若手の信頼厚い“優勝請負人”。ロッテ細川亨がもたらす好循環。

若手の信頼厚い“優勝請負人”。ロッテ細川亨がもたらす好循環。

 黒く日焼けした額には大粒の汗が光っている。

 気温が30度を超えることもざらだった今年5月、その暑さに負けまいとプロ18年目、39歳のベテランは人一倍に声をあげて、目の前の白球を追っていた。

 千葉ロッテ・細川亨。

 埼玉西武、福岡ソフトバンク、東北楽天と渡り歩き、千葉ロッテで4球団目となる練達の士は、その姿勢や背中から若手選手に何かを語りかけているようにも見えた。通算1401試合出場(2019年6月16日現在)で、5度の日本一を経験している。

 人呼んで「優勝請負人」

 かつて野村克也氏から「パ・リーグで一番キャッチャーらしいキャッチャー」と高い評価を受けたインサイドワークとキャッチング能力は、“アラフォー”になった今も全く錆びついていない。

 5月21日のオリックス戦では千葉ロッテに入団後、一軍の公式戦に初出場。7回裏、4対4の同点の場面からマスクを被ると、西野勇士、酒居知史、益田直也の3人をリードして、10球、13球、11球といずれも少ない球数で1イニングを締めさせた。

 6月16日現在、打席に立つ機会こそまだないが、限られた出場機会の中でも強い存在感を示している。まだまだ表舞台で活躍できる選手のように思えた。

シーズン前の自主トレできっちり走りこみ。

 今年1月の自主トレでは走り込みメニューが主体の館山フィットネスセンター・大迫幸一氏のところに身を置いて、きっちり自分を追い込んだ。細川が言う。

「やっぱりある程度は走れないとね。走れなくなったら、まず、ボールも投げられないですし、自分の場合は走るだけ走って鍛えた方がキャンプに入っても仕上がりが早いんですよ。もちろん肩もそうですし、体もそう。そこだけは一切変えないでやってきましたね」

 涌井秀章、唐川侑己、益田直也といったピッチャー陣に交じってやった自主トレに、本人も充実感を覚えているようだ。

「自主トレは足が速いやつとしか」

 だからなのか、千葉ロッテの石垣島春季キャンプでも、細川は若手主力も悲鳴をあげるランメニューに183㎝、103㎏の大柄な体を揺らしながら必死に食らいついていった。細川がこう続ける。

「結局、野手のところに行っても面白くないんですよ。ランメニューにしたって足の速いやつが多いピッチャーとやった方が100%(自分が)置いて行かれるし、そこでちゃちゃを入れられたりしながら、(自分を)追い込むこともできるわけじゃないですか。だからこれまでも自主トレは足が速いやつとしかやってこなかったですし、野手だけでやるときも足が速いメンバーと一緒に走ることはずっとやってきましたね」

 1週6試合、これを約半年間続ける。プロに入った多くの新人達がまず、この習慣にへばっていく。1年を戦う真の厳しさを、そこで初めて目の当たりにするわけだが、だからこそプロで生き抜くための基礎体力は重要だし、それが十分にあるからこそ技術練習やその他の練習にも身が入る。

 細川はこれまでのプロ生活でその重要性を何度となく感じて来たし、だからこそシーズン前の準備は一切の妥協をしない。

 プロ18年目のプライドがそこから滲み出ていた。

若手の悪癖をすぐ見抜く。

 今季は開幕こそファームで迎えたが、モチベーションを変えることなく高いところで維持してきた。グラウンドからはいつも細川の元気な声が聞こえてくるし、野球に対しても、人に対しても、謙虚で居続ける姿勢は、まさに若手の手本となれる存在だ。

 もちろんプレー面でも若手の参考になることが多い。

 ある日のイースタンリーグの試合では若手投手の一人が、変化球を投じた後のストレートを引っ掛け気味に投げてしまうという悪癖を露呈した。そうした傾向が出ることを、細川は一目で見抜いていたという。

 入団4年目の柿沼友哉がこう証言する。

「もちろん(その投手に)そうした傾向があることは僕も気付いていましたけど、細川さんはそれを一目見ただけで見つけると言いますか、普段僕らが見ていない視点でも見ている方なので凄く勉強になりますし、自分達の引き出しを増やすことにも繋がっていると思いますね」

ロッテの捕手争いにも好影響。

 千葉ロッテのキャッチャー陣は、細川を除くと27歳の吉田裕太から25歳の田村龍弘、24歳の宗接唯人に至るまで、ほぼ同世代で固まっている。そのためチーム内競争はかなり熾烈だが、そうした中、一歩引いた位置から物事を見られる細川の存在は大きいし、彼らが道に迷ったとき、現役捕手である細川の所作から何かを学ぶこともきっとあるだろう。

 ファームでは若手投手の育成にも一役買っている。中でも高卒3年目の島孝明とコンビを組む機会が多く、実戦の中から彼に様々なヒントを与えている。細川とのコンビについて島は次のように語っている。

「実績のあるベテランの方なんで(配球は)全部任せようと思って投げています。(キャンプの紅白戦で)初めて組んだんですけど本当に信頼をおける感じでしたし、個人的には凄く投げやすかったです。上手く自分の持ち味を引き出してもらった感じがします」

千賀らの若手の開花に一役。

 コンビを組むとき、島はとても気持ちよさそうに腕を振って投げている。今季はイースタンリーグで13試合に投げて防御率2.08(6月16日現在)。近年は制球難に苦しむなど、自慢の150km超の速球が活かせないシーズンが続いたが、小野晋吾二軍投手コーチの熱心な指導もあって今ではそれも解消。細川がそんな彼に少しずつ自信を植え付けて行った。島が続ける。

「(細川さんは)オーラと言いますか、座って構えたときの雰囲気とかリズムとか、そのひとつひとつが自分に合っています」

 かつては福岡ソフトバンクや東北楽天で、数多の若手投手の育成にも関わり、彼らの飛躍にも一役買ってきた。今や日本を代表する投手に成長した千賀滉大はその最たる例だし、そんな彼らに続けと、千葉ロッテでも島をはじめとする複数の若手が、一軍の舞台に羽ばたこうと今を必死に戦っている。

 そのちょっとした手助けを細川が今、担っているのだ。目に見える数字以上の価値が、細川の加入にはあるのではないかとさえ思えてきた。

どこまでも謙虚なベテラン。

 細川が言う。

「千葉ロッテに入ったのもなんかの縁なのかなって思いますね。その中で自分に出来ることをできたらいいなって思いますし、若手に伝えられる事があるのなら伝えられたとは思います。ただ、今、(千葉ロッテに)あるものに無理やり『どうこう』というのはあまり考えていないので、そこはしっかり周りを見てって感じですね」

 これまでの実績を振りかざすわけではない。どこまでも謙虚に。

 柔和な微笑みを浮かべる、その人の周りには自然と人の輪ができていた。

文=永田遼太郎

photograph by Kyodo News


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