ダービーはやはり「特別」なのだ。歴史に残る大逆転はなぜ起きたか。

ダービーはやはり「特別」なのだ。歴史に残る大逆転はなぜ起きたか。

 令和最初の「競馬の祭典」は、波乱の結末となった。

 第86回日本ダービー(5月26日東京芝2400m、3歳GI)を、浜中俊が騎乗した12番人気のロジャーバローズ(牡、父ディープインパクト、栗東・角居勝彦厩舎)が優勝。2016年に生まれたサラブレッド7071頭の頂点に立った。勝ちタイムの2分22秒6はダービーレコード。

 圧倒的1番人気に支持されたサートゥルナーリアは4着に敗退。'05年のディープインパクト以来14年ぶりの「無敗のダービー馬」の誕生はならなかった。

 ゲートが開いた瞬間、11万人を超える大観衆から悲鳴が上がった。

 大本命のサートゥルナーリアが立ち上がるような格好になり、出遅れたのだ。

 予兆はあった。パドックでは落ちついて周回していたのだが、馬場入り後、しばらく待機しているうちにテンションが上がってきた。ゲートに向かうとき、首を大きく上下させ、鞍上のダミアン・レーンを煩わせる姿がターフビジョンに映し出されると、場内がどよめいた。

 それほど大きく出遅れたわけではなく、すぐに馬群に取りついて後方に待機した。しかし、スタートというのは、駐立した状態から急に走り出す、もっとも負荷のかかるところだ。そこで他馬より余計にエネルギーを使わざるを得なかったロスは、やはり痛かった。

ペースがもう少し遅ければ……。

 レーンはこう振り返った。

「馬のテンションが高くなり、ゲートのなかでガタガタしてしまった。いったん落ちついたが、ゲートが開くときにまた緊張感が高くなりすぎてしまい、後ろからのレースになってしまいました」

 それでも、もしこのレースがスローで流れていれば、道中のラップが落ちたときにポジションを上げて無理なくリカバリーできたかもしれない。が、ハナを切ったリオンリオンは、1000m通過57秒8というハイペースでレースを引っ張った。これほどの激流になると、短距離戦同様、途中で動くことはできなくなる。

上がり3ハロンは最速も、届かず。

 道中は先頭から20馬身ほど離れた後方に控え、4コーナーで大外から前をかわしにかかった。

「早めに仕掛けざるを得なくなったぶん、最後は苦しくなりました」とレーン。

 上がり3ハロン34秒1とメンバー最速の末脚を繰り出したが、前をとらえ切れなかったばかりか、いったんかわしたヴェロックスにも差し返された。

 出遅れを取り戻そうと促したら馬が行きたがり、1コーナーまで掛かり気味になったことも最後に響いたように見受けられた。

 1954年のゴールデンウエーブ以来65年ぶりの、テン乗りでのダービー制覇はならなかった。やはり、ダービーだけは特別なのか。

浜中「逆転するには先行力しかない」

 逆に、速い流れを味方につけたのがロジャーバローズだった。

 最内の1枠1番から出た同馬はメンバー中1、2番に速いスタートを切り、正面スタンド前でハナに立った。1コーナーを回りながらリオンリオンにハナを譲り、向正面では、大逃げを打つリオンリオンから8馬身ほど離れた2番手につけた。3番手集団は4馬身ほど後ろにいたので、実質的に、単騎で逃げているような形だった。

 浜中が戦前から思い描いていた、理想的な展開になった。

「スローでヨーイドンの競馬になったら分が悪い。だから、ある程度流れて後続になし崩しに脚を使わせるような競馬をしたいと思っていました。そうしたら1、2コーナーで実際にそうなってくれましたね」

 1枠1番という最内枠を生かしたレース運びだった。

「皐月賞の上位3頭(サートゥルナーリア、ヴェロックス、ダノンキングリー)は強いと思っていました。逆転するには、この馬の先行力を生かすしかない。木曜日に枠順が決まったとき、先行するのにこれ以上ない枠だと思いました。厩務員さんと『令和元年のダービーで1枠1番なんて縁起がいいね』と話していたんです」

戸崎に「ぼく、残っていましたか?」。

 単騎で逃げるリオンリオンとの差を3馬身ほどに詰めて直線に入った。直線入口で激しく手綱をしごき、ラスト400m手前でステッキを入れ、ゴーサインを出した。

「後ろを待たずに、差されてもいいからと、早めにスパートしました」

 浜中の叱咤に応え、ラスト400mを切ったところで、ロジャーバローズがリオンリオンをかわして先頭に躍り出た。

 ラスト300m。戸崎圭太のダノンキングリーが、外から凄まじい脚で迫ってくる。さらに外からサートゥルナーリアが猛然と追い上げてくる。

 それらの追い上げを振り切り、ロジャーバローズが先頭でゴールを駆け抜けた。

 勝ちタイムは2分22秒6。'15年のドゥラメンテの記録をコンマ6秒更新した。

 クビ差の2着がダノンキングリー。そこから2馬身半遅れた3着がヴェロックス、4着がサートゥルナーリアだった。

 浜中はガッツポーズをせず、入線後、ターフビジョンのほうを振り返ったり、ほかの騎手の顔を見たりしていた。自分が勝ったと確信できなかったのだという。

「(自分が)残っているとは思ったのですが、必死でしたし、無になったというか、頭が真っ白になりました。普通のレースなら勝ったと思える差でしたが、まさかという思いもありました。

 ゴールしてから、(2着ダノンキングリーの)戸崎さんに『ぼく、残っていましたか?』と訊いたら、『残ってるよ』と言われました(笑)。ウィニングランのとき、掲示板の1着のところに1番と表示されているのを見て、本当に勝ったんだ、と思いました」

祖父に託されたダービーの夢。

 そう話す浜中は、今年デビュー13年目。6度目の参戦でダービージョッキーになった。

 騎手になったのは祖父の影響だった。祖父はいつも「わしが死ぬまでにダービーを勝ってくれ」と言っていたという。

「祖父は3年前に亡くなりました。ぼくがミッキーアイルでマイルチャンピオンシップを勝った日でした。ぼくにとって、かけがえのない人でした。今日のレースを見せたかったけど、じいちゃんの夢を叶えることができて……それが一番嬉しいです」

 声を詰まらせ、涙を浮かべてそう言った。

 騎乗馬の強みを生かし切った見事な手綱さばきで、天国の祖父に大きな勝利をプレゼントした。

単勝9310円はなんと史上2番目。

 ロジャーバローズにとって、これがデビュー6戦目。前走、浜中が実戦で初めて騎乗した京都新聞杯で2着となり、賞金面でどうにか出走にこぎつけた。ストライドが大きく、切れ味よりも、道中の強い推進力で勝負するタイプだ。それを浜中が把握していたことが大きかった。前残りになりやすい高速馬場を味方につけ、栄冠をつかみ取った。

 重賞未勝利馬がダービーを制したのは1996年のフサイチコンコルド以来23年ぶりの快挙。ふた桁人気での勝利は'66年テイトオー以来53年ぶり。単勝9310円は、70年前の'49年タチカゼの5万5430円に次ぐ史上2番目の高配当だった。

 猪熊広次オーナーにとっては、馬主になって17年目でのダービー初勝利。ノーザンファームのGI連勝記録を「7」でストップさせた、生産者の飛野牧場にとっては創業50年目での美酒となった。角居勝彦調教師にとっては2007年ウオッカ以来となるダービー2勝目。とはいえ大本命ながら4着に敗れたサートゥルナーリアも管理しているだけに、笑顔はなかった。

 オーナーは凱旋門賞参戦に前向きな発言をしている。令和元年のダービー馬の今後に注目したい。

文=島田明宏

photograph by Keiji Ishikawa


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