田口成浩と比江島慎の「移籍1年目」。難しい時期を乗り越え、開花の時へ。

田口成浩と比江島慎の「移籍1年目」。難しい時期を乗り越え、開花の時へ。

 7シーズン在籍した秋田ノーザンハピネッツからタレント揃いの千葉ジェッツへ移籍した田口成浩と、6シーズン在籍したシーホース三河を離れ、海外挑戦を経て栃木ブレックスへ途中加入した比江島慎。

 2018-19シーズンに新天地での挑戦をスタートした2人は、入団当初はチームにアジャストできていない様子を見せながらも、チャンピオンシップ(CS)にぴたりと照準を合わせ、見事な活躍を披露した。

 決して平坦ではなかったCSまでの道のりを、2人はどう歩いてきたのか?

 そして移籍1年目のCSをどんな思いで戦ったのか?

 最後の試合の敗戦から数週間後、それぞれのシーズンを振り返ってもらった。

千葉移籍3試合目で味わった挫折。

 1万2972人の観客が見守った千葉ジェッツvs.アルバルク東京のBリーグファイナル2Qで、田口は3ポイント4本を含む14得点をあげた。立て続けに入る田口のシュートに会場は熱狂し、東京に傾いた流れを一気に千葉に引き戻した。

「CSの始まりから調子が良くて、決勝の朝はどんな試合になってもシュートを決められるという自信に溢れていました。移籍した当初はチームにアジャストできず苦労しました。だから、あの2Qは勝利には繋がらなかったけれど、やってきたことは間違っていないと自信になったし、めげずにやってきて良かったと思えました」

 田口は、千葉に移籍してすぐに挫折を味わっている。シーズンが始まって3試合目の三遠ネオフェニックス戦で、プロになってから守ってきた連続試合出場記録が途絶えたのだ。

「僕は、出場記録にこだわっています。あの日、怪我などの理由なく出場できなかったことが悔しくて、めちゃめちゃ泣きました。(富樫)勇樹が気付いてメシに誘ってくれて、自分が挫折した経験を話しはじめた。勇樹に、『僕だって悔しい思いをしてきたんだ。明日からまた頑張ればいい』と言われたんです」

 次の日の試合で田口は23分出場し、1Qにブザービーターを決める。73−56でチームは快勝し、田口は10得点をあげてMVPを獲った。

ターニングポイントは大野HCの言葉。

 田口と同じポジションには、2018-19シーズンのベスト3P成功率賞を受賞した石井講祐がいた。6シーズン千葉に在籍した石井はチームの主軸であり、千葉移籍後の田口のプレータイムは秋田在籍時から半分程度まで減っている。

「もちろん、試合に出られないと辛い。でもそれは、石井さんがしっかりディフェンスをして試合に出て結果を残しているから。そして僕が試合に出られないのは、ディフェンスができていないし、シュートも入っていないからだと自覚がありました。だったら、今やるべきことはディフェンスの強化だと。

 移籍してからは、足りていない部分を見つけて強化していくのに精一杯で、全く余裕がなかった。年明けに大野(篤史ヘッドコーチ)さんから『シゲ(田口)は、ディフェンスで力が入りすぎだよ。周りを見て、力を抜くところは抜いて』と言われた。その言葉で、頑張るタイミングを計りながら駆け引きをするディフェンスの考え方に変わったんです。それが千葉でのターニングポイントでした」

 話に夢中になるとタメ口になり、ハッと気がついて敬語に戻す……こんな繰り返しで田口との会話は進む。目の前のことに全力で向き合い、相手を楽しませようとする明るいキャラクターは、チームに気持ちのいい変化をもたらした。

「タレント揃いの千葉で、僕の濃いキャラクターをどう入れていくか考えました。秋田にいたときは『なんだこの暗いチームは!』と思って千葉を見ていたから(笑)、今は練習でも試合でも、すごいプレーには『うぉー!』って立ち上がるの。これは自分の仕事というより自然に出る行動だけれど、チームの雰囲気の良さにつながればいいなって思う」

「おい見とけよ、オレがいるんだぞ」

 田口は、昨シーズンまでキャプテンを務めた秋田で、B2降格とB1昇格を経験した。チーム唯一の秋田県民として、結果を求められる重圧は大きかった。

「秋田では勝って県民に喜んでほしい、秋田の名前を全国に響かせるために勝たなきゃいけないという思いが強かった。自分のことよりも、勝つためにチームが1つになることを考えていて、頭には常にB2がよぎっている……もうね、降格・昇格プレーオフはイヤなものですよ。ファイナルでこの経験を活かさない手はないでしょう?

 だから余裕っす。石井さんの3Pシュートが警戒されて打てないときは、『おい見とけよ、オレがいるんだぞ』ってコートに出て行こうと思っていた。日本最大のバスケの祭りで『おいさー!』してやるってね」

 千葉の19点ビハインドで始まったファイナル4Qで、大野篤史ヘッドコーチは「残り5分で1桁差にしよう」と選手たちに伝えた。彼らはその言葉通り、オフィシャルタイムアウトまでに59−64と、東京に5点差まで詰め寄る。

「1桁差なら9点でもいいわけです。それが5点差まできた。順調だ、予定より早い、これはイケる。コートに出るときは、自分たちが勝つと信じていました」

「何度コケても僕は立ち上がるだけ」

 1万2972人が発した応援の声は、どちらのチームが大きかっただろう? 中立開催のファイナルは、声援がダイレクトにコートに届いていた。

「タイムアウトが明けてコートに出るときに、声援が聞こえました。本当に応援の声がすごかった。ブースターの声で気持ちがのって疲れがとれるし、足が軽くなる。一緒に戦ってくれて、すごい力になりました」

 残り5分間も千葉の猛追が続くが勝利には届かず、67−71で千葉は敗れた。会場のスクリーンには、硬い無念の表情を浮かべた田口の表情が、容赦なく大写しになった。

「本当に終わったんだなって。それしか考えられなかった。東京が喜んでいるのを見たくなくて、耳を塞いで千葉側の得点板を見ていました。泣いているブースターが見えて、信じて応援してくれていたのに、その気持ちに応えられなくて、本当に申し訳なかった。

 ファイナルのビデオは、試合から5日後に見ました。絶対に見たくないわけではないけれど、4日間は勇樹とゴルフをしたり、チームメイトとボウリングをしてリフレッシュしました。

 また次、ですね。何度コケても僕は立ち上がるだけ。だって、コケたままだと終わりだから。どんなときも立ち上がってきたことが今の僕を築き上げているし、人生はそんなに簡単じゃない。むしろ僕は、人生を楽しんでいるほうだと思います」

オーストラリアを経験した比江島。

「セミファイナル2日目のビデオは見ていません。見ても悔しいだけだから。来シーズンのCS前に、あの悔しさを思い出すために見返します」

 勝率1位の千葉ジェッツと2位の栃木ブレックスの組み合わせになったセミファイナル1日目、栃木は67−75で敗戦した。後がなくなった2日目、比江島はどんな気持ちでコートに立ったのだろう?

「前日の怪我でライアン・ロシターが試合に出場できないと分かっていたので、今まで以上に僕がアシストや点を取ることを意識してプレーしよう、と思っていました。僕がチームの中心でプレーするという責任感を持っていて、コートに出るときは、100%勝てると信じていました」

 比江島は、シーホース三河から栃木に移籍した直後にオーストラリアのブリスベン・ブレッツへ移籍、5カ月後に帰国して栃木でプレーをするという、濃い2018-19シーズンをすごした。

 それは、次々に現れる目の前のハードルへ、必死に立ち向かっていく日々だった。

どん底で本田圭佑に伝えられた言葉。

 2018年12月、W杯予選カザフスタン戦の勝利後、オーストラリアへ帰る比江島の気持ちはどん底に落ちていた。ブレッツでは、ほとんどプレータイムをもらえない状況が続いていたのだ。エースである日本代表からベンチ入りも危ういチームへ。落差は大きかった。

「試合に出られないのにオーストラリアに帰ると思うと、落ち込みました。あのチームに僕がいる意味はあるのかと悩んでいて、辞めて日本に帰ろうと思っていた。そのとき、本田圭佑選手と話す機会がありました。

 日本のバスケ選手が海外挑戦するのは珍しい状況で、僕がその環境にいることを羨ましいと言われたんです。本当にポジティブな人で、海外生活に慣れるための具体的なアドバイスももらいました。そこから気持ちを持ち直して、チームメイトとも仲良くなって、海外生活が楽しくなってきたときに、解雇されたんです」

 帰国して栃木に入団した比江島は、チームに途中加入する難しさに戸惑う。安齋竜三ヘッドコーチは、ブレックスメンタリティを体現するディフェンスを比江島にも求めた。

「栃木に来てからは、特殊なチームルールを覚えるのに必死で、オフェンスに余裕を持ってプレーできない時期がありました。選手である以上、試合の最初から出るのは一番の希望だけれど、オフシーズンから一緒に練習していないし、途中加入でいきなりスタメンは無理だと思っていた。それに、僕が控えでいたら相手チームは怖いと思う。

 今シーズンは、スタメンではないことを受け入れました。チームのスタイルには徐々にフィットしていって、CSでは100%に近いところまで持っていけたと思います。レギュラーシーズンからずっとチームの雰囲気が良くて、CSに入ってからは、全員の集中力がさらに増していた。優勝できるメンバーが揃い、結果も出している。メンタルを整えれば優勝できる、という状態でCSを迎えました」

「僕がもっと打たなきゃ、攻めなきゃ」

 セミファイナル2試合目の4Qは、栃木の13点ビハインド、鵤誠司が左足を痛めてベンチへ下がり、富樫を抑えてきた遠藤祐亮が4ファウルという状況からスタートした。

「4Qのコートに出るときも、決して1秒たりとも諦めていなかったです。残り時間と点差を考えるとすごく厳しい状況ではあったけれど、まだいける、僕がもっと打たなきゃ、攻めなきゃいけない、としか考えていなかった」

 4Q残り1分12秒、リバウンドをとった比江島はファストブレイクでシュートを決め、ファウルももらってバスケットカウントをもぎ取る。W杯予選から戦い続けてきた日本代表のエースのスキルと想像力は、栃木の勝利へ希望をつないだ。

栃木でバスケができる喜び。

 千葉のホームで、圧倒的に少ない栃木ファンが発したその日最大の“ヒエジマ・マコト”コールは、どんな熱量で比江島に届いていたのだろう。

 大きく肩で息をしながらも、自身の落としたフリースローを取りに行ったときに笛が鳴って4ファウル、残り18秒にジョシュ・ダンカンのファストブレイクを止めたところで比江島はファウルアウト。最後までコートに残った5人はシュートを打ち続け、5点差まで詰め寄るも勝利には届かず、83−88で栃木は敗れた。

「あの試合、あの時間に僕が持っていた力は出し切った。後からああしておけばよかったというシーンはあるけれど、あのとき持っていた僕のスタミナを考えると限界は超えていました。このシーズンは大満足ではなかったけれど、栃木に復帰して、改めてバスケができる喜びを感じられました。公式戦で、栃木で、バスケができることが嬉しかった」

 比江島のセミファイナルも田口のファイナルも、試合終了後はアリーナの隅々にまで行き渡るような温かい拍手が続いた。どんなにビハインドを背負っても最後の最後まで諦めずに、「勝てるかもしれない」という希望をつないだ選手を称える、大きな拍手だった。

来季に向けて、それぞれの目標。

 ファイナルの日、比江島は中継のゲストとして横浜アリーナを訪れていた。

「会場に行ったら絶対に悔しくなると分かっていました。僕はあのファイナルのコートで喜んでいるべきだったし、そうなる自信もありました。あの場にいたことで、さらにBリーグで優勝したいという思いが強くなった。であれば、優勝できる可能性が最も高いチームでプレーするのがいいし、その環境にやりがいがあって、自分が成長できると思えるなら最高だなって」

 田口も比江島も、移籍1年目を手探りで進みながら、たゆまぬ努力で結果を残した。2019-20シーズン、「移籍1年目」の冠が外れてチームに100%アジャストしたとき、彼らがチームを一気に加速させる存在となるのは間違いない。

 比江島は5月29日に栃木との契約継続を決め、翌30日にはNBA ダラス・マーベリックスのミニキャンプへ参加することを発表。現在、ミニキャンプに向けてトレーニングを行なっている。

 一方の田口も、「早めに始動して肉体改造に取り組む」と話す。同じポジションの石井が千葉の退団を発表したことで、田口はさらなる期待と重責を担うことになるだろう。

 敗戦の悔しさを勝利のモチベーションに変えた2人の戦いは、次のシーズンに向けて、すでにはじまっている。

文=石川歩

photograph by B.LEAGUE


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