世界一のラグビー大国の組織作り。スポーツ統括団体に必要な能力は?

世界一のラグビー大国の組織作り。スポーツ統括団体に必要な能力は?

 日本ラグビーの「2019年以降」が、なかなか見えづらい。

 今年3月、日本代表強化の一環として発足したサンウルブズが2020年シーズンを最後にスーパーラグビー(国際リーグ戦)から除外されることが発表された。4月には2022年シーズンから3部制とする国内トップリーグ再編案が発表されたが、流動的な要素があまりに多い。代表活動でも、日本が参加意思を示していた新設の国際大会「ネーションズ選手権」にも、2022年の第1回大会から参加できるかどうか雲行きが怪しくなってきた。

 W杯開幕までいよいよ120日を切り、人々の興味は本大会における日本代表のパフォーマンスによりフォーカスされていくことだろう。その一方で、W杯以降の日本ラグビーについても、さらなる議論があっていいように思う。

 未来の日本ラグビーはどうあるべきか――。論点、改善点は数多挙げられるが、「世界のラグビーのいま」について見聞を広めるのも一理あるだろう。

 ここで、ロンドン在住のラグビージャーナリスト竹鼻智氏による「フットボールの母国にして世界一のラグビー大国イングランドの現状」を連載でレポートする。

 2017年にワールドラグビー(国際統括団体)が行った調査によると、ラグビー協会への選手登録を行っていない、いわゆる「草ラガー」も含めた競技人口が200万人を超えるという、世界一のラグビー大国・イングランド。

 メジャースポーツとしての確固たる地位が確立されており、母国としての歴史や伝統だけではなく、今日のプロスポーツとしての運営にも、多くの経験とノウハウを持つ。

 非登録選手含めた競技人口が27万人にも満たない日本で、社会構造や文化も大きく異なるイングランドのラグビー運営手法をそのまま真似ることはできないが、何かしら学ぶことはあるのではないか。北半球で唯一のワールドカップ優勝経験を持つ、「ティア1」の国のプロラグビーを、ビジネス目線で見てみる。

日本の6.4倍の予算の使い道。

 2018年度のイングランドラグビー協会(RFU)の経常費用は、2億300万ポンド(約294億円)と、世界各国のラグビー協会の中で最大の規模を誇る。この数字は、同年度の公益財団法人日本ラグビーフットボール協会の経常費用、約46億円の6.4倍の金額だ。

 ではRFUは、この世界最大規模の予算をどのように使い、世界一のラグビー大国を維持しているのだろうか。

 まず7100万ポンド(約99億6000万円)と、経常費用の中で一番大きな割合を占めるのが、「プロラグビーの強化費」だ。代表選手を輩出したクラブチームへの報奨金、監督・コーチ陣を含めた代表チームスタッフの人件費や合宿・遠征費、そして1試合2万5000ポンド(約350万円)にも上る、代表選手へのテストマッチ出場給も含まれる。

 この他の支出で大きいものは、「ラグビーの発展への費用」で、3700万ポンド(約51億9000万円)が計上されている。この中には、主に人件費として使われるアマチュアクラブを統括する各地域のラグビー協会への分配金や、RFUが主催する学校やアマチュアクラブを対象とした様々なプロジェクトへの費用などが含まれる。

 残りの費用は、RFUという組織の経営管理費用や、収益を挙げる為の営業費、その他雑費として計上されている。

'18年は過去3年で最大の赤字。

 こうした費用を賄う収益の柱は、TV放映権の4100万ポンド(約57億5000万円)、「ホスピタリティ」と呼ばれるVIP席関連収入の4100万ポンド、チケット販売の3000万ポンド(約42億800万円)、スポンサー収入の2900万ポンド(約40億6800万円)となる。

 だが、2018年度の収益は1億7200万ポンド(約241億3000万円)に留まり、RFUは3100万ポンド(約43億4900万円)の赤字を計上している。'15年から'17年の3年間での総損失が1100万ポンド(約15億4300万円)だったことを考えると、'18年の赤字は甚大なものだ。

 日本ラグビーフットボール協会が、私益ではなく公益を目的とした公益法人の形態をとっているのと同じように、RFUも大義では非営利団体としての性格を持った組織だ。

 ただし、人事や財務の透明性においては「株式会社レベル」の運営を行い、「収益はラグビーの発展に繋がる活動に再投資する」という理念を掲げている。

ビジネスライクな決断。

 毎年公開される年次報告には上場株式会社のIR(インベスター・リレーションズ)が株主に向けて公表するレベルの財務諸表が公開され、2018年度のCEOへの報酬は39万5000ポンド(約5500万円)、CCO(Chief Commercial Officer)へは24万4000ポンド(約3400万円)が支払われている。

 年間支出が1億ポンド(約140億円)を超える組織を英国で株式会社レベルで運営するとなると、“無慈悲なビジネス上の決断”も下されることになる。

 2018年度のRFUは、トゥイッケナム競技場の改築工事という大プロジェクトで、5300万ポンド(約74億3400万円)の予算に対して8100万ポンド(約113億6200万円)を費やし、代表チームの遠征費や代表へ選手を輩出するクラブへの報奨金などでも、軒並み予算超過を記録。この埋め合わせとしてRFUはこの年、従業員数の約1割にあたる64人を対象としたリストラに踏み切った。

 さらにその数カ月後には、CEOのスティーブ・ブラウン氏が、「コストを予算内にコントロールできていない」との声が内部関係者から挙がるなか、自らその職を退いている。

外部からの人材登用、日本は?

 現地で25年以上にわたりラグビージャーナリストとして活動する、全国紙『アイ・ニュースペーパー』のヒュー・グッドウィン氏は言う。

「私がこの仕事を始めた頃、RFUの要職は選手時代にイングランド代表として活躍した、いわゆる往年の名選手たちばかりが占めていました。ですが、プロ化が進むにつれ、RFUはラグビー界の外からも多くの人を取り入れるようになり、ビジネス面での人材を強化しているようです。

 ただ、こうした外部から来る人たちも、学校やアマチュアクラブでのプレー経験があったり、観戦が好きだったりと、何かしらのラグビー愛を持っている人たちが多いですね」

 そして、2015年まで日本代表監督を務め、その後イングランド代表監督の職に就き、両国のラグビー協会を熟知するエディ・ジョーンズ氏はこう語る。

「日本のラグビー協会は、組織の中に強い学閥が存在していたり、選手時代の実績があるから要職に就くなど、今でもアマチュア時代のやり方が抜けていません。元代表選手が協会の要職に就いてはいけない、ということではなく、選手としての能力とスポーツ統括団体を管理していく能力は別物です。スポーツの統括団体としては、後者をより大切にしていくのがあるべき姿です」

 フットボールの母国イングランドのラグビー協会の姿は、日本だけではなく、多くの国が学ぶべき要素が含まれているのではないだろうか。

文=竹鼻智

photograph by Getty Images


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