「天才とお化け」、「山賊に木こり」。個人戦で見る、セ・パ交流戦の楽しみ方。

「天才とお化け」、「山賊に木こり」。個人戦で見る、セ・パ交流戦の楽しみ方。

 プロ野球から20勝投手と三冠王が消えて久しい。投手陣には先発とリリーフの細かな分業制が確立され、打線では絶対的な個人に頼るより、つながりと厚みが求められるようになった。20勝は2013年の田中将大以来、三冠王は2004年の松中信彦以来、出現していない。「個」の時代は終わったのか……。

 そんな球界にあって、交流戦というのは個と個のぶつかり合いを堪能できる舞台である。滅多に対戦できない相手に刺激されるのか、ペナントレースの直接のライバルではないという意識がそうさせるのか、ある意味、勝敗を度外視したかのような力と力の勝負が随所に見られる。特にホームランが急増している今シーズンのプロ野球だけに極上の個人戦を期待できそうだ。

※文中の記録は全て6月10日時点

【6月21日〜6月23日 巨人対ソフトバンク(東京ドーム)】

 その中でも頂上決戦と言えるのが、巨人・坂本勇人とソフトバンク・千賀滉大の直接対決だろう。坂本は21本塁打を放ってセ・リーグの単独トップに立っている。44打点は同3位、打率.320は同3位と、三冠王誕生か、とファンに夢を見させてくれるような活躍をしている。

 また千賀も防御率1.46、勝率.857はパ・リーグのトップであり、2位に30以上もの差をつけて独走している奪三振を合わせれば投手三冠の地位にいる(勝利数は6勝で同2位)。千賀がローテーション通りにいけば、6月21日の巨人戦に登板する可能性が高く、ともに三冠を狙えるスター同士の戦いが見られることになる。

 坂本と言えば「内角打ち」と表現されるように、打者の永遠の課題ともいわれるインコースの速球に対し、左肘を抜きながらインパクトできるという独特の技術を持っている。「小さい頃から何となくできていたんです」という天才肌の打者は、昨シーズンからはアウトコースを右方向に打つようになり、さらに今シーズンは長打力まで加わったのだから、無双状態というのもうなずける。

 一方、千賀もやはり「お化けフォーク」という代名詞を持っている。ただ、落差が大きく、切れ味抜群のこのウイニングショットを支えているのは、中指がボールの真ん中にくるように握ることでスピン量を増やすという独特のストレートだ。今シーズンの開幕戦では自己最速の161kmをマークし、9年目での進化を示した。この快速球を打者のインコースに投げ込んでおいて、最後はフォークで空振りを取るというのが必勝パターンだろう。

 一流選手でも「あれは真似できない」と語る天性の内角打ちができる坂本に対し、千賀がインコースへ自慢のストレートを投げ込んだ時、どんな結果が待っているのか。3時間から4時間というゲームの中で、この2人の、その1球をじっと待ってみるのも贅沢な楽しみ方かもしれない。

山川vs.村上のアーチ合戦は必見!

【6月14日〜6月16日 西武対ヤクルト(メットライフドーム)】

 今シーズンのプロ野球は本塁打が急増している。ボールが変わったのか? フライボール革命の日本上陸か? などと様々な憶測がされているが、何れにしても野球の華が数多く見られるのは大歓迎だ。交流戦でも繰り広げられるであろうホームラン競演の中で、特に注目したいのは西武・山川穂高とヤクルト・村上宗隆のアーチ合戦である。

「どすこーい」のパフォーマンスでもお馴染みの山川はもう言わずと知れた昨季パ・リーグのホームラン王だ。今シーズンもすでに25本塁打をかっ飛ばし、17本のレアード(ロッテ)、ブラッシュ(楽天)、デスパイネ(ソフトバンク)という外国人勢を突き放して、独走している。

 山川のホームランへの序奏は、ゲーム前の練習から始まっているという。

「バッティング練習ってうちやすい球を投げるじゃないですか。だからセンター前に綺麗に打ちなさいって言われたら簡単なんですよ。でもそこであえて120%で振ります。ミスショットも出るんですけど、体が鍛えられるし、試合になって100%で振っても当たる確率が上がるんです。それと練習は相手チームも見ているので、山川えぐいなって思わせないといけないんですよ」

 自分の可能性を広げ、相手をビビらせるフルスイング。2年連続のキングを狙う男の凄みだ。

熊本の「木こり」から全国区へ。

 山川が山賊打線の頭ならば、今シーズンのセ・リーグに突如出現した大砲・村上は、「木こり」である。

 これは村上獲得に尽力した、あるスカウトの言葉である。

「スカウトの世界では、地方の無名のスラッガーのことを『木こり』と呼んだりするんです。誰にも知られず、山の中でひとり木を切り倒しているようなホームランバッターを探してくることがスカウト冥利というか。さすがに情報が氾濫しているこの時代ですから、村上のことは他球団もよく知っていましたが、潜在能力をどれくらいの人がわかっていたか。スカウトの立場で言えば、スカウト生命をかけて1位指名してもらいたい。そういう逸材でした」

 九州学院高校時代、甲子園に出たのは1年の夏のみ。ヒットは無し。知る人ぞ知る逸材はぐんぐん力を伸ばしていき、やがて熊本の「木こり」はドラフトで1位指名を受けることになった。

 そして、二軍でひたすら実戦経験を積んだ1年目を経て、2年目の今シーズン、満を持して一軍の舞台に登場したのである。

 ちなみに村上と同世代で最大のスターと言えば日本ハム・清宮幸太郎であり、広島・中村奨成やロッテ・安田尚憲もいる。ヤクルトも清宮の抽選に外れて、村上を1位指名し、3球団競合の末に獲得したという経緯がある。それが蓋を開けてみれば、ホームラン16本はリーグ4位、48打点はリーグトップという活躍。清宮ら同世代の中で最も早くスターダムに躍り出た。

 貫禄たっぷりのパ・リーグ本塁打王とヤクルトが誇る未来の主砲・村上によるホームラン合戦。エンターテインメントとしての野球の面白さをこれほど満喫させてくれる対決もないだろう。

 勝っても負けても楽しめる。それがプロ野球の理想であると思うし、それにはプレーする側だけでなく、観る側にも求められるものがある。贔屓のチームの勝敗はもちろんだが、たとえ負け試合の中にだって、魅力的な個人を見つけてみると、何倍も楽しめるのではないだろうか。

文=鈴木忠平

photograph by Naoya Sanuki(3)/Kiichi Matsumoto


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