錦織圭、苦戦しつつも16強に進出。コートでのつらそうな顔が気になる。

錦織圭、苦戦しつつも16強に進出。コートでのつらそうな顔が気になる。

 5月8日正午過ぎ。前日、大坂なおみが世界ランキング73位のサラ・ソリベスに苦戦を強いられたコートに姿を見せた錦織圭。

 頭上では、昨日までマドリードの空になかった分厚い雲が太陽を覆っていた。気温は20度近くあったが、少し肌寒い。試合開始直前には通り雨が降り、赤土のコートを適度に濡らした。

 マドリード・オープンのシングルス2回戦から登場した第6シードの錦織は、世界109位のウーゴ・デリエンと顔を合わせた。2人は初対戦。デリエンはボリビア出身の25歳で、ツアータイトルはなし。通算成績は14勝13敗で、うちクレーコートで12勝。その数字は、南米の選手らしく赤土を得意にしていることを示している。

 立ち上がりから、錦織は自在のプレーを見せた。相手サービスの第1ゲーム。錦織のポイントは、鮮やかなバックのダウンザラインで始まった。

 デリエンはやや萎縮気味で、早い段階からミスを連発。あっという間に錦織はブレークに成功した。その後も集中力を増したように錦織のショットは次々と決まる。絶妙なハーフボレーをネット際に落とし、客席を沸かせる。第5ゲームではフォアの逆クロスで相手を振り回し、甘く浮いた返球を容赦ないボレーで仕留めて再びブレークした。

圧勝かと思われたが、一転……。

 試合は、実力差通りに進むかと思われた。流れが変わり始めたのが、5−1で迎えた相手サービスの第7ゲーム。15−40と追い詰めながらしのがれ、2度のセットポイントを逃した。それでも、次は錦織のサービスゲーム。さくっと奪って第2セットへ――という場面で、暗転した。

 第2サーブを強打され、ラリーは消極的になって後手に回る。15−30からはダブルフォールト。たまらずベンチに戻ってラケットを替えたが、ブレークポイントでは相手が見事なバックのストレートを打ち抜いてきた。

 気おされたわけではないだろうが、このブレークバックを機に悪い癖が出始める。ブレークポイントで、あと1本が出なくなった。決めにいくフォアが、なぜか入ってくれない。一方、デリエンはフォアの逆クロスが決まりまくり、序盤とは別人のように調子を上げていった。

6−1や6−2で取れるセットだった。

 5−3の第9ゲーム。錦織は3度のセットポイントを逃し、第10ゲームは再びサービスを破られ、4ゲームを連続で落とした。それでも第11ゲームは、8度目のブレークポイントをようやく物にする。最後は錦織が攻めたわけではなく、相手のボレーミスで決まった。

 6−5の第12ゲーム。40−0からフォアをネットに掛け、得意のドロップショットもネットを越えてくれない。もやもやする展開の中、最後は何とか相手のミスを誘い、1時間ほどかけてセットを先取。地力の差を考えれば、相手の反撃を許すことなく6−1や6−2で取るべきセットだった。

錦織の口からでた「詰めの甘さ」。

 圧倒的に優勢だった第1セット途中から、デリエンに追い上げられた要因は自分か相手、どちらにあったと感じているか。試合後、それを尋ねた。

「(デリエンの)ミスが減ってきたのと、吹っ切れてきたのかなという感じはしました。最初はボールが浅かったり、ミスが早かったりしたけど、そこでチャンスを与えてしまったのは自分の詰めの甘さ、っていう可能性はあるかもしれないですね」

 語尾をふんわりとさせたものの、「詰めの甘さ」という言葉が出るのは、そう感じる場面があったからだろう。

 第2セットも苦しい状況を引きずった。第5ゲームは4度、第7ゲームは2度のブレークポイントを逃した。第9ゲームでやっとブレークしたかと思えば、キープすれば勝利という5−4の第10ゲームで第1サーブが全く入らず、簡単にブレークされてしまう。

 それでも、第11ゲームでは久々に豪快なバックのダウンザラインを決めてプレッシャーを掛け、ブレーク。第12ゲームは、ラブゲームで締めた。24度も握ったブレークポイントを、19度しのがれた。反省の気持ちが心の大半を占めたに違いない。試合直後の晴れない表情から、それが推し量れた。

デルポトロとのダブルスは楽しそうな表情。

 2回戦が終わったのは午後2時過ぎ。その数時間後、錦織は休む間もなく、フアンマルティン・デルポトロ(アルゼンチン)と組んだ男子ダブルス2回戦に臨んだ。

 ジュニア時代から互いをよく知る者同士だが、ダブルスを組んだのは今大会が初めて。30歳のデルポトロは、膝のけがからの復帰戦。錦織は、今回のペア結成の感想や意図をこう語る。

「うれしいですね。彼と初めて(組めて)。13、14歳の頃から彼のことは見てきて、一緒の大会にも出ていましたし。彼の方がレベルは上だったので、ちょっと上の存在、という感じでした。その頃からトップでやっていた彼とできるチャンスはありがたいので、やろうかなと」

会場が笑いに包まれた「寸劇」。

 ダブルスでプレーする錦織は、実に楽しそうだ。シングルスとは重圧の掛かり方が違うからだろう。ミスをしても落ち込んだり、引きずったりするそぶりはなく、次の一球へ気持ちを切り替えられている様子がうかがえる。

 相手ペアは第3シードのジェーミー・マリー(英国)/ブルーノ・ソアレス(ブラジル)組。第1セットをタイブレークの末に奪われた後、1−4と劣勢だった第2セット第6ゲーム。

 錦織が放ったバックのドライブボレーが、前衛のソアレスに直撃した。錦織はすぐさまネットに駆け寄り、「ごめん!」の仕草。ソアレスは大げさに怒ったふりをし、客席は大盛り上がりした。この「寸劇」にデルポトロも参戦。錦織に大げさなハイタッチを求めると、会場は再び大きな笑い声に包まれた。

 結局、ダブルスはストレート負け。それでも、錦織は満面に笑みを浮かべていた。テニスという競技を、純粋に楽しんでいるようだった。シングルスとは根本的に力の入れ方が異なることは理解しているが、この日のように心の底から楽しむ錦織の姿を、もっとシングルスでも見たい。最近は、コートの中でつらそうな顔ばかりしている気がするから。

大坂なおみ「またテニスが楽しくなっている」

 この日、女子シングルスで8強入りした大坂なおみが、ちょうど心とテニスの相互関係について言及していた。

「またテニスが楽しくなっているように感じる。それは自分にとって、常にいいことでもある。そういう精神状態の時は、いつもいいプレーができているから」

 いいプレーができるから、楽しめるのか。楽しんでいるから、重圧が増す場面でもいいプレーができるのか。どちらが正解というわけではないし、一概に言えることでもない。

 それでも、テニスを楽しむ姿勢をもう少し前面に出すことは、錦織が苦しんでいる「要所をきっちり抑える」という課題を解決する、何かのきっかけになるかもしれない。何よりも、シングルスで楽しそうにプレーする錦織の姿が、私はもっと見たい。

文=長谷部良太

photograph by AFLO


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