大坂なおみもセリーナも3回戦敗退。歴代女王でも苦しむ全仏の環境とは。

大坂なおみもセリーナも3回戦敗退。歴代女王でも苦しむ全仏の環境とは。

 スポーツの舞台で<魔物が棲む>場所はいくつもあるが、テニスにおけるクレーコート、ローランギャロスもその1つだ。世界1位の大坂なおみは、3回戦で世界ランク42位のカタリナ・シニアコバに4−6、2−6で完敗した。最近の負け試合の中でもこれほどひどい負け方は珍しい。3試合連続の逆転勝ちはならず、初の3回戦突破も叶わなかった。

 負けてあらためて大坂は、苦しかった胸の内を吐露した。

「他のグランドスラムとは違う感じだった。他はもう少しリラックスして楽しむことができたけど、ここではずっと何かに縛られているような感じ。眠っているときですら緊張しているっていうか。多分、それで疲れたのかもしれない。ストレスから頭痛も感じた。ただ、疲れていたことを強調すれば言い訳に聞こえるから、あまり言いたくない。だって彼女はとてもいいプレーをしていたと思う」

チャンスにもピンチにも弱かった大坂。

 第1セットの序盤、両者の格の違いは誰の目にも明らかで、右に左にアグレッシブなショットを繰り出す大坂に対し、シニアコバは拾うのが精一杯。大坂はウィナーやリターンエースでスタンドを湧かせ、第2ゲームで早くもブレークポイントを握った。ここはチャンスを逃したが、リードを広げるのに長い時間はかからないと思われた。

 ところが、第6ゲームでもダブル・ブレークポイントを生かせず、逆に第9ゲームでこの試合初めて握られたブレークポイントをしのぐことができなかった。

 この日の大坂はチャンスにもピンチにも弱かった。シニアコバのサービング・フォー・ザ・セットでは0−40から計4本のブレークポイントを握ったが、あと1ポイントを奪えず。逆にシニアコバは、守備一辺倒にも見える中でボールを深くコントロールし、ピンチでドロップショットなど勇気ある策を成功させ、ワンチャンスを生かした。

「チャンスがあると感じていた。彼女は1回戦も2回戦も苦しんでいたから、以前ほどの自信はないだろうと思った」というシニアコバは、この日の戦術について聞かれると、「深いボールで彼女をベースラインでプレーさせること、とにかくたくさん返して簡単にポイントを与えないこと。うまくいったと思うわ」と答えた。

 その作戦通り、目論み通りだったのだ。

パワープレーヤーにとって敵となる赤土。

 第2セットはシニアコバの粘り強さが増し、大坂のウィナー級のショットもカットしてスライス回転で返してくる。これに苦しめられた。

 大坂のようにパワーを最大の武器とするプレーヤーにとって、そのパワーを吸収する柔らかな赤土の絨毯は敵だ。ラリーの主導権を握っているのは確実に大坂だが、決め球が決まらない。決まらないどころか、入らなくなり、自滅の一途。威力を殺したバウンドの低いショットに対して、大坂はうまくパワーを乗せることができずにコントロール力を失った。38本ものアンフォーストエラーはシニアコバの約3倍にのぼる数だ。

 いつものように無理して笑顔を作ってみても、ベンチでタオルをかぶってみても、何も功を奏さなかった。なぜミスの連鎖を止められなかったのだろうか。

“最強女王”セリーナも敗戦。

 大坂自身が敗因として挙げた「疲労」は確かにあったのだろう。しかし得意のハードコートなら修正できたかもしれない。球足が遅く、ラリーが長く続くクレーコートは、1ポイントをもぎ取るために体力と気力と頭脳を要する。体も心も頭も疲れ果てるサーフェスだ。

 そして、疲れたという意識、疲れることへの不安を抱いた途端、つまり自信を失った途端、そこからの戦いはさらに困難を深める。

 大坂との準々決勝での対決が予想されていたセリーナ・ウィリアムズもまた、世界ランク35位の20歳ソフィア・ケニンに敗れた。23回のグランドスラム優勝を誇るセリーナも、この大会は3度にとどまっている。

「苦手」という言葉は憚られるが、史上最強女王にとってもまたクレーが楽な場所ではないことは確かだ。加えて、出産後の復帰から1年以上が経ってもまだ元の体と自信を取り戻せていない現状では、勝ち進むことができなかった。

 肉体的、精神的な成熟度が求められるサーフェスともいえるだろう。

かつてヒンギスも苦戦した全仏。

 試合そのものの苛酷さに加え、ここの観客は自分たちのマナーはさておき選手のマナーに厳しく、生意気な態度をとればこの観客に潰されてしまうことすらある。

 かつて天才少女と呼ばれたマルチナ・ヒンギスは、16歳だった1997年に3つのグランドスラム・タイトルを手にするが、全仏オープンだけは準優勝に終わった。

 今回の大坂と同じく、初めて第1シードとして臨むグランドスラムだった。2年後に再び決勝に駒を進めるが、激しいブーイングを浴びながらシュテフィ・グラフに敗れ、結局ヒンギスは生涯グランドスラムを達成することができなかった。

 大坂の態度や性格が観客の反発を買ったところは目にしたことがないが、大坂ならこの難しい観客たちももっと自分の味方にできるに違いない。フランス語での簡単な挨拶くらいから始めるのも手だろう。

次なる舞台はウィンブルドン。

 来年までに課題はたくさん与えられたが、それよりまずは次のウィンブルドンだ。

 記者会見の中で、「バイバイ。悪いけど、あなたたちと別れることは寂しくないわ」と冗談めかして微笑んだが、もちろん世界のメディアはウィンブルドンでも大坂に注目する。

 パリで苛まれた緊張感から逃れることはできるのか。今年の年間グランドスラムの夢は消えたが、1位を維持したいというプレッシャーはあるだろう。芝は大坂に合っているとも言われるが、決して慣れ親しんだサーフェスではない。その中で、皆が必死で大坂を研究し、倒しにくる。

 女王として、チャレンジャーとしての戦いは続く。

文=山口奈緒美

photograph by Getty Images


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