大坂なおみ、同世代ライバルに連敗。「一番学んだこと」は心の重要性。

大坂なおみ、同世代ライバルに連敗。「一番学んだこと」は心の重要性。

 世界1位を逆転で破ったベリンダ・ベンチッチ(スイス)を祝福する大歓声に沸くコートで、手早く荷物をまとめた大坂なおみは、耳をふさぐかのように、スマートフォンにつながれたイヤホンをそっと耳に入れた。

 左腹筋痛からの復調ぶりや、クレーコートへの適応力が注目されたマドリード・オープン。1回戦から3勝を積み上げ、4強入りまであと一歩に迫りながら、手が届かなかった。

 ベンチッチ戦を前に、大坂は特別な思いを抱いていた。前回対戦した3月のBNPパリバ・オープン4回戦ではラリー戦で圧倒され、3−6、1−6でストレート負けしている。この大会は昨年、念願のツアー初優勝を遂げた思い出深い舞台。そこで連覇を阻まれた、苦く、新しい記憶が、雪辱の思いを強くしたのかもしれない。

「彼女に2回続けて負けたくなかった」

 21歳は、素直に胸の内を明かす。

 ベンチッチは大坂と同じ1997年生まれ。マルチナ・ヒンギスの母から指導を受け、ライジングショットを最大の武器としている。2016年2月、大坂よりも先に18歳で世界トップ10入り。けがでランキングを落としていたが、再び上位に戻ってきた。

いい方向に働かなかった闘志。

 同世代のライバル候補に対する大坂の闘志は、いい方向に働かなかった。試合中にミスを引きずる原因になり、逆転を許した。

 第1セット、大坂は第4ゲームで相手のミスにつけ込み、早々とブレークする。だが、その直後に第1サーブが入らず、ブレークバックされる。それでも、第8ゲームで2度のダブルフォールトを犯した相手に助けられ、ここをブレーク。盤石さは示せなかったものの、何とかセットを先取した。

 第2セットはバックハンドのクロスが決まらなくなり、「ただ、ミスのことだけを考えてしまった」と反省する展開となる。第1ゲームではいら立ちを隠せず、ブレークポイントを3度逃した。まだ優位は変わらないはずなのに、大坂の攻めは消極的になる。第2ゲームでは甘い球を中途半端に返球し、逆襲を受けた。ブレークポイントを握られた場面では第2サーブを深く返され、たまらずミスした。

 ブレークバックに成功した直後の第6ゲームでは、決めにいったフォアの強打をカウンターで抜かれ、客席が沸く。ここから連続でミスを重ね、最後はダブルフォールト。テニスの内容自体は悪くないのに、相手の好ショットやミスをした自分へのいら立ちをきっかけに、安定したプレーができないでいた。

大坂が勝つと思った2つの理由。

 それでも私は、最終セットは大坂が取るだろうと考えていた。

 その理由は2つある。1つはここまでの展開で、1度もラケットを投げていなかったから。怒りをラケットにぶつけようとしたことは何度かあったものの、その度にぐっとこらえ、自分を戒めるようにうなずいていた。不安定ながらもぎりぎりのところで心を制御できていると思えた。

 2つ目は、2回戦後に話していた「ゾンビモード」のことだ。サラ・ソリベストルモ戦の第2セットも同じように崩れたが、最終セットは無心のプレーで平常心を取り戻し、「ゾンビモードに入った」と独特の表現で振り返っていた。だが、この日はゾンビになることはできなかった。

 悪い兆しは、相手サービスの第1ゲームで早くも現れた。15−40から大坂はバックハンドのミスを続け、ブレークチャンスをものにできない。その直後、バックのクロスがサイドラインを割ると、ついにラケットを投げ捨てた。

 それでも、何とか第5ゲームをブレークし、迎えたサービング・フォー・ザ・マッチの第10ゲーム。肝心な場面で第1サーブが入らず、ラブゲームでブレークされてしまう。

 次のゲームでは、ミスの後で地面に強くたたきつけた後、ラケットを交換した。ゲーム間にベンチへ戻ると、タオルを頭からかぶって黙考する場面もあった。だが、乱れた心は元に戻ってくれない。5−6の第12ゲームはショットのフォームも崩れ、相手のマッチポイントではバックハンドがネットに掛かった。

世界1位を守りたい理由があった。

 先手を取られた後も、集中を切らさなかったベンチッチは振り返る。

「私はただ、全ての球に集中していた。そうしたら、どういうわけか状況が変わっていた」

 この言葉からも、主な敗因は大坂自身にあったと言わざるを得ない。

「今日はミスが出ると、そのポイントがどれだけ重要だったかとか、なんであんなミスをしたのかということばかり考えてしまった。普段なら、次のポイントに切り替えるのに」

 ベンチッチに対する強烈な対抗心だけでなく、もう1つ、頭から離れないことがあった。

「ここでベスト4に入れば、(来週も)世界1位で居続けられると聞いていた。だから勝ちたかったし、試合中にそのことを考えていた。それは必ずしもいいことではなかった」

 1位を守りたい理由があった。

「正直、フレンチではナンバーワンとしてプレーしたい。グランドスラムで第1シードになったことがないから」

ハレプの4強入りが重圧になった?

 現在、大坂のWTAポイントは6151点。今大会の成績で大坂を上回る可能性があるのが、5682点で世界3位につけるシモナ・ハレプ(ルーマニア)。昨年の全仏オープンで悲願の四大大会初制覇を遂げた、驚異のフットワークと不屈の魂を持つ27歳だ。

 ハレプはマドリードで優勝すれば、1月の全豪オープン後、大坂に奪われたトップの座に返り咲ける。自身の試合前に、ハレプが4強入りを決めていたことも、大坂の重圧になったのは明らかだった。

「全ては改善している」と手応え。

 世界1位の第1シードが4強入りできなかったことでマイナス面に目が行きがちだが、プラス材料も少なくない。

 4月下旬に4強入りしたポルシェ・グランプリで準決勝を棄権する要因となった左腹筋痛は再発せず、昨季まで苦手にしていたクレーコートでの戦いにも徐々に慣れてきている。昨年のこの大会は初戦敗退。

「全体的には良かったと思う。1回戦はサーブができるかどうかも分からなかったわけだから。去年は1回戦で負けているし、全ては改善している」

 今後はイタリア国際(ローマ)に出場し、5月26日開幕の全仏オープンに備える。赤土の対策をする時間は、もう少しある。ただ、今後も長く続くであろう大坂のキャリアを考えれば、今は特定のサーフェス対策よりも、心をコントロールするための忍耐強さを身に付けることがより重要かもしれない。それができれば、さらに安定感が増すことは間違いないのだから。

「自分が落ち着いている時はベストのプレーができるけど、今日はそうではなかった。それが一番、学んだこと」

 悔しい思いをしたことで、また1つ、強くなれる方法が見つかった。

文=長谷部良太

photograph by Getty Images


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