ナダルが今季クレーで優勝ゼロ。33歳にして正念場を乗り越えるか。

ナダルが今季クレーで優勝ゼロ。33歳にして正念場を乗り越えるか。

 日本選手以外ならどのテニス選手が好きかと問われたら、私ならまずラファエル・ナダルの名前が浮かぶ。スペイン、マヨルカ島出身の32歳。四大大会で17度(全豪1、全仏11、ウィンブルドン2、全米3)の優勝を誇る、ファンにはお馴染みの「赤土の王者」だ。

 丸太のごとき二の腕から繰り出す左フォアハンドは強烈なスピンが掛かり、球がよく弾むクレーコートとは相性抜群。豪快なフォームで生み出す尋常でない回転量は、強靱なフィジカルを持つからこそ、らしい。

 同じサウスポーの西岡良仁は、「子供の頃にナダル選手のような球を打ちたいと思ってマネしていたら、肘を痛めてやめた。肉体的に、あれは無理」と、自身のYouTubeチャンネルの中で話したことがある。

 試合中のルーティンの多さでも知られ、ベンチ前にはペットボトルを2本、常にラベルの向きをコート側に向けて立てておく。先日、私が出張を終えてロンドンの自宅に戻ると、テニス観戦が好きな8歳の娘が自分の鼻を触り、髪を耳にかける動きを繰り返した後、サーブを打つ物まねを披露してくれた。「あと、お尻も触れば完璧だ」と改善点を教えると、喜んでいた。

 小さな子供も引きつけられるほど、特徴が満載。テニス専門記者ではない私は、そういう「分かりやすさ」を持った強者に魅力を感じるのだと思う。

クレーで未勝利は2004年以来。

 ナダルは今季、先日のマドリード・オープンまでのツアー6大会で1度も優勝できていない。全豪オープンの前哨戦、ブリスベン国際は左太もものけがで欠場。ぶっつけ本番で臨んだ全豪は決勝まで進んだものの、ノバク・ジョコビッチにストレートで完敗した。3月のBNPパリバ・オープンは4強まで進みながら、右膝のけがで棄権。その後のマイアミ・オープンも欠場した。

 得意とするクレーコートのシーズンに入っても、以前の盤石さは戻っていない。モンテカルロ・マスターズでは準決勝でファビオ・フォニーニ(イタリア)に4−6、2−6で敗れ、4連覇を逃した。記者会見では「クレーでは過去14年で最悪の試合だった」と自虐的に話した。

 続くバルセロナ・オープンでも準決勝でドミニク・ティーム(オーストリア)にストレート負け。マドリード・オープンも4強入りしたが、準決勝では、急成長中の20歳ステファノス・チチパス(ギリシャ)にフルセットの末に敗れた。シーズン開幕からツアーを戦い、この時期まで優勝がないのは、まだ10代だった2004年以来。タイトルに届かない世界ランキング2位を、「スランプ」と断じるメディアも出始めている。

前向きな姿勢にも欠ける安定感。

 最近は記者会見のたび、不調を前提とした質問が飛び交う。モンテカルロでは弱気な言葉も出たが、本人は基本的には前向きな姿勢を貫いている。

 マドリードの開幕前は、「自分にとってのトップレベルになるためにベストを尽くしているし、そこに近づいていると思う」と言った。

 そのマドリードでは、3回戦で錦織圭に6−3、7−6で快勝したスタン・ワウリンカ(スイス)と準々決勝で対戦し、3ゲームしか与えず完勝を飾った。

「彼は非常にタフな錦織を破ってきたし、厳しい戦いになると思っていた。僕にとって、いい日になった。全てがうまくいった。相手はバック側を狙いに来ていたが、僕のバックのリターンが良かったので隙を見つけられなかったと思う」

 試合を支配し、自信を取り戻したかに思えた。だが、翌日の準決勝でチチパスに敗れると、「やりたいことができなかった」。トーナメントを勝ち上がるために必要な安定感が、欠けていた。

「感覚はいいんだ、感覚はね」

 コメントの中に達観したような要素をにじませることが多いナダルは、この時も自分の置かれた立場を冷静に見つめ、言葉をつないだ。

「僕はこのサーフェスで長年、多くの勝利を重ねてきた。今年は(十分に)勝つことができない。それは受け入れるけど、何かを変える必要があるということではない。(ティームにストレート勝ちした)2017年のバルセロナ・オープン決勝や(決勝でフェデラーと激闘を演じた)全豪のようなプレーができていたら、負けてはいなかったと思う。あくまでも感覚として、だけど。フォアで十分にダメージを与えることができなかった。僕のフォアを嫌がらない時、相手はより快適にプレーしてくる」

 2日後、イタリア国際の舞台となるローマの記者会見場に現れたナダルは、再び「今季は未勝利だが」という趣旨の質問を受けた。

「感覚はいいんだ。まだ優勝していないけど、感覚はね。勝つために十分なプレーをしていないけど、とても悪いわけではない。3大会連続で4強入りしているし。いや、インディアンウェルズから4大会か。けれど、それがテニス。勝つこともあれば、負けることもある」

苦しんでいた2015年の大復活劇。

 けがの影響を引きずるようにして、期待通りに活躍できない今季のような姿を見たことがある。

 右手首痛から復帰した2015年シーズン。私が初めて四大大会を取材したその年も、ナダルは苦しんでいた。6連覇が懸かった全仏オープンは準々決勝で第1シードのジョコビッチと早々とぶつかり、ストレート負け。全仏では6年ぶり2度目の黒星というデータが、赤土最高峰の舞台で築き上げてきたナダルの圧倒的な存在感を物語っていた。

 続くウィンブルドンでは、2回戦でドレッド頭のダスティン・ブラウン(私が好きな選手!)のトリッキーなプレーに屈した。私は「落日」という言葉を使い、輝きを取り戻せないナダルの当時の状況を記事にした。

 しかし太陽は、再び昇ってくれた。ナダルは四大大会で1度も8強入りできなかった2016年を乗り越え、翌年は全仏で3年ぶり10度目の優勝。8月には約3年ぶりに世界1位に返り咲き、全米では4年ぶりのタイトルを手にした。2018年は全仏で連覇。得意ではない芝のウィンブルドンでも7年ぶりに4強入りしたのだった。

 もっとも、その勢いは長く続かなかった。連覇を狙った全米で右膝を痛めてしまう。準決勝のフアンマルティン・デルポトロ(アルゼンチン)戦で、無念の途中棄権。コートを縦横無尽に駆け回るフットワークに、体が付いて来られなくなってきたのか。そんな印象を受けざるを得なかった。

 今年、再び訪れた正念場。全仏オープン第2週の月曜日にあたる6月3日、ナダルは33歳の誕生日を迎える。「落日」と同じような表現は、当分使いたくない。

文=長谷部良太

photograph by Getty Images


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