Vリーグ連覇に貢献、次は代表で。“8時半の女”石井優希は強くなった。

Vリーグ連覇に貢献、次は代表で。“8時半の女”石井優希は強くなった。

 バレーボールのシーズンは長い。

 昨年10月に開幕したVリーグを終えたばかりの4月、今度は国際大会に向けた代表シーズンが始まる。

 4月24日。今季の女子バレー日本代表選手が一堂に会し、記者会見の壇上で今季の決意を述べる。初選出の選手が少し表情を強張らせる中、短い言葉の中にこれまでとは異なる変化を感じさせる選手がいた。

 ウイングスパイカーの石井優希だ。

「積み重ねてきた経験を自信に変えて、代表シーズンを戦い抜きたいです」

 文字にすれば何気ない、当たり前の一言。だがそこに含まれた「経験」と「自信」。それは紛れもなく、今季の石井が手にした新たな武器だった。

大事な局面での脆さ。

 最後の一本を決める度胸と、強靭なメンタルがない。頭が真っ白でブロックが見えなくなった。サーブレシーブで崩されて、自分を立て直すことができない。Vリーグでも日本代表でも、石井の口から何度もそんな言葉を聞いた。

 2011年から日本代表に選出され、世界選手権やワールドカップ、リオ五輪にも出場した。久光製薬でも7年連続ファイナル進出('17-18シーズン時点)を果たし、ウイングスパイカーとしてコートに立ち続けたキャリアは十分だ。

 だが、大事な場面で脆さが生じる。

 どれだけ活躍しても石井が堂々と胸を張れずにいた、トラウマとも言うべき経験が'14-15シーズンのファイナル、NECとの決勝戦だ。

 レギュラーラウンドから勝ち続けた久光製薬が優勝候補の大本命。しかし、挑戦者に失うものはない。圧倒的に久光製薬が有利と思われる状況の中、下馬評を覆し、勝利したのはNEC。そして、その試合で敗因をつくったのが石井だった。

「それまでの試合でもサーブで狙われることはありました。でも最初から最後まで、とにかく徹底して狙われ続けたのはあの試合が初めて。私、1つのことを考え始めるとそこだけに頭が行ってしまうんです。サーブレシーブが返らない、また崩れた、どうしよう、どうしよう、って。サーブレシーブがダメならスパイクで頑張ろう、と思うのに、そこも決まらないから余計に焦るし、頭が真っ白になる。

 3連覇がかかった大事な試合だったのに、自分のせいで負けた。すごく苦しかったし、今でも忘れられないです」

 ただ、その一戦は後の石井にとって、大きな転機にもなった。

「大事なのは失点しないこと」

 石井を崩せば勝てる、と翌年のシーズンからはどのチームも徹底してサーブで石井を狙う。最も多い時には900本以上のサーブを受けたこともあった。

 そうなれば必然的に、たとえ1本返らなかったからとはいえ、引きずる時間はない。次、また次、と練習ではなく、試合で繰り返す経験を通して感覚が磨かれ、崩されても落ち込むのではなくステップを入れたり、守備位置を変えたり、次はどうすればいいか、実戦の中で石井もさまざまなチャレンジを試みるうち、「こうしなきゃいけない」とがんじがらめになっていた状態から、少し肩の力が抜けた。

「ミーティングで相手のサーブへの対策を考える時、いつも私が崩された映像ばっかり見せられるんです(笑)。だからいつも崩された印象が残るんですけど、特に世界はみんなサーブがものすごくいいし、同じジャンプフローターでも日本人とは高さや重さ、軌道も全然違う。

 だから今は『Aパスを返す』と言われても、確かにそれは大事だけれど、今の時代はAパスだけじゃないから、大事なのは失点しないこと。パスが崩れた状況からの二段トスをどう決めるか。その技術を磨こう、と考えられるようになりました」

連覇達成も、石井が抱えていた葛藤。

 昨シーズンのVリーグではMVPも受賞し、世界選手権でも攻守の中心を担い、試合出場を重ねた。来年に迫る東京五輪へ向け、技術面も精神面も更なる飛躍を遂げる。そう意気込んで迎えた'18-19シーズン。

 振り返り、数字だけで評価するならば常に安定したパフォーマンスを発揮し、連覇も遂げた充実のシーズンに見えた。

 だが、そう話を向けると、一瞬、石井の顔が曇った。

「心と体のバランスが整わなくて、すごくつらかったです。若い子を引っ張らなきゃ、(主将の岩坂)名奈さんを助けなきゃ、と思っているのに、精神的にも不安定で試合前とか、練習中に涙が出てくる。MVPをいただけたことを自分の中で勝手にプレッシャーにしていたし、今までは自分のことだけ、こうなりたい、こうしなきゃ、と考えていたけれど、周りをどうにかしなきゃ、と思うといろんなことがストレスになる。

 だけど、自分はすごく苦しいのに、プレーはそこそこできるんです。その噛み合わないバランスが余計に苦しくて。今まで感じたことがない、いろんな思いがあったシーズンでした」

同期・長岡望悠の存在。

 世界選手権後の疲労が抜けないままVリーグを迎えたことも不調を招いた一因だったが、もう1つ、自分がやらなきゃ、と過剰に背負いすぎた理由がある。

「(長岡)望悠のことも大きかったです。私にとって、望悠は本当に大きな存在なので」

 同じ歳で久光製薬の同期。ほぼ同時期にレギュラーの座をつかみ、日本代表に選ばれた。共にリオ五輪へ出場し、「次は(もう1人の同期の野本)梨佳と3人でオリンピックに出場しよう」と誓い合ってきた。

 だが、長岡は'17年の試合中に負傷し、診断結果は左膝前十字靭帯損傷で手術を敢行。リハビリを経て昨年日本代表に復帰、イタリアセリエAのイモコに移籍したが、昨年12月に再び同じケガに見舞われ、帰国、手術を余儀なくされた。

 日本代表としてコートに立つべくリハビリに励む仲間のためにも自分が逞しくならねば。気づかぬうちに石井は自分で自分にプレッシャーをかけていた。

「エースは望悠で、負けたくないという思いはあったけれど、でもそれ以上に自分が苦しい時や決まらない時に後衛からも助けてくれたのが望悠でした。だから望悠が今までどれだけボールが集まっても決めて来たように、私もそうならなきゃ、って」

苦しんだ末に気付いたこと。

 まだ足りない。まだダメだ。長岡と比べてばかりいたせいか、できないことばかりに目が向いていた。だが、それではいつまでも変われない。ファイナルステージに突入し、緊張感を伴う試合が増えた頃、大切な根本にようやく気付いた。

「苦しい、で終わるのではなく、楽しもう、と思えたんです。だから、まだまだ全然頼りないですけど、どれだけ苦しくても逃げるのは辞めよう、って思いました」

 レギュラーラウンド、ファイナルステージを1位で終え、連覇をかけ迎えたファイナル。ファイナル8を0ポイントから勝ち上がり、決勝へコマを進めた東レが大逆転勝利を狙う中、石井は冷静だった。

 最初が肝心だと思っていた、という第1セットの立ち上がり。石井の得意なストレートをブロックで締めてくるのがわかっていたから、ブロックアウトやブロックの間、わずかに空いたコースを狙い、あえてストレートに打ち続けた。

「ここだけは押さえたい、と思うところで決められたらダメージが大きいと思ったんです。だから相手が嫌がることをやって点を取りたかった。こういう特別な舞台に何度も立たせてもらってきたから、すごくワクワクしたし、最後まで楽しくプレーできました」

石井が得た「自信」。

 グランドファイナルもゴールデンセットの末に制し、連覇を達成したが、息つく間もなくまた新しい戦いが始まる。

「リオのOQT(世界最終予選)の時、途中出場が多かったから新聞に大きく『8時半の女』って書かれた時はすごく嫌だったんです。

 でも今は何とも思わない。むしろ注目してもらえるのはありがたいし、同じポジションの(古賀)紗理那や(黒後)愛、それぞれみんな持ち味があるし、個性も強い。だから、私はきれいに決めなくてもいいや、って。得点が獲れるなら、どんな形でもいい。毎日、サバイバルですから」

 いい時ばかりではなかった。でも、だからこそ少し、強くなれた。

 積み重ねた時間は紛れもなく、今の自分が誇れる力だ。

文=田中夕子

photograph by Naoki Morita/AFLO SPORT


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