久保裕也の初得点で相手サポ歓喜?ドイツでも稀な、超仲良し2クラブ。

久保裕也の初得点で相手サポ歓喜?ドイツでも稀な、超仲良し2クラブ。

 2019年4月12日の金曜日。僕は電車でニュルンベルクへ向かっていました。金曜日の午後ともなると地元の方々は完全にオフモード。陽が高いうちからビールをあおり、すでに旅行に出かける人々で駅舎も賑わいます。

 そんな中、僕は20時30分から開始されるゲームに思いを馳せていました。試合終了は22時30分前後。取材後、スタジアムを出るのは23時30分を過ぎるだろうと見越して、事前にニュルンベルク市内に宿を取っていました。

 ニュルンベルクは第二次世界大戦前に『ナチス・ドイツ』が党大会を開催していた街であり、激しい空爆によって旧市街は壊滅的な被害を受けました。

 しかし、大戦後にかつての都市構造に従って再建を果たし、今ではカイザーブルク城壁やニュルンベルク市庁舎、そして聖ローレンツ教会などの歴史的建造物が当時の姿のままに凛と立っています。

 また、街の中心に位置するハウプトマルクトでは、ドイツ最大とも言われるクリスマスマーケットが開催され、国内外から多くの観光客を集めます。現在、ニュルンベルクは国内で最も治安の良い街として知られており、荘厳でありながら穏やかな佇まい、住む方の温かなホスピタリティには定評があります。

熱狂的なシャルケサポが大挙。

 そんなニュルンベルクの雰囲気が、この日は一変していました。それは、良い意味で。

 ニュルンベルク中央駅へ降り立つと、構内にはシャルケサポーターがぎっしり!

 今日のカードはニュルンベルクvs.シャルケ。シャルケサポーターはドイツでも屈指の熱狂度を誇り、アウェーの地にも大勢で馳せ参じることで知られています。それにしても彼らの数が多すぎやしないでしょうか。

 ニュルンベルクのホーム、マックス・モロック・シュタディオン。日本では、2006年のドイツワールドカップ当時のフランケン・シュタディオンの方が馴染み深いでしょうか。

 スタジアムの収容人数は4万9923人で、ブンデスリーガクラブの中では中規模ですから、アウェーサポーターをそれほど多く収容できません。何より今日は金曜日、れっきとした平日です!

金曜夜はもう休日という捉え方。

 Jリーグでも金曜日開催の通称『金J』が行なわれるようになりましたが、今季のドイツは金、土、日の3日間に加えて、ヨーロッパ規模の大会に出場するクラブの日程によっては月曜日開催のゲームも組まれるようになりました。

 もちろん、リーグ戦の平日開催はドイツでも賛否両論あり、特に月曜日開催については各クラブのサポーターから激しい反発を受けています。

 昨シーズン、2月19日の月曜日に行なわれたフランクフルトvs.RBライプツィヒでは、ハーフタイムに観客が抗議の意を示してテニスボールを投げ込む行為も見受けられました。またシャルケのサポーターも月曜日開催には反対の意を示していて、ブンデスリーガに対して「お前らにとっての商品は、俺たちの人生なんだ!」という抗議バナーが掲げられたこともありました。

 ただ、こと、金曜日開催に関しては試合間隔の問題で各クラブ、チームの現場から不満の声があがることはあれ、サポーターたちの反応は総じて穏やかです。統計的な総意までは分かりませんが、ドイツの方々はフライデーナイトはすでに休日という捉え方で、土曜日、日曜日に向けた前夜祭的な感覚でリーグ戦を楽しもうとしているのかもしれません。

名物の焼きソーセージ屋で……。

 今回のニュルンベルクvs.シャルケにおける大賑わいには、他にも理由がありました。

 ホテルにチェックインしようと街中を歩いていると、普段と異なる雰囲気を感じました。まず普段は物々しく警戒に当たる「Polizei(警官)」の方々が柔和な表情を浮かべている。

 いつも、街中で大騒ぎした挙げ句に凛々しい女性警官から叱責されてしょんぼりしている荒くれ者たちを見ている僕としては、何とも不思議な光景です。

 ニュルンベルク名物の焼きソーセージ屋さんでは、青白と黒赤の両サポーターが呉越同舟して高らかに笑い合い、ドイツ式居酒屋クナイペ周辺でも互いに肩を組んで大声を張り上げています。ブンデスリーガのサポーターは総じて秩序を保っていますが、試合前からこれほどまでに友好的なのは稀です。

相手サポーター同士で肩を組み。

 スタジアム最寄り駅の前では、道端でシャルケとニュルンベルクのチームカラーとエンブレムを模したマフラーが売られています。コンコースからスタンドに入ると、アウェーサポーターが大挙押し掛ける姿が見えました。

 ところが、メインスタンドには両チームのサポーターが入り混じっていて、「何かがおかしい」と感じました。

 さすがにブンデスリーガもスタンド専有部分は分けられていて、トラブル回避のために両チームのサポーターが混在することはありません。それなのに朗らかに肩を組みながら、ピッチへ向かって拍手を送っているではありませんか。

 そして、両チームの選手が入場ゲートから姿を現すと眼前に壮大な光景が広がりました。メインスタンドから見て左側に青と白、右側に赤と黒。

「あれ? ホームのニュルンベルクサポーターの陣取るスタンドは左側で、シャルケは右側じゃなかったっけ?」

 バックスタンド中央に掲げられたバナーにはドイツ語で「赤黒、青白は永遠に」と書かれています。なんと、鮮やかなビジュアルサポートは、両チームのサポーターが相手のチームカラーを掲げてお互いの前途を祝していたのです。

ユニフォームにも刻まれた友好関係。

 実はニュルンベルクとシャルケのサポーターには友情関係があるそうです。それも近年、急速に関係が密接になってきたとのこと。

 なぜ両サポーターが仲良くなったかには諸説あるらしく、駅構内で乱暴狼藉を働いていたバイエルンサポーターをニュルンベルクとシャルケのサポーターが協力して撃退したとか、シャルケサポーターがアウェーの地で所持金を落として困っていたら、ニュルンベルクサポーターが寄付金を募ってくれて無事帰れたとか、様々な行為が現在の良好な関係に結びついているようです。

 サポーター同士の関係性は、クラブ間の友好にも波及しています。

 両チームが着用するアンブロ社製のユニホームはチームカラーこそ自分たちのものでしたが、ニュルンベルクのユニホームにはシャルケのホーム、炭鉱都市であるゲルゼンキルヘンを模したハンマー&ピッケルが描かれていて、シャルケの方にはニュルンベルクが属するバイエルン州の紋章や旗をかたどったようなストライプ状の模様があしらわれていました。

友情のスカーフと落とせない一戦。

 僕の限られた観戦経験で、これほどまでに友好的な試合会場は初めてでした。もちろん試合中はピッチ上の戦いに一喜一憂して熱い応援が繰り広げられていましたが、会場全体に多幸感が満ち溢れているといいますか、平和にサッカーを観戦できる楽しみを享受しているといいますか……。

 両チームのエンブレムがプリントされたマフラーを見せてもらうと、「Schal der freundSchaft」と書いてありました。「友情のスカーフ」という意味です。

 一方、今回のゲームはホームのニュルンベルクにとって1部残留を果たすために絶対に落とせない一戦で、必然的に試合内容は白熱しました。

 我らが久保裕也は、残念ながら2戦連続のベンチスタート。ニュルンベルクは前半終了間際にマティウス・ペレイラがPKを獲得しましたが、ハンノ・ベーレンスのシュートをGKアレクサンダー・ニュベルに弾かれてしまいます。そんな中、久保はティム・ライボルドが負傷でプレー続行不可能になった50分に急遽交代出場を命じられてピッチへ降り立ちました。

 久保は前節のシュツットガルト戦でも味方選手の負傷で前半途中から出場しましたが、後半途中に交代……。途中出場、途中交代というのは選手にとって非常に悔しいもので、その心中は察するに余りあります。

初ゴールに「クボ!」の大合唱。

 シャルケ戦のハーフタイム。同じく控え組のチームメイトと離れて軸足の裏へボールを通すクライフターンを反復する彼を観て、「何とか結果を残してほしい」と心の中で懇願していました。

 すると82分、右サイドからペレイラが上げたアーリークロスに反応した久保が、左のポストに当てながらヘディングシュートを決めてついにニュルンベルクが先制!

 しかも、これが久保のブンデスリーガ初ゴール!

 試合後インタビューに備えてミックスゾーンへ向かおうとすると、道中のコンコースで僕が日本人だと気づいたのか、皆さん「クボ! クボ!」の大合唱。青白のユニホームを着たオジサンも唱和しているので、「あなたは喜んでちゃダメでしょ」と思いつつ、全然コンコースを抜け出せません。

「頼むから通してくれー」と叫んでいたら、再び大歓声が起き、スクリーンにはシャルケDFのマティヤ・ナスタシッチが同点ゴールを決めているシーンが映し出されていました。

街のパブでも両サポーターは仲良し。

 狂喜乱舞する現場を抜けミックスゾーンに辿り着くと、試合を終えた久保が淡々とした表情でロッカールームへ引き上げてきました。

「(インタビューは)後でもいいですか?」と発して約30分後に姿を現した久保は、自身初ゴールの喜びも早々に、今後も続く残留争いへの覚悟を口にして、静かにその場を去りました。自らが果たした仕事よりも勝敗にフォーカスして、1部残留への険しい道のりを戦い抜く。そんな決意にも似た彼の表情を、忘れることはできません。

 日付も変わった頃、ニュルンベルク旧市街のパブは多くの人々でごった返していました。女性バーテンダーに「ピルスナーをください」と言うと、「ヘレスの方が美味しいわよ。どうする?」と聞かれたので、「じゃあ、ヘレスで!」と応えました。

 忙しなく働く彼女がようやくビールを持ってきて「待たせちゃったわね。ゴメンね」と言うと、赤黒と青白が入り混じる周囲から「プロースト!(乾杯)」の声が上がりました。

 試合は1−1、一進一退、スリリング。でも試合前も試合中も、そして試合後も、この街は温かくて、どこまでも深い愛情に包まれていました。

文=島崎英純

photograph by Uniphoto Press


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