【NSBC第3期 スペシャルトーク】太田雄貴×島田社長、特別対談前編。成功するスポーツ組織の共通項って?

【NSBC第3期 スペシャルトーク】太田雄貴×島田社長、特別対談前編。成功するスポーツ組織の共通項って?

Bリーグ・B1で初年度から3年連続で観客動員数ナンバー1。天皇杯は3連覇、Bリーグは惜しくも2年連続準優勝となったが、成績も含めてBリーグで最も成功しているクラブ・千葉ジェッツの島田慎二社長。
2017年の会長就任以来、フェンシングを「ベンチャースポーツ」と位置付け、さまざまなアイデアで業界に新風を吹き込み、確たる存在感を示している日本フェンシング協会の太田雄貴会長。
Number Sports Business Collegeで連載を持つ2人の「改革者」のスペシャルトークは、今回が初顔合わせ。プロクラブチームと競技団体、立場は違うが、『成功』のためのメソッドや理念は、驚くほど共通点があった――。

太田 5月11日のBリーグチャンピオンシップ ファイナルは惜しかったですね。実はBリーグチェアマンの大河(正明)さんからお誘いいただいていたのですが、スケジュールの都合で横浜アリーナには伺えず、テレビ中継で拝見しました。

 アルバルク東京にリードされて迎えた第3クォーターからの観戦でしたが、富樫(勇樹)選手のスイッチが入って、まさに千葉ジェッツが勢いに乗るかどうかというところで。バスケットは本当に流れのある競技だなとあらためて感じました。

島田 あの試合は3Qと4Qがまったく別のチームのような感じでしたね。一時は19点差あった試合を2点差まで追いついて。日本一を決める試合であのような展開になるのはめずらしいと思います。逆転したら最高でしたが、甘くはありませんでした。ただ、あそこまで追い上げ、最後まで諦めない姿勢を見せられたのは良かったと思っています。

太田 素人目線の質問で恐縮ですが、レギュラーシーズンとチャンピオンシップのファイナルはそんなにも違うものなのですか。

島田 ファイナルで対戦したアルバルク東京とは今シーズン、天皇杯とレギュラーシーズンでは6勝1敗と完全に分が良く、成績から客観的に考えれば今回は行けるかもしれないという自信もありました。ただ、勝負は何が起こるかわかりません。

アウェイに応援に行く文化はこれから。

太田 どの段階で今日はいつもと違うなと感じたのですか?

島田 普段、ホームアリーナで5000人の観客を前にプレーしていますが、ファイナルはそれを上回る1万3000人もの観客が入っていました。昨年もファイナルを経験していますから、選手たちも場慣れはしていると見ていたのですが、試合が始まった瞬間に堅いなと感じました。

 アルバルク東京はBリーグの中で最も多く日本代表選手を抱えるチームで、W杯予選など厳しい戦いや、アウェイでの戦いの中で経験を積んでいます。実力差よりもメンタリティの差が試合開始直後から驚くくらい出ていたような気がします。

太田 今シーズンはジェッツさんとの分が悪かっただけ、アルバルクさんの方がチャレンジャーの気持ちで戦えたのかもしれませんね。ちなみにホームゲーム時のアウェイチームのブースターとの割合は大体どれくらいなんですか。

島田 相手によって9:1の場合もありますが、平均では8:2あたりだと思いますね。

太田 それがビジターになるとどういう比率になるのでしょうか。

島田 サッカーや野球に比べると、ファンがこぞってアウェイまで応援に行く文化はまだ未発達。発展途上の段階だと感じています。

ファンにとっての「自分事」にする。

太田 バスケをビジネスとして捉えていけるようになったのは、それこそBリーグがスタートした3年ほど前からだと思いますが、今季、チャンピオンシップ準決勝まで進んだ4チームのうち2つがbjリーグ出身ですよね。

島田 明確に企業系のクラブ、と言えるのはアルバルク東京だけで、栃木ブレックスはJBLからスタートしていますが、その中では唯一のプロチームでした。そういう意味では、地域密着プロクラブ系が4チーム中3つ、ということになります。

太田 ファンの方々の熱量も高いし、みなさんがチームの存在を「自分事」としてとらえている。ものすごく色々なものを巻き込んでいる感じがしました。サプライヤーと受ける側というよりも、チームとファンが一緒に育っていっていますよね。その中でも最もポテンシャルがあり、ワクワクさせてくれるのが千葉ジェッツさんという印象があります。

島田 ありがとうございます。

稼げるからこそ選手に投資できる。

太田 楽天の球団の立ち上げに携わったヤフーの小澤隆生さんは常々、「勝利、勝ち負けに左右されない経営が球団に求められることだ」とお話をされています。実際に楽天球団を立ち上げたときは、収益構造がチーム成績にあまり左右されない形を作り、新チーム初年度はリーグ最下位だったにもかかわらず黒字を達成していました。ジェッツを運営されていく上で、島田さんは一番何を大事にされてきましたか。

島田 勝ち負けにまったく左右されないスポーツはそうは多くはありませんが、勝敗に翻弄されるだけでは経営として成り立ちません。それほどリスキーだと投資家もスポンサーも集められませんから。稼ぐ状況をいかに作るかを考えた時、何度でもそこにお金を落としたくなる、もしくは新しい顧客がお金を落としたくなる状況を作るしかありません。

 試合だけであれば、魅力的なバスケットかどうかはあったとしても、最終的には結果だけにフィーチャーしてしまいます。そこでバスケというコンテンツを中核に据えながらも、エンタメやホスピタリティ等を徹底的に磨き上げることが、事業的にも、選手を育てるという観点でもポジティブだと捉えています。結果、稼げるからこそ選手に投資できますし、選手が戦う環境を作ることができる。お客さんにも来場する価値を感じてもらえます。

太田 一般ユーザーの顧客目線に立って満足度を上昇させ、磨き上げた結果が現在の形ですよね。とはいえ収益の構造上、チケッティング(観客収入)はもちろんですが、スポンサードの規模が安定的な収益構造の鍵となってきますよね。

 スポンサーシップのアクティベーション(スポンサー企業が行うマーケティングイベントなど)をはじめとした、チームスポンサーになることのメリットに関しては、どうお考えでしょう。典型的なのはロゴをユニフォームやスタジアムに表示していく、ということかと思いますが、どんなシナジーを生み出していくか、そのあたりのマーケティングはどのように行っていますか。

企業にスポンサードを募る方法論。

島田 私は異業種からスポーツの世界に入った人間ですから、スポーツクラブの経営も普通のビジネスだと捉えています。ですから、お客様に満足、納得していただけなければお金は集まらないという考えです。スポンサードしてくれる企業もお客様です。対企業であれば、社長に首を縦に振ってもらわなければなりません。

 そこで、スポーツに投資する判断をいただくため様々な方法を考えました。まずは相手方のニーズを聞くところからです。というのも、企業の経費は我々のスポンサーに転換できると考えているからです。

 たとえば、広告宣伝費に年間4000万かけている企業が採用に苦しんでいる、とします。そこで4000万のうち3000万を自社で策を講じていただき、残りの1000万をうちにスポンサー費としていただく。その結果が同じであれば、企業にとっては、ジェッツのスポンサードをすることで「地域スポーツを支えている」というポジティブなインパクトを与えることができる。これは付加価値ですよね。

 予算以上の経費を出す判断は難しいものですが、予算化された中で経費の使い道をジャッジメントするのはハードルが下がる。そういった意味で企業のニーズや課題を徹底的にリサーチし、千葉ジェッツとしてどんな貢献ができるかをプレゼンしていますね。

太田 ホームページを拝見すると、スポンサーの数が本当に多いことに驚かされます。営業の担当者は、何名ほどでしょうか。

島田 5人です。

太田 日本フェンシング協会も、そのくらいの営業人員で力を入れていけば、それなりにスポンサーさんからもお金が集まると思うんですよ。ただ、私たちのような公益法人は公益事業と法人事業に分かれていて、株式会社のように稼ぐことが本義とはいえない状況です。

フェンシングをプロ化できるか。

島田 別法人を立ち上げることは難しいのですか?

太田 可能です。ただ、その場合は33%までしか協会が株式を持てません。したがって、残りの株主をどうするか、という問題が出てくるのです。

島田 フェンシングのプロ化については、どのようにお考えですか。

太田 日本のスポーツ界には既存のプロ野球、Jリーグに続き、Bリーグ、そして卓球のTリーグが開幕しました。様々な競技団体で「プロ化したい」という思いがありますが、フェンシングは現段階ではプロ化は考えていません。

 オリンピック競技ですから現段階でプロ化するのは事実上難しい、という側面もありますが、むしろアマチュアスポーツでありながらも、社会とさまざまな形で接点を持っていくような、アマチュアとプロの特徴を併せ持ったものを目指したいと思っています。今は国からの補助金や助成金に依存することのない協会運営を目指し、その次のステップとして、ベストの経営戦略を議論しているところです。

島田 そうですね。私もその方針に賛同します。プロ化してすべての人がハッピーかといえば必ずしもそうではありません。プロ化するということは、ファンや地域と共存共栄していかなければなりません。

 しかしながら時代背景や少子化など、行政の財政力も脆弱になる中で、どの競技もプロ化してしまうと、地域で支えられなくなってしまいます。競技それぞれの特徴にあった生き残り方を模索し、その競技が設定するゴールに向かっていけばいいと考えています。

昇・降格のない時代がやってくる?

太田 Bリーグは昇格降格のあるピラミッド構造、いわばJリーグ型を取り入れましたよね。経営的な観点で言うと、チームの数を最小限にしてアメリカの四大スポーツ(NFL・MLB・NBA・NHL)のように降格・昇格がない仕組みの方がよくありませんか。

 もちろん、“おらが村”のチームがJ3から昇格していくような成功ストーリーがある、ということは魅力的ではあるのですが。島田さんはBリーグの将来を考えた時、どこに着地点を置くのがベストだとお考えですか。

島田 Bリーグは、競争することで上昇し、現状に満足しない経営力を身に付け、地域に密着しながら収益を増加させ、チケットを販売しないといけない――そんなメンタリティでbjリーグとNBLが一緒になってできたリーグです。全チームがそうやって努力を重ねていく中でリーグ全体を底上げしていく、という利点はあると思います。

 その一方で、降格したために経営が困難になったり、チームに投資することを重視しすぎ、エンターテインメントや顧客サービスまで行き届かなかった結果、経営難を招いてしまったケースもあります。そういう姿を見ていると、そう遠くない未来に現在の形から変わっていくべきだとは思います。昇降格のないかたち、“プレミア化”と言ってしまうと多少過激になりますが、究極としてはプレミア化がベターなのかもしれません。

 ただ、バスケットは地方に点在したクラブを集めて作られたリーグで、一部のクラブ至上主義といった形で舵を切るのは相当なリーダーシップとビジョンが必要になります。今のフェーズで業界として何が必要なのかは大きな決断になるのでなかなか踏み切れませんが、長い目で見たときは段階を踏んだ上で、そちら側の方向に進んでいくのではないかと見ています。

リーダーシップを取れる人が必須。

太田 何年後ぐらいですかね。何がブレイクする瞬間でしょうか。日本は決め切れないことが良くない点だと思っているのですが。

島田 それこそ、太田さんみたいな方が現れたら可能なのではないでしょうか。クラブもリーグも協会運営もすべてリーダー次第です。大局観を持って、未来に向けどういう選択をするのか。批評されても「これでいく」というリーダーシップを発揮し、誠心誠意、命をかけてやれるような人がいないと難しいのではと思います。

太田 バスケは一見華やかですが、一方では開幕して3年で経営危機に直面したクラブもありますよね。千葉ジェッツは先ほど民間主導で1万人規模のアリーナ構想を発表されましたが、チケットの値付けについてはどういう決めごとがあるのでしょうか。相当綿密にチケットの値付けをするのか、ある程度の予測値を持ってやっているのか、それともこれ以上値段を上げると反発があるからこの辺に抑えておこうとお考えなのか。

価格設定はシビアに見ていく。

島田 値付けは経営の一番最たる仕事で、難しいものです。クラブの価値と、ジェッツの試合を会場で観たいと思っている人たちがどれぐらいいるのか、予測をしていく中で価格を決定しています。

 現在、ホームゲームでは平均5000人程度動員していますが、9000名程度の方々がうちの試合を見たいと思っていて、5000人埋まっているという感覚です。この数字ですと、まだ安定性はありません。今、目指しているのは潜在的に5万人程度見たい方々がいて、5000人埋まっているという状況です。

 それが実現できれば、現在の価格を倍にしても動員できることが数値上では証明されます。ただ実際に倍額にするつもりはありませんが、ここから2、3年で潜在的数値を9000人〜1万人、2万人、3万人と増加させたいと思っています。4、5年後に新アリーナが完成(予定)した時に、1万人のアリーナが常時埋まるシミュレーションを行いながら、スタートアップから8、9割埋まる状況を作りたいですね。

 VIPルームも設置するので総収入は倍どころではなく大きく増えるとは思いますが、楽観視はしていません。シビアに状況を見ながら変更していく予定です。

太田 新アリーナについて、試合開催時以外の稼働は、アーティストのライブなども予定されているのですか。

島田 そうですね。ぜひフェンシングの大会でも使用していただければ!

「民」で作るアリーナの強み。

太田 フェンシングの大会はここ2年ほど、東京ではずいぶん人を集められるようになりましたが、1万人のロケーションは現実としてはなかなか厳しいですね。東京オリンピックでは幕張メッセが会場となりますが、オリンピックだからこそ成立するわけで、日常的にあの規模で開催できるかといえば疑問が残ります。ですから全日本選手権も課題を1つずつ潰していった結果、700人規模のグローブ座で行うことになったのです。

島田 グローブ座での開催は非常に画期的でしたよね。新アリーナを作っても、われわれは基本的に1シーズンで30試合程度しかホームゲームを行いません。ですから残りの330日は他のスポーツやコンベンション、アーティストのライブ等を誘致しなければ採算が取れません。これまで前例もないのでどうなるか分かりませんが、いろいろなことにチャレンジしていくつもりです。

太田 今は改修等のためアリーナ不足とも言われていますしね。来年の東京オリンピック以降はどこも使用が可能となります。その時に「このアリーナがいいな」と思わせる、いわば“選ばれる”アリーナでありたいですよね。そういった意味では設計も大切なポイントになってくると思います。

島田 我々のホームなのでバスケにとって良い環境であることは大前提ですが、その上で、他の興行を行う場合にもいかにフィットするかが大切になると思います。おっしゃる通り、アーティストに選んでいただけるような作りにしなければ難しいですし、そこはこだわりたいですね。逆にそれこそ「民」で作る強みかなとも捉えています。

 それから、アリーナができる前にも、フェンシング協会と一緒に何かできることはあるかもしれないな、と考えているところです。これまでも試合前やハーフタイムを使い、アーティストのミニライブやまったく違うプロスポーツのイベントを組み合わせ、さまざまなエンターテインメント・プログラムを作っています。今後、コラボしていくことはできるようにも思うのですが。

「魅せられる」レベルを求めて。

太田 正直なところ、まだフェンシングは、ジェッツさんのハーフタイムショーのプログラムとしてふさわしい、「魅せられる」レベルにはない、と思っています。今はまだ試行錯誤しているところです。

 既存の3種目(エペ、フルーレ、サーブル)は剣がどうしても細く、遠目からだと何をやっているかまったく分からない。それをそのまま観客に見せつけて「すごいだろう」というのは、正直我々のエゴになってしまいます。一般のお客さんが競技を見ていて、笑ったり感動したり、「すごい」と感じるようなものを、わかりやすく見せられる形を作ってからご一緒できたらいい、とは思うのですが。

島田 なるほど……。実はジェッツも私が代表に就任した当初は業界でも集客力は下位で、数百人しか入っていない時代もありました。その頃、集客努力は全くしていませんでした。なぜなら、集客をしてもお客様が「つまらない」と感じれば、二度と会場に来なくなると考えたからです。

 地域密着・地場産業としては敵を作ったら終わりです。当時は(お客様を)呼べば呼ぶほど、未来に向けてのアンチを増やすだけだと思い、クラブの価値が上がるまでは積極的には呼ばないと決めていました。その後、先日1億円契約を結んだ富樫(勇樹)を獲得したタイミングで、フロントの人員も増やし一気に攻勢をかけたんです。

分かりやすく楽しめる演出を。

太田 まだ攻勢をかける時期ではない、というのは似ていますね。実は6月に千葉ポートアリーナでアジア選手権を開催しますが、今回はあまり積極的にPRしていません。なぜなら、今回は昨年の全日本のような演出を行うことができないため、初めて来場したお客様を必ず満足させるという自信が少ないからです。ただ、オリンピックの出場をかけた試合ですので、関係者の人にはたまらない試合になると思います。

 私自身は少しでも満足して頂くために写真を撮ったりなどして……満足度を違うところですり替えに行く作戦です(笑)。でも、オリンピックではこうならないので、見に来てくださいねと伝えるのも忘れずに。

島田 何か「わかりやすく見せられる形」は模索しているのですか。

太田 テクノロジーを使って、剣先の軌跡を可視化する「フェンシング・ビジュアライズド」が1つの回答ではあって、グローブ座ではデモンストレーションをするところまではたどり着きました。それとはまったく違う方向性ですが、既存の3種目ではない新しい種目を作るべく模索しているところです。

 発想をガラリと変えて、同時に4対4で対戦できたり、あるいは8人同時対戦で1人になるまで戦うといったサバイバル形式、しかもコロシアムのような円形競技場を舞台にするとか、「フェンシング=1対1の対戦」という概念を変えてもいい、と思っています。

島田 面白い! 大きなチャレンジですね。
(対談後編に続く)

文=石井宏美(Number編集部)

photograph by Kiichi Matsumoto


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