オープナーは球数制限に有効では?大学野球の成功例から思いついた。

オープナーは球数制限に有効では?大学野球の成功例から思いついた。

 日本ハムが3月のプレシーズンゲームのアスレチックス戦で、斎藤佑樹投手を先発の2イニングでサッと交代させた起用法が話題になった。

「オープナー」という言葉は、まだ日本ではそんなにおなじみではない。だが昨年メジャーで、リリーフ投手を先発の1イニングで使い、2回から本来の先発投手を起用する戦い方が見られたそうだ。

 これを「オープナー」と呼んで、強力な上位打線と向かい合う立ち上がりに、“MAX”の大きな剛腕や、多彩な変化球を駆使するテクニシャンの渾身の投球で切り抜ける。試合に勢いとリズムを加えようとする戦術だと聞いている。

 そんな野球が始まってると聞いた時、あれっ、ちょっと待てよ……なんだか前に、こんな継投の方法を使っていた監督さんがプロにいたなぁ。そう思って記憶をたどってみたら、すぐに思い当たった。

 三原脩である。

「策士、名将」と称されて畏れられ、九州の地方球団といわれた西鉄ライオンズを日本一に導き、その後、セ・リーグに転じて1960年に大洋ホエールズを率いると、前年まで6年連続最下位のチームをセ・リーグ制覇から日本一にまで導いてみせた。

完投が普通の時代に2、3回で交代。

 そんな三原がヤクルトアトムズ(現スワローズ)の監督に就任した、昭和45年頃だったと思う。

 外山義明という小柄なサウスポーがチームにいた。スピードはそれほどではないが、右打者の内に食い込むスライダーと、外へ逃げるスクリューで“放射状”の軌道を描き、しかもそれらをコントロールできる。そんな特徴を持った左腕投手を、まさに「オープナー」に起用する奇策に打って出た。

 当時のプロ野球は、先発したら完投するのが普通の時代。

 しかし、スピードがなかったり、スタミナが足りなかったりして長いイニングは無理でも、多彩な変化球のコントロールという“特性”を生かせば、打者のエンジンがまだ十分に温まりきっていない試合序盤の“1巡目”なら、しのげるのではないか……そんな発想が「外山先発→2回か3回で交代」という奇抜な作戦につながった。

 たしか、早い時には1イニングで交代、なんてこともあったように思う。

 いずれにしても、頭の何イニングかを投げてくれれば、後からマウンドに上がる「先発系」の投手たちの負担が軽くなる。そういう狙いも間違いなくあったのだろう。結構うまくいっていた時期もあった……とはっきり覚えているのは、当時の私がかなり熱烈なヤクルトファンだったからなのだ。

オープナーでの全国制覇に批判が。

 1イニングでの交代もあったと書いて、そんな「昭和」までさかのぼらなくても、もっと最近にも「オープナー」があったな……と思い出したのが、16年前の大学野球での出来事だった。

 九州のリーグを勝ち抜いて全国大会にやって来た大学チームが、2回の攻撃の始まりでピッチャーを代えた。先発投手を1イニングだけ放らせて、リリーフを送ったのである。

 呆気にとられる相手チームと観客の前で、3回の攻撃が始まるタイミングで、再びベンチから監督が現れて、またもピッチャーを代える。結局、その試合では5人の投手を小刻みに継投。相手打線を翻弄して勝ちをおさめた。その後の試合もずっとその調子で快進撃を続けると、あれよあれよの全国制覇。

 2003年、全国大会に2度目の出場で優勝に輝いた日本文理大学の姿であった。

 奇策、目くらまし、行き当たりばったり、邪道……まんまと足元をすくわれた苛立ちもあったのだろう、手厳しい批判の嵐が指揮官に集中した。

中村監督が明かした当時の考え。

「まあ学生野球ですけど、もう20年近く前に、オープナーをやってたチームがあったっていうことですよね」

 今も日本文理大野球部を率いる中村壽博監督は、感慨深げに当時を振り返る。

「甲子園でエースとして投げていたようなピッチャーなら、大学でも5、6イニング、すぐ投げられるんですよ。でも、なんの実績もない九州の大学に、そんなピッチャー来てくれないじゃないですか」

 訴えるような熱っぽい語りは、その当時も今も、何も変わっていない。

 早稲田大学で現役生活を終えてから助監督をつとめ、請われて日本文理大の監督になったのが25歳の時、平成11年(1999年)だった。

「野球部はあっても名ばかりのもので、もちろん全国にも出ていないし、知名度もない。ですからウチに来てくれるピッチャーなんて、高校3年間で“夏0勝”みたいなピッチャーばっかりなんですよ」

みんな1つは“武器”を持っている。

 最初は、落胆も、絶望もしたという。

「ところがですね、よ〜く見てると、やっぱり高校野球で“背番号1”を背負っていた選手たちなんですよ。こいつ、スピードだけなら通用するとか、こっちはスピードないけどスライダーは使えるなとか、みんな1つぐらいは何かしら“武器”を持っている。それを生かして強い相手と互角に戦える方法はないのか……そこを考えたんですよ」

 なかなか頭の中で“形”にならない中で、ふと浮かんだことがあったという。

「総合力なんか求めたら絶望するだけですよ。当時のウチみたいな弱いチームに、総合力を持ったピッチャーなんて、来るわけないですから。もともと総合力を持っているピッチャー、つまりはっきりとした欠点のないピッチャーは先発で5、6イニング投げられるわけです。そして総合力とは、もともとそれがあるピッチャーに、どう上積みしていくかなんです。総合力のないピッチャーに注入するなんて、少なくとも大学の4年間じゃ不可能ですから」

成功体験を積んで帰ってこれる。

 ならば、長所の繋ぎ合わせで太刀打ちできないか? 中村監督はこう考えた。

「極端な話、スピードがある子なら全球快速球で1イニングぐらいなんとかならないのか。スライダーが得意なピッチャーなら、全球スライダーで1イニング抑えてくれないか。もしそれが可能なら、彼らは投げるたびに“成功体験”を積んでベンチに帰って来られるわけですよ。

 総合力がないピッチャーに、無理して4、5イニング投げさせようとするから、得意じゃないボールも投げなきゃならなくて、そこまでいかないうちにやられてしまう。できないことをやらせて、ピッチャーに恥かかせて、失敗体験を積ませて自信をなくさせるぐらいなら、自信のあるボールだけ投げさせて、やられる前に下ろしてやる。そうやって、守ってやりながら使っていかないと。ウチのピッチャー、東都の1部で投げているような心身の強靭なヤツいませんから」

 今でも、この“作戦”は日本文理大野球部のオリジナルとして、多くの試合で使っているという。

「9人まわし」の継投策も敢行。

 最大「9人まわし」という継投も実際に見たことがある。

 9イニングすべて、バッテリーを組む投手が違う。キャッチャーがたいへんだろうな……と思って、その頃にマスクをかぶっていた吉原徹捕手(佐賀厳木高出身、大学卒業後は東芝)に訊いてみたことがある。

「ピッチャーの調子がつかめないうちに、あっという間に交代ですから、そのへんは戸惑いもありましたけど、基本線は得意なボール、その日いちばん自信のある球種でどんどん攻めていく。監督、ピッチャー、キャッチャー、一致してましたから、みんなから言われるほどはたいへんでもありません」

 投手がコロコロ代わったら、そのたびにいろんな気遣いしなきゃならなくて、バッテリーを組む捕手の苦労はさぞたいへんだろう。そう勝手に気の毒がっていたが、聞いてみると、確かに「全球勝負球」みたいなシンプル、単純な発想で攻めていくのなら、むしろ「9人まわし」ぐらいのほうが、余計な気遣いは逆に必要ないのかもしれない。

 だんだん疲れてくる、相手打者もだんだん慣れてくる1人の「先発投手」を、なんとかかんとかだましだまし長いイニング引っ張っていく気苦労を考えたら……。

 投手のほうだって、ガンガンガン! といって、パッと上がり。そのほうが、精神論の縛りがなくなってきている今の選手たちに、むしろ合っているのではないか。もちろん「ピッチャーなら先発・完投である!」と信じる向きは、そちらを目指して励めばよい。

これ、球数制限に使えないかな?

 アッと思った。

 これ、「球数制限」に使えないかな……?

「全球勝負球で1イニング、2イニング」。それでもいいし、「リリーフ投手が試合の頭を1人か2人で何イニングか」。そんな戦術が一般化すれば、こっちには都合いいが、あっちには当てはまらないなど、杓子定規な規則を作らなくても、自然な形で、結果的に球数削減に結びついていくのではないか。

「オープナー」の話をつらつらと続けてきたら、思いがけず、落としどころの見えなかった「球数問題」に改善のヒントらしきものが、ボンヤリと……。

 なんだか、気がついていないところで、何かと何かがつながっている。

 これだから、「野球」は面白い。

文=安倍昌彦

photograph by Kyodo News


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