“親子弾”若林晃弘を育てた巨人二軍での「超攻撃野球」。

“親子弾”若林晃弘を育てた巨人二軍での「超攻撃野球」。

 父と子の“名刺がわり”の一発だ。

 6月7日、東京ドームの巨人対ロッテ戦。4回2死一塁から巨人・若林晃弘内野手が放った打球が右翼席に吸い込まれていった。

 プロ2年目の若林にとっては待望のプロ1号。しかも父・憲一さん(66)も1972年から10年間大洋に所属した外野手で、1977年に本塁打を記録している。この一発で長嶋茂雄・一茂親子や野村克也・克則親子らに続くプロ野球史上7組目の親子弾というオマケもついた。長嶋、野村親子ほど有名ではないが、もう1組の親子鷹を世に知らしめた一発だったわけだ。

 父に手ほどきを受けて野球を始め、元々は右打ちだったが、スイッチヒッターに転向したのも憲一さんの勧めだった。そうして二人三脚で野球の道を歩み始め桐蔭学園高校から法政大学、社会人JX-ENEOSを経て2017年ドラフト6位でプロへの道を切り開いた。

 プロ1年目の昨年は、一軍では先発2試合を含めて17試合に出場して18打数1安打。今季も4月に1回、一軍にお呼びがかかったが、その時は代走と守備固めで結果という結果を残せず、二軍にUターンした。

原監督にとって必然だった若林の活躍。

 そうして二軍での好調さを買われて、再び一軍昇格を果たしたのが6月1日。

 そこから5試合目の6日の楽天戦に「8番・二塁」で先発抜擢されると、左打席でプロ初打点を含む2安打の活躍を見せた。2試合連続の先発出場となったのがこのロッテ戦で、今度は記念の本塁打を叩き込んだ。

「(大歓声は)すごく気持ちいいです。本当にいい感触で打球が上がったので『入ってくれ!』と願っていました」

 無心で放った一発に若林の声は弾む。

「素晴らしかったね。難しいボールだったけど、スイングに切れ味がある。彼の良さがその通りに出たということですね」

 こう絶賛したのは原辰徳監督だった。

 だが、この活躍は指揮官にとってみれば、ある意味、必然でもあった。

「もちろん彼自身の力というのが一番の要因でしょうけど、そこには使う側の方針というのも1つの要素としてあると思います」

一軍と二軍はより強く連携するようになった。

 一軍昇格→先発抜擢→即活躍という理想的なサイクルの背景を取材すると、原監督が指摘したのは組織としての一、二軍の連携ということだった。

「先発に抜擢するときというのは、もちろん下からの推薦で一軍に上げ、そこから試合前を含めた練習を見て、その選手の状態をしっかり把握した上での起用になる。

 ただ、今年の巨人は選手が一軍に上がってくる前、ファームでも一軍と同じ考えで、同じ野球をやってチームが動いている。

 そうやって上も下も同じ戦い方をしていることが、若い選手が一軍に上がってきてすぐに適応して活躍できている下地になっていると思いますね」

激減した、二軍の犠打数の理由。

 その一、二軍の組織的連携を象徴する数字がある。

 二軍の公式戦での犠打数だ。

 イースタン・リーグで優勝した昨年は118試合で141犠打を記録した。川相昌弘前監督が「1点を取る野球」を掲げ、送りバントを多用。ある意味、勝ち切る野球に徹して戦ってきた結果だった。

 しかし、今季の巨人は一軍が2番に坂本勇人内野手を起用して、超攻撃的野球を展開している。

「下(二軍)も一軍と同じ戦い方をするということは何かといえば、やっぱりどういう局面でもまずきちっとバットを振るということ。その中で状況に応じて右打ちやチーム打撃や様々な打席での対応があるという野球です」

 そこで昨年の犠打数と今季の犠打数には大幅な変化が生まれた。

 高田誠監督になった今季は、基本的にゲームの序盤やここという勝負どころ以外では送りバントはしない。

 その結果、6月13日時点で61試合を消化して、犠打数はリーグ最少の19個と大幅に減少している。

「もちろんバントも野球の中では大事な作戦の1つです。ただ、バントだけではない。自分で工夫してなんとか走者を進めるバッティングをしたり、あるときは強打もある。そういう野球を二軍でもきちっと経験させることが、一軍で出番が回ってきたときに力を発揮しやすい環境につながっていると思います」

 原監督の分析だった。

一軍が必要とする選手を送り出すこと。

 一方、二軍を預かる高田誠監督はファームの役割をこう考えている。

「三軍は選手の育成がただ1つの役目になりますが、二軍は違う。ファームの役割は最初に一軍が必要とする選手を送り出すこと。まずそれがあって、その中でいかに選手を育てて、成長させていくか。この2つの役目をどうリンクさせていくかです。

 勝つことももちろん大事ですけど、まずその2つの役割があって、その中でいかに勝てるかだと思ってやっています」

 そのために試合ではまず打者が相手投手とのタイミングや間合いを覚えて、いかにバットを振るかを優先させて打席に立たせている。だからその機会を奪わないように、試合の序盤や中盤までは送りバントのサインを出すことはほとんどない。

状況によっては坂本勇人にも送りバントを。

 もちろんだからといってバントを疎かにしているわけではない。

「原監督は状況によっては(坂本)勇人にも送りバントをさせますから、そういう意識はきちっと選手にも植えつけて練習はしっかりさせる。試合の中でもここ一番では打順に関係なくサインを出すこともあります」

 要は最初から勝つために、走者が出たら送りバントのサインを乱発することはないということだ。

 厳しい局面で送りバントをしっかり成功させることは必要だし、そういうシチュエーションでは打順に関わらずバントのサインも出し、そのための準備もさせる。ただ、選手が成長するためには、試合の1打席も疎かにはできない。そこできちっとバットを振らせ、強いスイングを身に着けさせて、一軍で使える選手を送り出す。

 勝利ではなく、育成を目標にした野球に今年の巨人の二軍は徹しているということなのだ。

 こうした背景があるから、若林だけではなく抜擢した若手野手がすぐに結果を残すケースが何度もあった。

若手選手の台頭こそ最大の価値。

 4月16日に一軍に昇格した山本泰寛内野手は、その日の広島戦で昇格即スタメン起用されて2安打の活躍。5月8日に2度目の一軍昇格した田中俊太内野手も10日のヤクルト戦で先発起用されて満塁本塁打を含む5打点と結果を残した。

 もちろん4月の若林のケースや5月6日に一軍昇格したが、結果が出ないままに13日には二軍に戻った北村拓己内野手のようなケースもある。ただ旬を逃さずに一軍に上げて、すぐに先発に起用した選手が活躍するのは、決して偶然ではなく方針があるからだった。

 2016年にはファーム日本選手権を制し、昨年は選手権では敗れたがリーグ4連覇を果たして5連覇がかかる今季の巨人のファーム。6月13日時点で29勝26敗の勝率5割2分7厘という成績は、イースタン・リーグの首位・ロッテから5.5ゲーム差でDeNAと同率の3位というポジションだ。

「上野と高田がこちらの考えを理解してきちっとやってくれている」

 それでも原監督は一、二軍のつなぎ役をしている上野裕平ファームディレクターと高田監督の仕事を評価する。

 プロ野球の組織における二軍本来の役割を考えれば、勝つことではなく若林やそれに続く若手選手の台頭こそ最大の価値なのは言うまでもない。

「一軍も二軍も全員が戦力」――だから若林の活躍は偶然ではない。必然なのである。

文=鷲田康

photograph by Kiichi Matsumoto


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