サニブラウンを支えた仲間の存在。「ハキームは本物のゲイターだよ」

サニブラウンを支えた仲間の存在。「ハキームは本物のゲイターだよ」

 全米大学選手権で3種目で大活躍し、表彰式後に大勢の日本のメディアに囲まれ、取材を受けるサニブラウン。矢継ぎ早に質問が飛ぶ中、チームの先輩でハンマー投げのAJ・マクファーランドが、「おじゃましまーす」と言いながら、サニブラウンの肩に手をかけ、取材に飛び入り参加した。

「先輩、どうぞどうぞ」と後輩も応じる。

 サニブラウン選手はこの1年でどんな成長を遂げたと思うか、という記者からの質問に、先輩は待ってましたとばかりに笑顔で答えた。

「どんな選手でもチームや学校になじむのに時間がかかる。2日でなじむヤツもいれば、2週間、2カ月かかるヤツもいる。ハキームは皆よりちょっと時間はかかったけど、チームの一員として努力して、結果を出した。よく頑張った。すごく誇らしい」

 先輩からのほめ言葉にサニブラウンもつい頬が緩む。

「ハキームはベイビーゲイターじゃなく、本物のゲイターだよ」

 温かい眼差しを後輩に向けながら、マクファーランドはそう締めくくった。

過酷な日程で予想を超える活躍。

 全米大学選手権3日目。1時間40分あまりの時間で決勝3種目に出場した。超がつくほど過酷な日程だった。そんな中、サニブラウンは周囲の予想を超える活躍を見せた。

400mリレー:37秒97(優勝、アメリカ大学新記録、今季世界最高)
100m   :9秒97 (3位、日本新記録、フロリダ大学記録)
200m   :20秒08(3位、日本歴代2位)

 3種目とも素晴らしい記録、そして結果だが、サニブラウンは「一番うれしかったのは400mリレー」と答えた。アメリカ大学記録を出したことよりも、一緒に走ったチームメイトが一番でフィニッシュラインを切ったことが何よりも嬉しかった。

 リレーのアンカーを走ったライアン・クラークは4年生。1年から3年までは個人種目でも同大会に出場したが、今回はリレーのみ。

 クラークはサニブラウンが高校3年生の時にフロリダ大学の学校訪問をした際に、お世話係として2日間、大学や寮、練習見学などにつきあってくれた選手だった。入学後もチームと距離感のあったサニブラウンを何かと気にかけてくれた存在だった。

サニブラウンを奮い立たせた仲間への思い。

「ライアンはすごい練習でがんばっていた。個人ではここまで来られなかったのですが、せめて4継だけでも勝たせてあげられたら」

 クラークが個人種目での出場を逃し、落ち込んでいた姿、その後も懸命に練習していた姿を目にしていた。

「ライアンのためにも絶対に勝ちたい」

 その思いがサニブラウンを奮い立たせた。

 400mリレー決勝。フロリダ大学は5レーンに。

 2走のサニブラウンは、自己ベスト10秒02を持つ1走のレイモンド・イキヴォからバトンを受けると猛然と突き進んだ。わずかにリードし、3走のグラント・ホロウェイに。ホロウェイは大きなストライドでグイグイと圧倒し、アンカーのライアン・クラークへ。

 トップでバトンを受けたクラークは必死に、もがくようにフィニッシュラインを駆け抜けると、左手を上げ、顔をくしゃくしゃにした。4年生のクラークにとって、これが全米大学選手権、最後のレースだった。

 走った4人、チームメイト、コーチやスタッフの思いが形となり、優勝だけではなく、アメリカ大学記録という大きなご褒美もついてきた。

 チームメイトと喜びを分かち合うと、サニブラウンは足早にウォームアップ場に戻っていった。大きな笑顔を浮かべながら。

溶け込むのを待ってくれたチームメイトたち。

 入学当初、怪我の影響でチームメイトと別メニューで練習を行うことも多かったサニブラウンは、チームに今ひとつ馴染めず、大会での応援などにも積極的に加わることはなかった。「(応援歌の歌詞も)何を言っているのか分からなかった」と言うように、留学生特有の悩みも抱えていた。

 そんなサニブラウンをチームメイト達は温かく見守っていた。無理強いしなくてもいつか輪に入ってくるはず。それを待とう。

好結果の裏にあった仲間の信頼。

 そんな仲間に支えられ、サニブラウンの姿勢は徐々に変わっていった。大会ではチームメイトに大きな声援を送り、チームメイトが負けると悔しがった。応援も「板についてきましたよね」と言うように、応援リーダー的な存在のマクファーランドの側で大声を張り上げるようになった。

 フロリダ大学の応援に“I said it's great to be a Florida Gator”.(ゲイターでいるのは最高だ)、という言葉がある。フロリダ大学はワニのマスコットのアリゲーターにちなんで「ゲイターズ」という呼称を使っている。

 昨年までのサニブラウンはまだ本当の意味でゲイターになりきれていなかった。しかしチームの一員として努力を重ね、チームメイトからの信頼を勝ち取り、「本物のゲイター」になったからこそ、陸上の好結果につながったように思う。

 6月下旬の日本選手権はサニブラウンがフロリダ大学のユニフォームを着て、初めて走る日本でのレースになる。選手として、1人の人間として成長した姿をどう披露するのか楽しみだ。

文=及川彩子

photograph by AFLO


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