雨で異例の1日2試合という過酷日程。錦織圭、大坂なおみはどう勝った?

雨で異例の1日2試合という過酷日程。錦織圭、大坂なおみはどう勝った?

 5月16日朝のローマは、前日の雨がなかったかのような青空が広がっていた。

 私はいつもとは違う期待感に胸を膨らませ、バチカン市国近くのホテルを出てタクシーで10分ほどの会場に向かった。そう、この日は錦織圭や大坂なおみらほとんどの選手が2試合を組まれていたのだ。

 15日は終日の雨で1試合も実施できなかった。大会主催者は日曜日の19日に予定通り決勝を終わらせるため、16日に試合をぎゅうぎゅうに詰め込んだ。その日の試合予定が一覧になった「オーダー・オブ・プレー」のA4用紙には、「こんなに小さいフォントがあったのか」と感心するくらい極小の文字で選手名が書かれていた。

 相撲記者時代、番付表に書かれるしこ名が最も小さいため、序ノ口力士が「虫眼鏡」と呼ばれることがあると先輩記者に教わったことを、ふと思い出した。

 数秒で取組が終わることもある相撲と比べ、テニスは試合時間が長い。それが1日2試合になったら、果たしてどんなドラマが生まれるのか。前日の雨は、どう影響したか。それが楽しみだった。

ティームは試合後会見で激怒。

 いきなり波乱は起こった。世界ランキング4位のドミニク・ティーム(オーストリア)が38位のフェルナンド・ベルダスコ(スペイン)に2回戦で屈した。次世代を担うと期待される25歳が、35歳のベテランに逆転負け。ティームは記者会見で怒りをぶちまけた。

「昨日、僕らが扱われたやり方は本当に嫌なものだった。丸一日、雨が続くことを誰もが分かっていたのに、午後7時か7時半までここで待たされたんだ。

 昨夜は近くでサッカーの試合(イタリア杯決勝)があったし、ホテルに帰るのも1時間半くらい掛かった。十分な睡眠時間を取るため、ケアを受ける時間もなくなってしまった。それで今日は午前10時に試合開始。受け入れられることではない。負けた理由の1つだし、かなり怒っている」

 長いので割愛したが、ここまで一気にまくし立てた。前日のティームの2回戦は、午前11時開始の女子シングルス2回戦に続く第2試合に組まれていた。試合前の練習などを含めると、恐らく10時間ほどは会場にいたと思われる。

 ティームのぼやきは止まらない。「午後2時か3時には選手を解放できたはずだ。雨は仕方ないけど、大会側が少しは選手の手助けをすべきだ」

ハレプは「不満を言うことはできない」。

 敗戦の悔しさを、何かにぶつけたい気持ちもあったのだろう。ただ、同様に2回戦で敗れたシモナ・ハレプ(ルーマニア)は穏やかだった。

「昨日は遅くまでここにいなければいけなくて少し大変だったけど、それはみんなが同じだし、不満を言うことはできない。今日、勝てなかったということだけ」

 脚を少し痛めているようで、「全仏オープンに向けて、余計に休めるのはいいかもね」と笑う余裕まで見せた。ローマで優勝すれば、大坂なおみを抜いて世界1位に返り咲く可能性もあったのだが、その悔しさは胸の奥にしまったままだった。

錦織圭「戦いきったなっていう感じですね」

 日本が誇るスター2人はどうだったか。まずは錦織。正午に始まった2回戦ではテーラー・フリッツ(米国)を寄せ付けず、6−2、6−4で快勝した。試合時間は1時間12分。体力を温存する最高の形で初戦を突破した。

 しかし、5時間半後に始まった3回戦は思わぬ苦戦を強いられた。相手は好調のヤンレナート・シュトルフ(ドイツ)。世界51位だが、今季のツアーでトップ10の強豪を2度も破っており、この日の2回戦でも実力者のマリン・チリッチ(クロアチア)をストレートで下していた。

 第1セットは相手に1度のブレークチャンスを奪われ、3−6で落とす。第2セットは第5ゲームから互いにブレークの応酬。錦織は4−5の崖っぷちで相手サービスを破ると、タイブレークで集中力を発揮してセットを奪い返した。

 最終セットはシュトルフに疲れが見え始め、序盤にはなかった凡ミスが続く。一方の錦織は尻上がりに調子を上げ、何とか逆転勝ちを収めた。

 午後10時過ぎ。当初の予定時間より30分ほど遅れて取材エリアに現れた錦織は、疲れた様子だった。試合のことはもう頭にないといった感じで、まず「3回戦を振り返ってみて」と問われると「3回戦はどっちですか?」と天然ぶりを発揮した。

「戦いきったなっていう感じですね。苦しい試合を勝てたのは、すごく自信になります。2試合やるのはすごく久しぶりだったので、ちょっと大丈夫かなっていうのはありましたけど、昨日も長い1日をリラックスして過ごせたし、1試合目も簡単に終わったので」

 17日の準々決勝は午後1時半以降に開始。「今日の2試合目が長くなって、明日も早いのでちょっときつい」と、ちょっぴり不安を漏らした。

大坂「YouTubeを見たりして過ごした」

 次は大坂。午前10時開始の2回戦で、ドミニカ・チブルコバ(スロバキア)を6−3、6−3で退けた。次の試合まで約6時間も空いたが、ランチを食べ、「試合までのんびりしていた」という。

 3回戦ではミハエラ・ブザルネスク(ルーマニア)を、これまた6−3、6−3で下した。2試合ともサービスを破られることはあったが、すぐに挽回して傷口を広げることはなかった。「少し普通とは違う感じだった。ツアーで1日2試合を戦うのは初めてだったから」

 前日は錦織と同様、リラックスして過ごしたようだ。

「ちょっと大変な部分もあった。(試合が)どうなるか分からなかったし。キャンセルになるまで、横になったり寝たり、YouTubeを見たりして、いつものような感じで過ごした」

 2試合で合計2時間57分を戦ったが、17日正午に始まる準々決勝に向けて体調面の心配はなさそうだ。さすがは21歳といったところか。

「赤土の王者」ラファエル・ナダル(スペイン)の話も面白かった。2回戦でジェレミー・シャルディー(フランス)、3回戦ではニコロズ・バシラシビリ(ジョージア)と対戦し、ともに1ゲームずつしか与えず8強に進んだ。

「ただ、ベストを尽くすだけ。1試合でも2試合でも、数は関係ない」

 ナダルも前夜はホテルに戻る際、渋滞に巻き込まれて1時間半ほど掛かったというが、「屋外開催の大会では起こりうること。そういう時も準備しなければいけない。それだけだよ。ただ気を長くして、試合の準備をするんだ。それが僕らにできる全てのことだから」

“ご意見番”ジョコは冷静な立場。

 最後に、最近は「ご意見番」のような役割も期待されている世界1位のノバク・ジョコビッチのコメントを紹介したい。ジョコビッチは2試合ともストレート勝ちしている。

「雨は大会側にとって残念だった。一日中ずっと降り続くことなんてあまりないし、多くの混乱があった。今日のスケジュールは満杯だしね。シード選手の何人かを、火曜日にプレーさせるべきだったのかもしれない。そうじゃないかもしれないし、それは分からない。ただ自然はあまりにも(影響が)強くて、僕らはそれに対して何とかしなければならない」

 百戦錬磨のナダルやジョコビッチは、あらゆる状況に対応するすべを知っているようだ。余計なストレスが掛かる中、錦織もうまく対応し、若い大坂は自然体で初めてのダブルヘッダーを乗り切った。長い雨とハードスケジュールが、またひとつ、選手の魅力を引き出してくれたように思えた。

文=長谷部良太

photograph by AFLO


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