スカウトからは「根尾以上」の声が。桐蔭学園・森敬斗にやきもきする。

スカウトからは「根尾以上」の声が。桐蔭学園・森敬斗にやきもきする。

 今年のドラフト候補の中で、プロ野球球団のスカウトたちを“やきもき”させる存在がいる。

「試合に行っても投げるのか、投げないのか分からない」とは、最速163キロ右腕の大船渡・佐々木朗希のこと。指揮する国保陽平監督の将来を見据えた起用によるものだ。

 だが、「プロ志望届を出すのか、出さないのか」の動向が注目されるのが、桐蔭学園高校の遊撃手・森敬斗(けいと)だ。

 森は静岡県静岡市で生まれ育ち、島田ボーイズから隣県・神奈川の桐蔭学園に入学。甲子園優勝の経験もある同校は、巨人の高橋由伸前監督ら多くのプロ選手を輩出した名門校だ。そこで1年夏からスタメンを獲得、昨秋からは主将に就任した。関東大会初戦では逆転サヨナラ本塁打を放ち、今春のセンバツでは4打数3安打。4月上旬には、侍ジャパンU-18代表候補にも入り、国際大会対策研修合宿にも参加した。

「出せば」2巡目で消える。

 そんな森に対し、複数の担当スカウトも「志望届を出すのであれば獲得したい選手」「志望届を出せば2巡目までに消えるかもしれない」と口を揃える。もちろん、これは担当スカウトの声であり、現在の時点で指名が確約されているわけではない。

 それでも、あらゆる面で評価を得ているのは確かだ。

「あの脚力は素晴らしい。打撃もクセが無いし、肩も強い。体力がつけばプロでも早くに頭角を現すと思いますよ」(オリックス・由田慎太郎スカウト)

「高校生のショートでは僕が見た限りではナンバーワン。守備も柔らかいし打撃も思いきりが良い。この冬を越えてからすごく良くなっていてビックリしました」(DeNA・稲嶺茂夫スカウト)

「スピードがあって肩もある。荒削りな部分はありますが伸びしろを感じます」(パ・リーグ某球団スカウト)

 中には伸びしろを含めて昨年のドラフト1位指名入札で4球団が競合した「根尾昂(中日)以上」との声もあるほどだ。

仲間のミスに喝、先輩にも臆さない。

 また、野球に対するアグレッシブな姿勢でも賞賛の声が並ぶ。同校の片桐健一監督も「勝利への執着心を包み隠さず出せる選手」と評する。

 センバツではパスボールをした味方捕手に対して、グラブで胸のプロテクター部分を強く押して叱咤した。森にこの場面について尋ねると「練習中から全員に厳しくしていますし、気づいたらすぐに注意している」と平然と話した。

 今の時代だと“空気を読んで言えない”という選手も多いだろうが、「言うべきことを言えない人間はどこかで逃げていたり、楽をしたりしている部分があると思います」ときっぱり語った。

 下級生の頃から上級生にモノを申すこともあった。

「4つ上に兄がいたからですかね? 年上だろうが、変に気を遣うことはなかったのかもしれません」

 照れくさそうに話す表情には、チャーミングな一面も窺える。ただ口うるさいのではなく、こうした姿もあるからこそ、周囲から慕われてきたのだろう。

 片桐監督は「まだ子供で、そうされた方の立場とか、大人になるにつれて立場は考えていかなくてはいけません。ですから、決して良しとはしません」と厳しい言葉を寄せるが、スカウトからは「今どき、ああいうことができる子は、なかなかいないよ」と感心の声も上がっている。

切り替えられる強さ。


 失敗を成長の糧にできる逞しさも森の大きな魅力だ。

 昨秋の神奈川大会決勝で森は無安打で失策も喫し、チームは2対11で大敗。「閉会式に出たくない」とこぼすほど、悔しさを隠しきれなかった。だが、学校に戻った後に片桐監督と面談。その中で今後の森、そしてチームのあるべき姿、方向性を明確にした。

「おはようございます!」

 次の日の練習での挨拶で片桐監督は「明らかに変わった」と分かったという。これまで以上に真摯に取り組み、続く関東大会での攻守にわたる大活躍に繋げた。

失敗を重ね、スイングも改良。

 昨年11月の明治神宮大会では慣れない人工芝でのプレーからか3失策を記録、打っても3打数無安打。この冬は「すべてを変えよう」とさらに目の色を変えた。

 守備ではノックの打球1球1球から「より速く、低く、丁寧に」と意識して行い、打撃ではインパクトまでに遠回りしていたバットの軌道を修正。より近いポイントで引き込みながらも「外の変化球狙いで内角のストレートが来ても打てるように」とスイングを改良。最初は打球が前に飛ばずファウルばかりになっても「今は結果を急ぐ時期ではない」と、ひと冬かけて自分の形ができるように構築してきた。

 こうしてひと冬越えた春の目覚ましい成長ぶりは前述の活躍やスカウトの評価の通り。

「秋は雑なイメージだったけど、人は一生懸命になればここまで変われるんだと思いましたよ」とスカウトに賞賛されるほどの成果となった。

代表合宿では佐々木朗希とも対戦。

 侍ジャパン高校代表の国際大会対策研修合宿では、ハイレベルな同世代の選手たちと触れ合い、日の丸をつけてプレーしたいという思いをよりいっそう強くした。

 紅白戦では佐々木朗希と対戦。「今まで見たことのないようなホップする軌道」というストレートにカウントを重ねられ、最後は変化球で見逃し三振に取られた。それでも「タイミングが合っていなかったわけではないし、打てると思ったんですけど」と悔しがる表情もまた森らしい。


 これだけの良い意味でのガツガツさはプロ向きとも思えるが、進路についてだけは慎重だ。

「いきなりプロの世界に行っても成功するかは分かりません。もっとレベルの高い投手と(大学で)対戦してからでもいいのかなとも思います。迷っています」

 こう正直に打ち明けてくれた。

好きな言葉は「ALL OUT」。

 ただ、それでも構わないとも思えるのは、何よりも「中途半端」を嫌い、悔しさを力にして一心不乱に自らとチームを向上させてきた森だからこそ。安易な判断を急ぐことはないように思えた。

 好きな言葉は「ALL OUT」。日々の練習から全力を出しきる。そんな覚悟を常に持っている。

「どの道に進んでも成功はする気がするんですよ、彼は」

 あるスカウトがこう漏らしたように、親心のような温かい目を持たせる選手だ。森の言葉と行動には、今後の成長を期待せずにはいられない要素が多分に詰まっている。

文=高木遊

photograph by Yu Takagi


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