苦しい立場のアルバルクが連覇達成。BリーグCSが物語る日本バスケの成長。

苦しい立場のアルバルクが連覇達成。BリーグCSが物語る日本バスケの成長。

「レギュラーシーズンで千葉にコテンパンにやられていたという事実が、僕たちの闘争心に火をつけたのかなと思いますね」

 竹内譲次の言葉どおりだった。アルバルク東京が、1年の総決算であるBリーグ・ファイナルの大舞台で、千葉ジェッツに1年間の借りを返してみせた。

 もっとも、闘争心に火をつけようと意気込んだとしても、それを結果に結びつけられない選手やチームは少なくない。

 プレッシャーのかかる大一番で、彼らが闘争心に火をつけ、リベンジを果たせた要因はどこにあるのだろうか――。

ジェッツ有利の声が多かったファイナル。

 そもそも、今シーズンのジェッツが、52勝8敗というBリーグ歴代最高記録を打ち立てたのは周知の事実だ。他にも、1試合平均得点や3ポイントシュート成功率など、数々の記録を樹立した。

 対するアルバルクは、レギュラーシーズンを44勝16敗で終えている。これは全18チーム中で4位の成績であり、ワイルドカードでチャンピオンシップ(CS)への出場を決めた。

 チームは今季、開幕直前にタイで行なわれたFIBA Asia Champions Cup 2018に出場した。その関係でプレシーズンの体力面・戦術面での追い込みに失敗したことに加え、シーズン中もこれまでに類を見ないほどの期間にわたって日本代表の活動が組まれていた影響もあった。竹内に加え、田中大貴、馬場雄大という3人の日本代表選手がチームとともに活動できる期間は短かったのだ。

 昨シーズンと同じ顔合わせとなった今シーズンのファイナルを前に、ジェッツの初優勝を予想する声は大きかった。

 昨シーズンはレギュラーシーズンとアーリーカップを含めて、アルバルクから見てジェッツとの直接対決は5勝2敗という成績。レギュラーシーズンの成績こそ、今季同様にジェッツが上回っていたものの(ジェッツが46勝14敗、アルバルクが44勝16敗)、直接対決の勝敗に開きがあったため、ファイナルでアルバルクが勝っても驚きはなかった。

 しかし、今シーズンは様子が違う。アルバルクとジェッツとの直接対戦の成績は天皇杯を含めて、1勝6敗という惨憺たるものだったからだ。

沖縄、新潟、さらに過密な日程。

 それだけではない。

 アルバルクはプレーオフにあたるチャンピオンシップ(CS)のクォーターファイナルを新潟で、セミファイナルを沖縄で、共にアウェーの地で戦わねばならなかった。東京からの移動があり、現地ではストレスがたまりがちなホテルでの生活を強いられた。

 そして、追い打ちをかけるように思われたのが試合日程だ。琉球ゴールデンキングスとの準決勝は、1勝1敗でGAME3までもつれ込んでいたのだが、最終戦が行なわれたのはGAME2の翌日の休息日をはさんだ後の、5月7日の火曜日の夜だった。彼らが東京に戻って来られたのは5月8日の水曜日、ファイナルの行なわれる3日前だった。

 対するジェッツの面々は、普段のホームゲームと同じようにクォーターファイナルもセミファイナルも自宅から本拠地・船橋アリーナに通い、セミファイナルを2連勝で終え、5月6日の月曜日からファイナルへの準備を始めていた。

 両チームの間には、シーズン中の成績、ファイナルへの準備期間、休息日数にかくも大きな差があった。

 しかし、そんな条件が、大方の予想とは正反対に作用することがある。それがスポーツの面白さでもある。

ルカHCが見出していた勝算。

 CS出場チームには、若手といわれる40代前後のヘッドコーチ(HC)も多かった。一方、アルバルクを率いるのは、50歳と経験豊富なルカ・パヴィチェビッチである。1勝1敗で迎えた琉球とのGAME3を前にして、百戦錬磨の指揮官は選手たちにこう話したという。

「もし、我々がこのゲームに勝てれば、そのときには、この試合がファイナルへ向けた良い材料、テスト、練習となる。だから、チーム全体でベストなパフォーマンスでプレーをして乗り越えるんだ!」

 ルカの愛称で知られるHCは、ファイナルを目前にし、ともすれば大きなハンデとなる試合日程に無限の可能性を見出していた。

 1つが、練習では決して得ることのできない、苦しい試合を乗り切ることによって得られる選手たちの成長と、チームの一体感の醸成だ。

エース田中大貴の復調。

 そして、もう1つがエース田中への影響だった。

 田中は4月13日のジェッツ戦から、翌週までの計4試合を左足のハムストリングの怪我で欠場していた。ジェッツ戦の2週間後に始まったCSでも、スタメンではなく、途中出場から完全復帰への道を模索していた。だから、琉球との試合が3戦目までもつれ込んだとき、ルカHCはこう感じていたという。

「ダイキは怪我でチームをはなれていたので、なかなかゲーム勘が取り戻せなかった。ダイキが早くゲーム勘を取り戻せるようにという意味でも、GAME3は、チームにとって大きなステップだと思いました」

 そうした考えがあったからこそ、琉球との試合を制すと、ルカは選手たちに発破をかけたという。

「この厳しいゲームに勝ったことは、我々の成長につながるぞ!」

 そして、試合勘を取り戻そうとしていた田中も、ファイナルの舞台で今季のCSでは初めてスタメンに名を連ねたのである。

ジェッツの猛攻、ミスを逃さないアルバルク。

 ファイナルは前半を終えた時点で35−33。一進一退の攻防が続き、アルバルクはどうにか2点をリードしてハーフタイムを迎えた。彼らが流れをつかんだのは第3Qからだった。ジェッツの守備でのミスを見逃さず、10連続得点を記録するなど、第3Q終了時のスコアは64−45。この試合最大となる19点にまでリードを広げた。

 だが、第4Qに入ると、リーグ歴代最高勝率を誇るジェッツが意地をみせて、猛攻をしかけてきた。その結果、残り27秒を切った時点で、2点差の69−67まで詰め寄られ、さらに一度はボールを奪われ、速攻を繰り出されそうになった。

 しかし、そこで相手のパスミスが生まれ、アルバルクボールに。最後はアレックス・カークが2本のフリースローを沈めて、71−67で逃げ切ることになった。

明暗を分けたリバウンド数。

 試合後、ジェッツの司令塔である西村文男は敗因の1つとして、「東京さんにタフショットを打たせるという狙いはできたのですが、そのあとにオフェンス・リバウンドを多くとられてしまったことが……」と語った。

 逆に、アルバルクのインサイドを支えた日本代表の竹内は、こう話した。

「こういうゲームではディフェンスとリバウンドが重要だと思っていたので。リバウンドゲームでしっかり勝てた……とまでは言わないですけど、そこでしっかりゲームを作れたことが1番嬉しいですね」

 思い返せば、準決勝でのジェッツは、リーグ最多のリバウンド数を誇る栃木ブレックスよりも多くのリバウンドを記録していた。そこにジェッツの今季の成長の跡を見て取った人も多かったはずだ。

 しかし、アルバルクはファイナルという大一番でジェッツよりもトータルで13本、オフェンス・リバウンドだけで8本も多くつかみとってみせた。

 アルバルクが、負けた時点でシーズン終了となるCSの戦いを、成長の糧にしてきた成果はそんなところにも表れていた。

竹内、田中が話したCSの意義。

 竹内はCSの意義をこう説いた。

「新潟、琉球と、当然ですが、それぞれが色々なシステムを導入してきています。特色の違うチームを相手に、短い期間で準備して、僕らのディフェンスで対抗してきました。そして、そこで結果が出てきたことがやはり、自信になりました」

 ルカHCが試合後の記者会見で準決勝のGAME3の意義を語っているのを聞いて、確かにうなずいていた田中は、こう考えている。

「ヘッドコーチの言葉にもあったように、琉球さんとのすごくタフなシリーズを制したのも、自分は、チームに勢いが出たんじゃないかと思っています。苦しかったですけど、最後にこうやって良い結果に終わることができて、すごく嬉しいです」

 およそ7カ月間かけて戦うレギュラーシーズンで積み上げてきたものが問われるのが、CSという舞台である。

 そんなシーズンの総決算であり、選手たちにのしかかるプレッシャーや緊張感がふくらむCSでは、一つひとつ試合に、レギュラーシーズンの試合以上の重みがある。そして、その重みは選手やチームの飛躍的な成長につながる。

スポットライトが当たったバスケ界。

 プロ野球ではクライマックスシリーズというプレーオフがあるし、かつてのJリーグにもチャンピオンシップという名のプレーオフが存在していた。ただ、その存在意義やルールについて疑問を投げかける声は少なからず存在してきた。

 一方、Bリーグは3地区に分かれている以上、それぞれの地区の優勝チームだけを集めると奇数になってしまうし、レギュラーシーズンでは他の地区のチームとの対戦数にバラツキが生まれている。だからこそ、レギュラーシーズンの成績を参考にしたうえで、競技力でのナンバー1を決めるためにCSを組む必然性がある。興業面以外でもCSの意義と価値が十分に見いだせる。

 アルバルク東京は、良くも悪くも、バスケットボールの勝敗にフォーカスしたチームである。そんなチームが、CSの舞台をチーム力向上の糧にして、日本一になった。その事実が、他のプロスポーツリーグにはない魅力的なプレーオフ制度がBリーグに存在していることを雄弁に物語っている。

 21年ぶりの自力でのW杯出場権をつかみとり、44年ぶりの五輪出場を決めた2018-19シーズン。そんなシーズンのファイナルは、日本バスケットボールの競技力にこれまでにないほどのスポットライトがあたった1年を象徴するかのように、アルバルクの連覇で幕を閉じたのだった。

文=ミムラユウスケ

photograph by Kiichi Matsumoto


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