トルシエが彼らをC代表と呼ぶ理由。「コパの意義は個人の成長と選別」

トルシエが彼らをC代表と呼ぶ理由。「コパの意義は個人の成長と選別」

 コパ・アメリカ2019が開幕し、日本の初戦となるチリ戦がいよいよ今夜キックオフを迎える。

 当連載コラム『ワインとシエスタとフットボールと』では、ロシア・ワールドカップ、UAEアジアカップに続き、コパ・アメリカでもイビチャ・オシム、フィリップ・トルシエの不定期連載を予定している。ただ、今回は、時差の関係でヨーロッパで試合が見にくいため、オシムについては実現できるかどうか、現段階でもハッキリしていないが……。

 ディフェンディングチャンピオンであるチリとの対戦を前に、まずはトルシエがコパ・アメリカに参加する意義を語った。

「私の時は準備が難しかった」

――日本が20年ぶりにコパ・アメリカに参加します。あなたが率いた1999年以来の出場をどう見ていますか?

「日本サッカーの進歩の過程にはなり得るとは思う。しかし協会とJリーグの間に十分な合意ができていない状況で、コパに送り出す選手の年齢層がとても若くなってしまった。

 私の時は準備が難しかった。準備のための時間がまったくとれず、Jリーグの試合を終えた直後にパラグアイへと旅立つことになったからだ。

 当時私が感じたのは、この大会を代表のスケジュールに組み込むにあたり、Jリーグと軋轢があったのではということだった。同じことは今回も感じる。代表のスケジュールにコパが合理的に組み込まれているようには思えない。どうして日本が南米連盟の招待を受け入れたのかわからないが、きっちりとした計画性が見えない。単に参加するためだけのようにも見える」

――たしかにJだけでなくヨーロッパのクラブの合意も得られない状況で、代表初招集となる五輪世代が主力です。

「私の時はシドニー五輪予選の2つのラウンドと重なっていた。だから五輪のためにコパ・アメリカを活用する考えはまったくなかった。五輪予選が同時に進行している状況ではそれは不可能だったし、2つのプロジェクトは完全に別のものだった。

 コパ・アメリカが有益であったのは、'98年ワールドカップ組の評価を下す最終段階となったことだ。当時はチームの移行期で、'98年組の選手たちをどうするかの判断を下しかねていた。私にとって'99年は日本のポテンシャルを見極めるための年であり、コパ・アメリカもその機会で、'98年組の最終的な評価を下すための大会となった」

「この大会は五輪代表にとってレベルが高すぎる」

――今回、そこはちょっと違います。

「実質的に五輪世代のチームで、私の場合とは逆にコパが東京五輪のためのステップとなるのは明らかだ。ただ、五輪代表の主力が加わっているわけでもない。その点はどうなのか?」

――主力のすべてというわけではないですが……。

「80%程度なのか?」

――五輪代表自体がまだ厳密に固定されていませんが、主力とみられる選手たちの多くが入っています。

「コパ・アメリカに行く選手たちが五輪でも代表になるわけだ。経験になるのは間違いないが、試合が厳しいのも間違いない。

 私にすればコパ・アメリカは日本にとって意味のある大会とは思えない。五輪代表にとってもそうで、彼らにはレベルが高すぎるからだ。だからピッチ上の結果は期待できないし、試合を通じて選手が個々に経験を得ることのみが唯一のメリットだ。

 Jリーグとは利益がぶつかり、リーグは中断することなく続いている。コパ・アメリカという大会に対する敬意を日本は欠いているのではないか。コパは歴史と権威のある大会で、参加することで日本代表のイメージを高めることができる。日本だけではないアジアのイメージもだ。

 だから結果を求めて最善の努力をすべきだが、同時に遠く離れた南米の大会でもあり、利益や目的を設定しにくいのも事実だ。つまり葛藤が生じやすい大会であるということだ。

 五輪にとって意義があるのは間違いないが、結果に関してはちょっと微妙だ。日本が1勝をあげるのすら難しいし、悪い印象を与える可能性を否定できない。日本国内にもインパクトを与えられないだろうし、大きなメリットがないように私には見える。時期が悪いしモチベーションも持ちにくい。参加する意義を見出すのは難しい」

「日本がブラジルに送るのは実質的なC代表だ」

――アジアチャンピオンとして参加するカタールは、3年後のワールドカップに向けての準備としての明確な目的があります。日本とは状況が異なるわけですね。

「カタールはこの大会を有効に活用できる。彼らはアジアチャンピオンであり、アジアのいいイメージを与えることができる。

 政治的なモチベーションを彼らは持っている。しかも若いチームだから、経験を豊かにするためにこうした大会は必要だ。カタールはコパにA代表を送り込む。彼らにはコパ・アメリカはとても有益だ。

 日本は違う。

 A代表での参加は見送った。日本がブラジルに送るのは実質的なC代表だ。ただ、このC代表は、五輪代表としてのポテンシャルを持っている。だから選手個々の経験にはなるが、コレクティブな成果はほとんど期待できない、ということになるだろう」

「カタールの戦略は理にかなっている」

「大会へのストラテジーとしてはカタールのほうがずっと評価に値する。またカタールサッカーの進歩にとっても有益でもある。それなりの結果も得られるだろうし進歩も見せるだろう。

 ワールドカップを3年後に控えてカタールの戦略は理にかなっている。コパ・アメリカという大会の実質に適応しているし敬意にも満ちている。日本がこの大会を合理的にプログラムに組み込むのは難しかったかもしれない」

――もしポジティブな面があるとすれば、それは若い選手たちのメンタリティーが変わってきていることです。彼らは以前に比べコパという大会をよく理解していますし、そこで自分の力を発揮したいと思っています。

「繰り返すが個人のためになる大会であるのは間違いない。

 選手たちはそれぞれがポジティブに捉えて大会に臨むだろう。しかしコレクティブにはそうではない。それはこれがC代表であってA代表でも五輪代表でもないからだ。

 だが選手は違う。この大会を契機にして、A代表や五輪代表に定着していくかもしれない」

「誰も私の眼には留まらなかった」

――その点ではあなたと森保監督との間に類似の点があると言えますか。というのも……。

「答えはウィとノンだ。

 私が連れて行ったのは'98年ワールドカップ組のチームで、そのチームが2002年大会に行くのではないのは明らかだった。私にとってネガティブな点は準備の時間がまったくとれなかったことだけで、チームの実態はA代表だった。

 私は彼らに彼らのスタイルとは違うスタイルでプレーすることを求め、ベテランたちはその要求に応えるのが難しかった。彼らは私のサッカー観に慣れ親しんでおらず、彼らが私のサッカーの本質にまで到達することはなかった。彼らは彼らなりに手探りで私との距離を詰めようとしていたが、私は彼らが私の要求に応えられるポテンシャルを持ってはいないと判断した。

 また個人的にも誰も私の眼には留まらなかった。後に招集した選手たちが見せたようなパフォーマンスは、この大会では誰ひとりとして発揮しなかった」

森保監督は若い選手の急成長を目撃するはず。

――たしかにあの時のコパには、そうした閉塞感しか感じませんでした。

「森保は違う。彼は選手を発見するだろう。

 チリ、ウルグアイ、エクアドルとの3試合で幾人かの選手が成長を遂げ、若い彼らのポテンシャルの高さに驚くだろう。大きなポテンシャルを持った選手たちの一挙手一投足が強い印象を残す。期待できるのは嬉しい驚きばかりだ。

 それが今回のコパのポジティブな側面であり、有効な点でもある。

 恐らくこの中から10人といわず12人、15人が存在感を示して森保の目に留まり、五輪代表を後に構成していくことになるだろう。さらにその先のA代表も。

 ただ、コレクティブには違う。あくまでもC代表であり、個々の判断を下すために寄せ集めたチームに過ぎない」

――とはいえ森保監督にとっては、オーバーエイジ枠3人を加えた五輪本番の、最初で最後のシリアスなテストの場とは言えませんか?

「もうひとつのポジティブな可能性があるとすればそれだ。彼がどんなスタメン構成で試合に臨むかでそれはわかるし、試合中にどんなマネジメントをするかも興味深い。

 いずれにせよコパ・アメリカ2019は、東京五輪とその後のワールドカップに向けて、コパ・アメリカ1999よりポジティブであり、森保にとって有益であるといえる」

文=田村修一

photograph by Koji Watanabe/Getty Images


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