アメリカ時代のコーチが感心した、富樫勇樹のリーダーとしての成熟。

アメリカ時代のコーチが感心した、富樫勇樹のリーダーとしての成熟。

 普段はクールな男が、吠えた。

“Let's go!”

 5月11日に行われた、アルバルク東京と千葉ジェッツのBリーグファイナル。試合時間残り5分からジェッツの富樫勇樹が乾坤一擲の3ポイントシュートを2本連続でねじ込み、一時は19点あった差を5点まで挽回した。

 おそらく、横浜アリーナが最もボルテージが上がった瞬間だった。

 試合終了間際にも富樫は再度、2点差に迫る大きな3ポイントを決めた。が、ジェッツは一歩及ばず。去年の再戦となった優勝決定戦で、再び後塵を拝した。

千葉とともに描く富樫の成長曲線。

 試合終了から数時間後、会場の横浜アリーナ近くのホテルで慰労会が開かれた。勝っていれば祝勝会となるはずだったが、肩を大きく落とす者もいなかった。数時間前に超満員のアリーナを熱狂させた立役者の一人である富樫は「いつもの」クールな彼に戻っていた。

「すごい悔しいというのはあるんですけど、今年に関してはこのチームが、正直、このリーグでベストだと胸を張って言えるチームが作れたと思っています」

 試合直後の記者会見では再び敗戦した悔しさから「感情的になった」と話した富樫だが、この時は落ち着いた、まっすぐな口ぶりだった。

 Bリーグ初年度は44勝、昨季は46勝、そして3年目の今季はリーグ最高勝率となる52勝とジェッツは着実に実力を上げてきた。その成長曲線は富樫のそれと重なっていると言えよう。

 司令塔のポイントガードとして、ただスピードのあるプレーをする選手だというだけではなく、名実ともにチームの中心となった。そのことは、数年ぶりに目の前で彼のプレーを見ることとなった元コーチも実感していた。

NBDL時代の富樫を知るコーチが。

 ファイナル進出を懸けたチャンピオンシップ・セミファイナルの栃木ブレックスとのシリーズ。富樫の、NBDL(現Gリーグ)テキサス・レジェンズ時代のアシスタントコーチだったタイラー・ガトリン氏の姿があった。

 現在はNBAサクラメント・キングス傘下のGリーグチーム、ストックトン・キングスでアシスタントコーチを務める氏にとって、富樫に会うのは2人がレジェンズに在籍した2014-15年シーズン以来だった。

 当時、まだ21歳だった富樫をガトリン氏は「少しシャイだった」と、微笑みを交えながら振り返った。

 コーチと言ってもガトリン氏も今、まだ31歳。富樫との関係も指導者というよりは同志のようなものに近い感じがした。実際、氏は自身と富樫の間には「強い絆」があると話している。来日は初だったが、昨シーズンのファイナルも含めて普段から富樫の動向を映像で見ているようだ。

「(レジェンズ在籍時は)毎日、練習の後に100本の3ポイントを打つなどのルーティンをこなしていたし、試合の前にもボールハンドリングなどのドリルに一緒に取り組んでいた」(ガトリン氏)

リーダーらしい姿に感銘を受けて。

 それでも、今と比べて当時の富樫は若く、年相応に粗かったのだろう。無鉄砲だったわけではないだろうが、その頃の彼はボールを持てば自身の類まれなスピードを頼ってひたすら中へ突っ込むことが多かったという。

 今の富樫はもう、その当時の彼ではない。もっとも、プレイスタイルが変わったわけではない。バスケットボール選手として、司令塔のポイントガードとして、成熟度を増したのだ。それなくしてジェッツのここまでの飛躍はなかったはずだ。

 ガトリン氏に話を聞いたのはセミファイナル第2戦の前だったが、前日のシリーズ初戦を振り返って、富樫がリーダーとして大きく成長したことに感銘を受けた様子だった。彼がとりわけ強調したのが、富樫がチームメートとよくコミュニケーションを取り、的確に指示を出せるようになっていたことだ。

「彼の成熟した姿には驚かされた」

 ガトリン氏は前日のシリーズ初戦を例に出した。例えばジェッツの攻撃時にブレックスがジェッツのバックコートから得意のプレスディフェンスをかけてきても、富樫は彼がパスを出しやすいところへ味方がポジションを取るように冷静に指示を与えていたと振り返った。

「彼の成熟した姿には驚かされたよ。チームメートたちとコミュニケーションを取ることに躊躇がない。昨日の試合だって序盤はやや重かったけど、それでも彼はチームをひとつにまとめていたし、何かうまくいかないことがあるとすかさず味方を呼び集めて円陣を組んでいた」(ガトリン氏)

 富樫自身もガトリン氏に“当時”とは違うところを見せられたと喜んだ。

「それがこの5年ほどで自分が一番、成長したところなんじゃないかなと思います」(富樫)

 ブレックスとの初戦には今季、NBAメンフィス・グリズリーズとの2ウェイ契約でプレイした渡邊雄太も来場していたが、ガトリン氏は彼とも言葉を交わしたそうだ(今季のGリーグプレイオフの1回戦で、渡邊のいるメンフィス・ハッスルがガトリン氏のストックトン・キングスを僅差で破っている)。

「ユーキがよければワタナベも」

 NBAサクラメント・キングスへのスカウティングの役割も担うガトリン氏は、日本代表に渡邊や八村塁のような才能が出現したことで、今年の中国でのワールドカップなど、今後の日本代表の動向についても注視しているようだった。

 ただ誰よりも気になる選手はもちろん、富樫だ。

「ワタナベが(代表で)プレイすることは当然、大きなこと。だけどやはり日本代表チームのリーダーはユーキなんだ。ユーキの出来がよければワタナベの力も引き上げられる。ユーキがペネトレーターとしてのスキルを発揮すれば、彼もよりオープンになる確率が上がるわけでもあるし」

アメリカ時代の悔しさをバネに。

 レジェンズ時代の出場時間はわずかなものだったし、その時の経験だけが今の富樫を作りあげたわけではないだろう。

 富樫は当時を「自分を表現、アピールするということが一切できなかったシーズンだった」と回顧した。ただ、彼が今の場所までたどり着くきっかけの1つになったとは言えそうだ。

 2年連続で、しかも同じ相手にリーグ優勝目前で敗れ去ったことも当然、彼の気持ちの火を大きくする新たなきっかけになる。

 ジェッツの、そして日本代表のエースポイントガードは、大きく飛躍した。

 しかし、その底はまだ見えない。

文=永塚和志

photograph by Kiichi Matsumoto


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