サヨナラ負けの33分後、甲子園から北海道へ。日本ハム裏方の仕事ぶり。

サヨナラ負けの33分後、甲子園から北海道へ。日本ハム裏方の仕事ぶり。

 プロとしての仕事を、また垣間見た。激闘が終わった直後だった。

 6月9日、甲子園球場での阪神タイガース戦。9回サヨナラ負けで、聖地での3連戦が終了した。

 試合時間3時間42分。午後2時開始で、午後5時42分ゲームセットだった。試合後の広報業務等の準備のため、食堂へ向かう。すでに試合後のチームの行程が決まっていた。

 ホワイトボードには「18:15出発!」と、大きく記されていたのである。

 当日、試合終了後に球場からバスで伊丹空港へと移動して空路、北海道へと戻るスケジュールだった。搭乗予定便は19時10分発。試合後のシャワーと着替え、野球用具等の荷物の整理の時間を逆算すると、ギリギリの選択だった。

 関西に、もう1泊して翌日移動に切り替えるリスクの少ない選択肢もあったそうだ。それでも試合終了から、わずか33分後に球場を発てば、搭乗予定便に間に合うとのジャッジを下した。

飛行機遠征がメーンという難しさ。

 サヨナラ負けのショックや余韻に浸る間もなく、結果が確定して瞬時に決断。選手を含めた大連隊を動かす。各交通機関や、仮押さえしていた宿泊先へのキャンセル手配などもする。マネジャー陣が難局の判断、煩雑な作業を一瞬で一手に担う。

 選手はバタバタではあるが、キビキビと無駄なく身支度を整えていた。「無理です」や「時間がない」と弱音を漏らす選手たちもいたが、もちろん断行である。

 的確にシビアに判断をするマネジャー陣に日々、鍛えられている。試合終了から出発時間まで、わずか33分間。その中で、軽食として食堂で供された名物「甲子園カレー」を摂る余裕を見せた、貫禄十分の猛者も数名いた。

 北海道に本拠地を置くため、飛行機での遠征がメーン。新幹線よりも、移動手段の振り替えが容易ではないことは想像に難くないだろう。

 甲子園から空港までの道中の渋滞情報などを調査した上での緻密なシミュレーションも行った上での判断。手練れのマネジャー陣の豪腕に導かれ、無事に北海道へと到着したのである。

打撃投手がこなす“二刀流”とは。

 プロ野球界では「裏方」と称される仕事がある。

 マネジャー、バッティング投手、ブルペン捕手、トレーナー、スコアラー、通訳……と、数多の役割がある。

 チームを機能させ、選手たちに最善のプレー環境を提供することに努めるのが、すべてに共通した使命である。チームと同行しており、またチームを成立させる上で欠かせないピースが「裏方」である。

 プロ野球の元投手が多数を占めるバッティング投手は、自軍の打者に「打たせる」ことが、仕事である。現役時代は「打たせない」ことに心血を注いできたが、真逆の観点から腕を振ることになる。

 今シーズンから転身したのが、石井裕也バッティング投手。当初は「かなり難しい」と悩んでいた。現役を終えたばかり。全力投球では、まだ球威もあり打者の調整には不向きである。そのため球速を落とそうと力加減をするが、それによって制球の感覚も現役時代とは、まったく違う。同じ「投手」ではあるが、異質である。

 試合中、バッティング投手は基本、本業の出番はなくなる。ファイターズのバッティング投手は、スコアラー業務の補助や用具担当のマネジャーのサポートなどを行っている。ブルペン捕手は試合中、待機している中継ぎ陣の出番に備えている。試合後は、打者の練習パートナーを務めるなど1日中、寸暇を惜しんで「二刀流」の動きをするケースが多い。

トレーナー陣とスコアラーの役割。

 トレーナー陣は選手のコンディション管理と肉体のケアが主となる。選手たちを待ち受けるため球場入りは早く、帰路に就くのはホームゲームのナイターであれば深夜12時を回ることもある。遠征先のホテルではトレーナー室という一室が設けられており、そこに待機しながらケアを求める選手の対応をしている。

 昼夜を問わず、異常を訴えた選手の精密検査のために病院へ同行するなど有事に備えて、常に気を張っている職務である。

 ゲームプランの浮沈のカギを握るのがスコアラー。役割はそれぞれだが、勝敗にリンクする任務である。膨大なデータを整理し、攻略のポイントを栗山監督とコーチ陣と綿密に打ち合わせ、選手へも共有、伝達する。時に独自の視点で見解を示し、その成否がチーム、選手個人の結果へと反映される。

 遠征先での深夜のホテルで、大量の資料を手に歩いている姿をよく目にする。翌日へ向けた資料を、選手の部屋へとポスティングしている。

早朝に起きる通訳の「二度寝」。

 献身に徹するのが、通訳である。外国人選手と常に寄り添い、自らの時間の多くを捧げている。遠征先での食事への同行や、食事先の手配。日用品のショッピングや、居住先の住環境の整備など仕事は多岐にわたる。

 ある通訳は遠征先では一度、早朝にアラームで起床。シャワーと着替えなど身支度を整えてから「二度寝」をする。ランチなどで外出しようと誘われた外国人選手を待たせることなく、そのリクエストに即時、応えるための備えだという。

 広報を拝命して3年目。甲子園で、再認識した。

 全143試合「フル出場」するプロフェッショナルがいる。表舞台の裏側に、もう1つのプロ野球がある。

文=高山通史

photograph by Kyodo News


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