの席を飛び越えてしまうほどだった。

 彼らを突き動かしたのは、ブレックスの選手に共通した使命感だった。

 守備に汗を流し、リバウンドやルーズボールに泥臭く飛び込んでいく。選手やヘッドコーチ(HC)が代わっても、受け継がれていくブレックスのスタイル。田臥のプレーはそれを象徴するシーンだと感じた。

田臥「あのボールは取れたはず」

 しかし、話は単純ではないらしい。田臥はこう振り返る。

「誠司がしっかり飛び込んでくれたので助かりましたけど、僕の中ではあのボールは取れたはずだと思っている。飛びつくときの感覚が……ワン、ツー、スリーポイントくらい遅いので。そういうところはまだ……」

 もっとも、田臥は悲観しているわけではない。

 昨年10月20日のレバンガ北海道戦を最後に、田臥は腰の痛みから戦列を離れていた。復帰したのは3月27日の秋田ノーザンハピネッツ戦。実に5カ月以上が経過していた。

「当然ですけど、5カ月も空いてしまいましたから、感覚は試合をやりながら戻していくしかないです。あそこで飛び込めた、体が反応できた、という良い部分はある。じゃあ次は、ああいう場面でボールを取れるように……」

田臥の姿は栃木の今を象徴する。

 復帰戦で8分ほどプレーして以降、慎重にプレー時間を伸ばしてきた。当初は1つのクォーターに出るだけだったが、2つのクォーターでプレーするようになった。流れを変えたいとき、チームに落ち着きを与えたいとき、安齋竜三HCの選択肢は広がりつつある。

 アルバルク戦後、安齋HCはこう話した。

「彼にいてもらって本当に助かりますね。怪我人が戻ってくると、もうちょっと厚みがでて、プレータイムもシェアできる。もっと、もっとアグレッシブに行けるようになるかなと考えています」

 少しずつプレータイムを伸ばす田臥の姿は、ブレックスの現状を象徴している。シーズンの終盤にさしかかりながらも、彼らはまだチームの力を伸ばす余地を残しているのだ。そこに、彼らが再びBリーグの頂点を目指す上での希望がある。

遠藤のスリーポイント成功率が凄い。

昨シーズンはシーズン途中の指揮官交代、そしてプレーオフにあたるチャンピオンシップ準々決勝で善戦しながらも涙を飲んだ。しかし、そこからの成長はめざましい。

 例えば、遠藤祐亮はそれを体現する筆頭格だ。

 1試合平均得点は、Bリーグ初年度から数えて7.6点、8.2点、そして今シーズンは12.0点と伸び幅が増した。とりわけ3P成功率は45.2%で、リーグ2位につけている。

 千葉ジェッツの石井講祐が46.0%という驚異的な数字を残しているとはいえ、遠藤の成功率もBリーグの過去2シーズンであれば単独1位に相当する。

 遠藤はジェッツ戦なら富樫勇樹に、アルバルク戦では田中大貴のマークにつく。相手ののエースを抑える仕事に奔走する傍ら、それだけの数字を残しているのだ。

「安齋HCがシーズンの最初から見るのは今季が初めてです。シーズン前からオフェンスでのスペーシングなど、チーム全体で取り組んできたのがすごく大きいと思います。自分も自信が持てるようになってきたというか、プレーに余裕が出てきて、スキルアップしているなというのは感じている。シュートを思い切り良く打てているのが今の結果につながっていると思います」(遠藤)

天皇杯後、チームは「第2章」。

 チームとしての成長を証明したのが、今年1月の天皇杯だった。

 この時期、田臥だけでなく、昨シーズン3P王に輝いた喜多川修平も怪我で欠いていた。さらに、日本代表のエースでもある比江島慎もまだ加入していなかった。

 決勝では怪我人の影響もあり、わずか8人しか出場していないのだが、ジェッツ相手に延長戦の最終盤までリードする健闘を見せた。

 最終的には準優勝に終わった天皇杯での戦いについて、安齋HCはこう捉えている。

「怪我人がどんどん出てきても頑張って、ボロボロになりながら決勝までいった。最後の1本こそ決まらなかったですけど、そこまでが今シーズンの『第1章』という感じです」

 今のブレックスは、次のチャプターへと入っているのだと安齋HCは考えている。

「『第1章』で頑張ってくれた選手たちの良さを継続しながら、比江島が加わったのが、その次ですよね。比江島が試合に出るようになって2カ月と少しがたって、彼は自分の立ち位置を少しずつ見つけられている。チームとしても、彼の立ち位置を見つけられている」

周囲が比江島をバックアップ。

 比江島はブレックスに加入してから、竹内公輔や田臥から、こんな声をかけられてきた。

「全て自分が攻めきるというくらいの気持ちでプレーしていいんだぞ!」

 ライアン・ロシターやギブスらのインサイド陣からは、こう言われてきた。

「パスを選択して誰かがタフショット(*苦しい体勢からのシュート)を打つくらいなら、オマエがシュートを打つんだ! シュートが外れても、俺がリバウンドを獲るから」

 リーグ最高の1試合平均リバウンド39.0本の原動力となっている彼らも、比江島を力強くサポートしているのだ。

 それでも比江島は冷静に語る。

「まだまだ、遠慮しているという風に見られていると思います。そんな自分をブレックスは獲ったわけではないでしょうし、もっとガツガツ行って、勝敗を分けるシュートを決めるのを期待して獲ってくれたと思う。そのあたりについてもう少し、強く意識したいなと思います」

新加入選手とのケミストリー。

 少しずつ見えてきたものはある。例えば、王者アルバルクを4点差で下した4月5日の試合だ。残り45秒を切った時点で、比江島はドライブから勝利を決定づけるシュートを沈めた。大事な局面で周囲からボールを託され、責任を全うした場面について、こう言った。

「自信にはつながります」

 バスケットボールの世界ではしばしば「ケミストリー」という言葉が用いられる。1人の選手が加わったからといって、すぐにチーム成績やデータが上向かないのがこの競技の面白いところだ。

 新しい選手が入った過程の中で、最適なバランスを探っていかないといけない。そこには時間も労力もかかる。いわば産みの苦しみがある。

 しかし、そこで化学反応が起これば、新加入選手は単なる足し算にとどまらない。かけ算のような大きな力となる。

 その過程について、安齋HCはこう表現する。

「今までプレータイムが長かった選手のそれが短くなると、上手く流れに乗れないこともあります。全ての選手にストレスなくプレーしてもらうために、どうするのか。今はそれを試合で色々と模索している。難しいことですけど、それが僕の仕事なので……」

田臥「イチローさんもそうですが」

 残りのレギュラーシーズンのなかで、最適解を見つけられるかどうか。そこに第2章の行方はかかっている。

 興味深いのは、その状況で戦う彼らの言葉である。

 田臥が言う。

「最近になって改めて感じたのは、年齢を重ねても現役でやられている方は本当にすごいんだなと。イチローさんなどもそうですけど、それだけの努力をしないと、長年できないので。休み方ひとつとっても、ただ休むのではなくて、身体を動かしながら休むとか。そういう部分は怪我をして、さらに気をつけるようになっています。

 競技が好きで、プレーしたいという想いがあるからこそ、それができると思う。今はまだ5分しか出られないですけど、それでもやっぱり、試合に出ているときは楽しいですから」

「今の方が少し、良いかも」

 安齋もコーチとしての贅沢な悩みを味わいつつ、戦っている。

「こんなに良いチームで僕がHCをやらせてもらって、まだ1年ちょっとです。それでも、ルカ(・パヴィチェヴィッチ)さんという、経験のあるコーチが率いるチャンピオンと対戦して、良いゲームができるところにまでなったのはありがたいことですし、やりがいをすごく、感じますね」

 4月8日現在、東地区2位につけるブレックス。昨シーズンの全体1位だったシーホース三河と同じ勝率を誇っている。

 初年度の優勝に貢献したギブスは、こんなことを語っている。

「優勝してから選手も何人か入れ代わっていますけど、2年前と比べて実力はほぼ同じか、もしかしたら、今の方が少し、良いかもしれません」

 東地区にはBリーグ史上最高勝率の更新が視界に入っているジェッツがいる。

 ただ、そんなライバルを倒したいから、ブレックスにかかわる者たちは、成長しようと最後まで試行錯誤を続ける。

 彼らの第2章がどんな結末を迎えるのか、今はまだ、誰も知らない。

 しかし、その姿勢こそが、東京オリンピック出場決定に満足するのではなく、さらなる成長が必要とされる日本バスケットボール界にとって、最高に価値あることだ。それを忘れてはいけない。

文=ミムラユウスケ

photograph by B.LEAGUE


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