【NSBC第3期 スペシャルトーク】太田雄貴×島田社長、特別対談後編。革新を生むことでスポーツが変わる。

【NSBC第3期 スペシャルトーク】太田雄貴×島田社長、特別対談後編。革新を生むことでスポーツが変わる。

Bリーグ・B1で初年度から3年連続で観客動員数ナンバー1。天皇杯は3連覇、Bリーグは惜しくも2年連続準優勝となったが、成績も含めてBリーグで最も成功しているクラブ・千葉ジェッツの島田慎二社長。
2017年の会長就任以来、フェンシングを「ベンチャースポーツ」と位置付け、さまざまなアイデアで業界に新風を吹き込み、確たる存在感を示している日本フェンシング協会の太田雄貴会長。
Number Sports Business Collegeで連載を持つ2人の「改革者」のスペシャルトークは、前編に続き後編も白熱。2人はいま、組織を運営する上で、ある共通するキーワードを心の中に秘めていた……。

島田 東京オリンピック誘致の時もそうでしたが、太田さんはビジネス感覚を持ちながら公益社団法人の中で改革を進め、かつ、興味深い取り組みで観客の満足度を高めているように感じています。太田さんはこの先、何を見据えているのでしょうか。

太田 会長に就任してこの2年間は攻めの経営を行ってきました。たとえば、フェンシング協会と日産自動車の取り組みもその一例です。フェンシングは電源がない場所では競技を行えない、という課題がありました。実は日産の電気自動車「リーフ」の動力となっている蓄電池は家庭用電源として供給できるのですが、それを世の中の7割程度の方は知らないままでいる。

 そこでわれわれの課題と、日産の「リーフの電力活用法の認知」という課題をドッキングさせ、「リーフがあれば世界中どこにいても電源が確保でき、フェンシングができます」といった営業を仕掛けていきました。その結果、スポンサー年間契約に至ったのです。日産自動車は、誰もがご存知のナショナルブランドです。そういったところとしっかり組んでいくことで、フェンシングの価値をあげていく。これはマーケティング戦略の1つでもあります。

脱・太田&島田を推し進めていく。

島田 ビズリーチさんと組んで、マーケティングの人材なども意識して外から採用していますよね。

太田 組織を強化していく上で、外部の血を入れることは大切なことだと考えています。ビズリーチで採用した副業・兼業チームを含めて、関係者全員が一体となって組織の最適化を進めています。特にいま意識しているのは、公益法人として、会長に依存しすぎない組織設計を見据えて改革を行っていくことです。将来に備え、組織の強化と同時に、「脱・太田雄貴」を進めていきたいです。

島田 深く共感できる部分です。実は私の最近の合言葉も「脱・島田」なんです。改革を行うのはこちら側の思いや勢いで進められますが、クラブの持続的成長、持続的発展が可能な状況を作るには、個人としてではなく、組織として行っていく必要があります。リーダーはもちろん大事ですし、私もまだまだがんばります。でも、そこに依存しすぎてもいけない。私も今、まさに「脱・島田」まっただ中です。

 組織が長きに渡って発展する上で、私がいる時代が長ければ長いほど、次の時代が苦しくなると思っています。私がまだ力があるうちに、次代にバトンタッチをしなければなりません。そういった意味で太田さんのように、最初から急ピッチで改革を進めながら「脱・太田」を前提に設計し、次なる未来を見据えて組織を牽引しているのは、本当に素晴らしいことだと思います。

スケートとトライアスロンに学んで。

太田 いえいえ、私だけでは何も進められなかった、と思っています。私の右腕といいますか、右腕以上の辣腕を発揮してくれている宮脇信介専務理事の存在が非常に大きいです。手前味噌ですが、会長としての私の最も大きな功績は、宮脇さんを専務理事に選んだことです(笑)。宮脇さんをはじめとして、私は周りの方に非常に恵まれています。

島田 宮脇さんも、外部の人材ですか。

太田 フェンシングの関係者ではありましたが、長く金融系のお仕事をして、外資系資産運用会社で働いていた方です。ビジネスマンとして、大変合理的な意見を言ってくださるのでありがたいです。

島田 フェンシング協会の意思決定には、スピード感もありますよね。

太田 私が常日頃から意識してベンチマークしている人や組織が、おしなべてスピード感を持っていることが関係しているかもしれません。でも、2年前からじっくりじっくり取り組んできた案件もあります。

島田 特にいい事例だなと見ているのはどの組織ですか。

太田 実は……千葉ジェッツさんもベンチマークの1つに入っていました。あとは、全日本スキー連盟の皆川賢太郎常務理事もそうですし、競技団体としては日本スケート連盟と日本トライアスロン連合はかなり細かく分析しました。

 たとえばフィギュアスケートは連盟の登録者数は少ないのですが、今、テレビ中継では最も視聴率がとれるスポーツです。一方、バスケットボールは競技人口では高校生で最も多く、登録者人口も協会ベースで約62万人いるけれど、視聴率はフィギュアには及びませんよね。競技人口とテレビの視聴者の因果関係はあまりない、ということなのでしょう。

 スポーツで一番愛されているランニングも、箱根駅伝等は別としてそこまで高い数字ではありません。“見るスポーツ”と“Doスポーツ”の比率の目標値をどのあたりに置くべきなのか、協会登録者数の目標と、「見る化」の限界点を見極めながら協会が進む道を決めているところです。

メダリストという実績が説得力に。

島田 それにしても、この若さで協会のトップを務めるのは本当に大変なことだと思います。数あるスポーツ競技団体のトップとしては、ダントツの若さですよね。

太田 あくまでも個人的な感覚ですが、比較的若い方がその職に就くのがいいと感じています。自己保身ではなく、その業界をどうしていきたいかという情熱がトップに必要とされると思うのです。もちろんそういった情熱について、必ずしも年齢で区切るわけではないですが、割合的にそういったものは若い人の方が多いような気がします。

島田 Bリーグの社長の中だと私は年上の方になるのですが、30〜40代の太田さん世代の方が多いと思いますしね。それに改革を行う場合、ある種の古き慣習を壊さなければならない面もありますから。

太田 唯一良かったなと感じているのは、私がオリンピックのフェンシング競技で日本人初のメダリストだったということです。これがいろいろ改革を進めていく上での説得力となりました。

副業・兼業のロールモデルに。

島田 先ほどのお話の中にもありましたが、副業・兼業で人材を募集された際はどれくらい応募があったのですか。

太田 のべで1127名の応募がありました。そこから4名を採用し、同時期にボランティアで入った方も含めて20名ぐらいの体制になりましたね。副業・兼業で採用した4名は週1日、月4日程度稼働してもらってます。いま、兼業・副業を認めている企業はまだ日本全体の10%に満たないのですが、公益法人やスポーツなどは、大企業からするとライバルにはならないので認められるパターンが結構多いです。

島田 いい人材に来ていただけているようですね。おそらく副業・兼業でいらっしゃる方は自己実現や太田さんとともに1つの目標に向かうことに価値を見出しているのでしょう。

太田 もしジェッツさんがこのスキームで募集すればかなり人材が集まると思いますよ。うちが募集する際は、「一緒にスポーツ界のロールモデルを作りましょう」「仲間募集します」「会長直下でやります!」というようなスタンスで、人材募集に関するPRも非常に力を入れました。

 ビズリーチのPRの方が非常に優秀な方で、その方のアドバイスもあり、事前に経済誌やスポーツ紙、一般紙も含めて、大体10〜15社程度取材を受けました。その甲斐もあって「副業・兼業モデル」についていえば、フェンシング協会の後はスキー連盟、ハンドボール協会、サッカー協会やウィルチェアラグビー連盟も採用していて、いよいよスポーツ庁でも導入されることになります。

競技の枠を超えて横のつながりを。

島田 副業・兼業で人材を採用した他の競技団体もうまくいっているのでしょうか。

太田 うまくいっているようです。スポーツ団体ではフェンシング協会が兼業・副業の第1号となりましたが、今後、同じ形で採用した他の競技団体で起こりうる事象は、私たちが先に体験していることになります。

 そこで、スキー、ハンドボール、フェンシングなど、副業・兼業で競技団体に従事している方の横のつながりを作り、副業・兼業ならではのノウハウや悩みを共有できたらなと考えています。フェンシング協会がひとり勝ちしようという考えはまったくありませんし、お互いシナジーを出していけたらいい、といった議論を、ハンドボール協会の湧永寛仁会長やスキー連盟の皆川さん、ウィルチェアーラグビー連盟の高島宏平理事長らとしているところです。

島田 目からうろこのアイデアですね。いいことを聞きました。

太田 ただ、副業・兼業でプロ人材を採用する際に気を付けなければならないのは、既存のフルタイムのスタッフたちとの関係をしっかり説明し、位置付けていくことです。何度も説明をして理解を得ることが大切です。

島田 このスキームを、まだスポーツクラブとして行っているところはないんじゃないでしょうか。

太田 ゼロだと思います。

島田 優秀な方々と絡みながらシナジーを出していくのは1つの方法ですね。

「ショーケース」のような大会を。

太田 なぜこういうイノベーションが生まれたかといえば、フェンシング協会にお金も人材もアイデアも戦略も、そして観客もいないという、ないない尽くしの状態だったからだと思います。

 兼業・副業というスタイルは、これから増加していく。その流れに乗ればニュースにもなる。こうした活動を通して、スポーツ団体に関わっている方々にフェンシングが何かしようとしていることを知っていただける。このポジションを確保できたことがかなり重要だったなと感じています。

島田 フェンシングの試合、というのはさほど多くありませんよね。

太田 フェンシングの大きな国内大会は全日本選手権のみですので、思い切ってショーケースにしてしまい、フェンシングを応援する企業同士がつながるサロン的な場所を提供し、テクノロジーをふんだんに使用していくことで、フェンシングを応援する価値を感じていただき、次のシーズンのスポンサー契約につなげたいと考えています。

 フェンシング自体の価値が上がるような大会の設計を常に視野に入れていますね。先日発表しましたが今年は、新しくなった渋谷公会堂で全日本決勝を行います。

島田 ショーケースという発想が面白いですね。ある種、アクティベーションでもあり、新規営業の場でもあるということですね。

Bリーグにドラフト制導入はあるか。

太田 そういえば、バスケットはプロ野球のようなドラフト制度はあるのですか? ドラフトもまた、リーグを盛り上げるイベントの1つだと思いますし、戦力均衡化策としてはありなのではないでしょうか。

島田 いま現在は行われていませんね。Bリーグの将来構想の中にはありますが、現段階ではクラブの格差が大きすぎて、できていない状態です。例えばプロ野球の場合、選手が希望したチームとは異なるチームに指名されて入団したとしても、潰れたりすることはなく、試合に出場すれば給料が少ないということもありませんよね。

 しかし、バスケットの場合は入団するクラブによって、どんなに結果を残しても高い給料が払われない場合があり、それは選手にとっては不利益になります。今後、ある程度の水準のクラブが複数出てくれば、例えばB1だけドラフト導入という可能性が出てくるかもしれません。ドラフト制度が導入できたら、勢力も均衡し、見ているファンももっとワクワクするんでしょうけれど。

英語の成績が問われる代表選考。

太田 選手は大卒が基本ですか?

島田 高卒でプロになっている選手はほぼ皆無ですね。高校卒業の段階ではまだまだ選手として発展途上だからだと思います。よほどの逸材でなければ厳しいでしょう。試合に出られず数年控えで過ごすのなら、大学で実戦経験を積んだ方がいい、という考え方もあります。

 本来であれば高校卒業後プロ入りし、長きに渡って稼げる方が選手にとってはベストで、実際にそういう選手もいます。ただ、バスケ界はまだまだ未成熟な部分もあって、万が一のことを考えると、大学に行って他の選択肢を持てるようにしておいたほうがいいのも事実です。

 フェンシング協会の大きなニュースといえば、先日世界選手権の日本代表選考基準として、英語の試験成績を導入すると発表しましたよね。

太田 フェンシングは電気が付いたら勝ちだとみんな思っていますが、実際はそうではなく、審判機がどちらに動いたかというのを審判が見てジャッジします。つまり、審判と選手のリレーションシップがとても重要なのです。海外の選手は意に反することがあれば、審判の判定に対し当たり前のように意見します。

 しかし日本の場合、クレームは出すのですがただの文句になってしまっている。そこで審判の判定に対して臆せず対応できることが大切なのです。実際、私自身も初めて海外に出たときに、審判とのコミュニケーションや語学の重要性を痛感しました。その後、ある程度審判とよいリレーションシップが出来るようになって、2008年の北京オリンピックで銀メダル獲得という結果に結びつきました。

島田 なるほど……実体験として、英語の必要性を感じていたんですね。

選手を使い捨てにしない信念。

太田 競技生活で結果を出せば、選手たちの将来もより良くなります。しかし、たとえ競技で思うような結果が残せなかったとしても、最低限英語ができれば人生の選択肢は広がってくる。よく「アスリートファースト」と言いますが、それが大切なのはもちろんですが、私達はもう一歩踏み込んで、選手たちの未来がより豊かになる「アスリートフューチャーファースト」を掲げました。

 彼らの『未来』を見据えた時に、英語力は必要不可欠だと考えています。すでに昨年から選手たちには英語学習に取り組んでもらっていますが、今後は365日、24時間稼働のオンラインシステムを導入し、選手たちには世界のどこにいても英語を学べるシステムを無償で提供し、選手個々の英語力の向上を期待したいです。

 協会としては、選手を使い捨てにしない、ただの商品としては扱わないという信念があります。スポーツの世界ではどの競技でもセカンドキャリア問題を抱える中で、選手たちが引退後にどのように社会で活躍していくかが非常に大切なことだと捉えています。「フェンシング出身者はすごくいいよね」といった高評価につながれば、協会にとっても非常に大きなブランドになりますから。

 そういえば、選手のセカンドキャリアという意味では、実はもう1つ、協会として試みていることがあります。日本代表のユニフォームに、個人のスポンサーの枠を1つ選手に提供しているのです。

島田 その稼ぎは各々にまかせる、と。

擬似的に社会人経験を積む機会が。

太田 契約書のひな形はこちらで作成し、フェンシング協会のスポンサーとバッティングする企業はNGといったルールはありますが、そこは選手たちに任せています。マージンは一切取りません。先日、副業・兼業で強化本部副本部長に就任いただいた日本コカ・コーラ社の高橋オリバーさんによる「スポンサーのセールスの仕方」講座を選手向けに開きました。

 同講義では選手たちにセールスシートの書き方を始め、自分に興味を持ってもらうための方法や、自分の価値を知ることなど、様々な観点から話をいただき、その後、選手たちが自らセールスするという機会を与えました。彼らにはフェンシングという競技を通して、いろいろなことを学んでほしいのです。

 これがまさに、プロを目指さない理由の1つでもあるのですが、自ら学ぶ機会を作ってあげることで、疑似的に社会人経験を積むことができるのは選手にとってもメリットだと思っています。

島田 画期的ですね。

太田 ただ、1年間の猶予があったにもかかわらず、実際にセールスシートを記入したのは200人中4人のみでした。そこで企業さんとマッチングを決断し、実際に「G1 U-40(新世代リーダー・サミット)」に選手を参加させて「営業してこい、自分を売り込んでこい」と促しました。

 こうした場所での学びが成功体験に繋がって、いつか彼らが会長になったときに「太田先輩の時代には、なんだか古臭いことをやってたよね」と言われる時代になってほしい。そのくらいの成長サイクルを作っていきたいと常々考えているんです。

競技団体と選手の関係に革新を。

島田 競技団体と選手との関係、という意味では、まさに画期的です。競技に集中できて、学べて、成長でき、ビジネス経験もできる。もう至れり尽くせりじゃないですか。他の競技団体もこうした取り組みを導入したほうがいいと思いますね。

 我々千葉ジェッツも「100年続くクラブ」を目指しています。顧客がファンやスポンサーで、彼らが継続的に応援し、サポートしたくなるアプローチをしていく必要があります。ただ、勝ち続けるのが困難であるのと同じように、サポートし続けてもらうことは難しい。その上でいかに継続性を生み出すかが大事です。むしろ、それこそがすべてだ、と思っています。

 長きにわたってそういう状況を作り上げるためには、テクニカルな部分と本質的な面をハイブリッドで同時に進めていかないと、化けの皮はすぐに剥がれてしまいます。そういう意味では太田さんはその両方のバランス感覚に非常に優れていると感じました。お話できて本当によかったです。今後もぜひ、いろいろ交流させてください。

太田 ぜひぜひ、よろしくお願いいたします。

文=太田雄貴

photograph by Masao Kato/AFLO


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