疑問符だらけの男、スターリング。なぜペップに重用され続けるのか?

疑問符だらけの男、スターリング。なぜペップに重用され続けるのか?

『フランス・フットボール』誌3月26日発売号では、マンチェスター・シティで押しも押されもせぬ中心選手となったラヒーム・スターリングを取りあげている。

 だが、英国内で彼について語られるとき、そこには常に何がしかの留保と揶揄が含まれるのはどうしてか。いったい彼のどこに問題があるのか……。

 フィリップ・オクレール記者がレポートする。

監修:田村修一

なぜグアルディオラは彼を重用する?

 2017〜18年シーズン以前はそれまでほとんど語られたことのない人物について語るとしたら、しかもそのゴール以上に人間像について語られるとしたら――モハメド・サラー以外にそんな人物がいるだろうか。

 ラヒーム・スターリングはそんな人物であるといえるのか?

 スターリングこそは、まさに説明不可能な人間である。彼は2017年8月21日以降プレミアリーグで33ゴールをあげ(うちPKは1点のみ)、20のアシストを記録している(『フランス・フットボール』誌掲載の3月26日時点)。先日、ウェンブレーでおこなわれたチェコとのEURO2020予選(3月22日、5対0でイングランドの勝利)ではハットトリックを達成した(続く3月25日のモンテネグロ戦でも1得点)。

 だが、それでも彼に対する印象は変わらない。

 彼は、リバプール時代から変わることのない“猟犬”であり、“偏執的なドリブラー”なのである。

 彼のような粗削りな選手がシティで成功を収めたのは、ひとえにグアルディオラという気難しく要求の高い監督の信頼を得たから、というのが一般的なイメージである。

 だが、そもそもグアルディオラほどの監督が、どうしてこの2年間というもの彼以外の選手にもっとプレー時間を与えないのか――。

 ゴール前の不器用さは誰の目にも明らかであるにもかかわらず、である。

エレガンスという言葉から最も遠い。

 より詳細に分析をすると、ひとつの事実が浮かび上がる。

 それはエデン・アザールを除いて、誰も彼以上の枠内シュート率を記録していないのである。

 スターリングが4本中3本を枠内に打っているのに対し、シュートの正確性についてほとんど批判を受けたことがないセルジオ・アグエロですら2本中1本にすぎない。

 おそらくはイメージの問題なのだろう。常人離れした彼の体型が、そんな印象を人々に与えるのかも知れない。

 こんもりと盛り上がった臀部、マイケル・ジョンソンのようにピンと背筋を立てながら、爆発的に加速する目まぐるしいピッチ走法などが、彼のイメージを増幅しているのは間違いない。

 エレガンスという言葉とは、彼は最も無縁な存在である。

ジャマイカ生まれの自己主張の強い男。

 トッテナムのデル・アリやマンチェスター・ユナイテッドのマーカス・ラッシュフォード、マンチェスター・シティのフィル・フォーデンのように、イングランドではトップクラブで少しでも活躍するやメディアに大々的に取り上げられる。そしてひとたび注目を浴びるや、その選手に対する興味を決して失わない。

 2014年には伊『トゥットスポルト』紙が主宰する、ヨーロッパで最も活躍した21歳以下の若手に贈られる「ゴールデンボーイ賞」に彼が選ばれた。前年のポール・ポグバに次ぐ受賞。イングランドでは2004年のウェイン・ルーニー以来2人目の快挙であった。

 ジャマイカの首都キングストンに生まれたスターリングは、人生のほとんどをイングランドで過ごしている。

 自己主張が強く、世間に向けて常に石を投じ続ける彼の言動を、タブロイド紙は事実であろうとなかろうと細大漏らさず報じている。

徹底的に暴かれる私生活。

 2歳のとき父親が殺されロンドンに移住して以来、ずっと彼を養い続けてきた母親のナディーヌに家を買ったときには、派手な装飾を施したその豪邸の値段(100億円を越える資産を持ちながら、わずか3億6千万円ぽっち!)に思わず人々の息が詰まった。今や大富豪となったスターリングであるのに、それほどの買い物ですら「プライマーク(有名な激安ファッションチェーン)」でディスカウントするほどケチであるのかと。

 メディアの中には彼の私生活を徹底的に暴くものもあった。

 ある日のそれは彼の頬髭であり、別の日は右足のふくらはぎに施された、多くの誤解を生んだカラシニコフのタトゥーであった。それは彼にとっては、父親を殺した銃には絶対に触れないという決意の現われであり、相手GKを打ち破り続ける武器が右足であることを示すものであった。

 さらに別のゴシップは、若いときに彼が作ったとされる子供たちだった。噂によればそれは3人であったが、彼自身が認めるのはひとりだけである。

 そうしたメディアの暴露も、スターリングの生き方を変えることはできない。

 イングランドはいつの日にか、街のギャングに対してもノーと言うことができ、努力でサッカー界の頂点に立ったスターリングを、人種差別に対する防波堤――暴力や女性蔑視に対する守護のシンボルとして認めることになるのだろう。

 サッカー選手は彼らの価値に見合った扱いを受けてはいないことを、人びとはもっと認識する必要がある。

グアルディオラは最初から分かっていた。

 幸運なことにシティはスターリングに相応な評価を与えている。当初から、ペップ・グアルディオラは最も注目すべき選手であると認識していた。

 2017年夏にソーシャルアカウントで遍く広められたクリップには、グアルディオラがスターリングに対し激しい身振りで激高している様子が映し出されている。

 彼がそこまで感情を露わにするのは、バイエルンでヨシュア・キミッヒに対してそうであったように――最も信頼を寄せる選手に対してだけである。

驚異的な戦術理解力を誇る男。

 スターリングはその素早い動きと対人能力だけでグアルディオラを魅了したのではない。進歩への渇望と他の誰も持ち合わせないポリバレントな適応力――シティのどの選手も、スターリングほど様々なポジションでグアルディオラに起用されてはいない――で、グアルディオラを虜にしたのだった。

 2017〜18年シーズンに彼はスターリングを右ウィングで25回起用し、左ウィングで10回起用した。

 センターフォワードでは8回。

 偽のセンターフォワードでは9回である。

 それが2018〜19年になると、左サイドが22回、右が15回、トップ下と中盤が1回ずつとなる。

 グアルディオラが戦術を準備する際の異常な細心さを考慮すれば……彼はスターリングの戦術理解力に最大限の信頼を置いていると言えないだろうか。

「プレーしろ。それだけだ」

 状況が変わったのは2016年からであった。

 彼はスターリングにたったひとつの指示しか出さなかった。

「プレーしろ。それだけだ」

 しかし、これまでもそうであったように彼がそういう具合に語りかけるのは、「想像を絶する能力を持った人間」に対してだけであった。

 実際、スターリングの理解力には、ケビン・デブライネやジョン・ストーンズ、ベルナルド・シウバですら及ばなかった。

 24歳にしてスターリングは、シティという魅力溢れるサッカーマシンに欠くことのできない大黒柱になっていのだ。

そのプレーはイニエスタを……。

 プレミアデビューは7年前の2012年3月24日。リバプールがウィガンに1対2で敗れた試合だった。

 以降、今日まで彼が出場可能であった267試合のうち、怪我で欠場したのはわずか5試合に過ぎない。戦術的理由で監督からスタメンを外された試合はひとつもないのである。

 今の彼がどんなプレーをしているか見ればいい。

 ダビド・シルバと並ぶシティの攻撃の中心であり、アタッキングサードにおいて目に見えないスペースを探し出す天賦の才を発揮している。

 得点の多くが無人ゴールに向けて近距離から放たれたシュートにより決まっているのを考慮すれば、ストライカーとしてのポジション取りの動きと、プレー予測能力を称賛すべきだろう。

 アンドレス・イニエスタを彷彿させると言ったら言い過ぎだろうか。

 外見からは想像つかない類似性が、ふたりにはあると言えないだろうか。

文=フィリップ・オクレール

photograph by Alain Mounic/L'Equipe


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る 動画一覧を見る

記事検索