38年ぶりに大学野球制した明治大学。エース森下暢仁を変えた、あの敗北。

38年ぶりに大学野球制した明治大学。エース森下暢仁を変えた、あの敗北。

 2019年6月17日、明治神宮野球場。

 全日本大学野球選手権、佛教大学との決勝戦。

 明治大学のエースであり、主将である森下暢仁(まさと)は、ときに冷静に、ときに熱く闘志を滾らせて、決勝の地・神宮球場のマウンドで吠え、躍動した。背中には主将の証である背番号10。ネット裏ではプロのスカウトたちが集結し、ストレートの球速が150キロを超えると、俄かに観客席がどよめいた。

 しかし、森下は球速には一切こだわらない。目の前の打者、ひとりひとりに集中していた――。

 4月20日。必勝を期した今年の東京六大学春季リーグ開幕戦も、神宮球場だった。

 主将として、エースとして初めて臨んだ公式戦だったが、立教大学・田中誠也との投手戦に、中盤持ちこたえることができず、0対4で敗戦。試合後のロッカールームで、森下は「3戦目、もう一度自分を投げさせてほしい」と、メンバー全員の前で頭を下げた。

「これでチームがまとまった」と、明治大学・善波達也監督。

 この敗北から引き分けをひとつ挟んだ14連勝で、明治大学は38年ぶりの日本一となった。

佛教大キーマンを三振に仕留めたシーン。

 決勝戦で圧巻だったのは、6回裏1死二塁で佛教大学の1番・八木風磨を迎えた場面である。

 準決勝まで11打数8安打、この試合でも第2打席で森下の149キロの外角ストレートを、センター前へと弾き返した今大会好調の打者を相手に、熱くなり過ぎず、冷静に努め、自身のピッチングと向き合うことで、見事に仕留めた。

 初球に選択したのは外のチェンジアップだ。思わぬ変化球に、八木は一瞬、面食らった表情を見せる。その後は、140キロ前後のカットボールを内角に続けて見せて、ファールでカウントを稼いでいく。打者のタイミングが合ってきたと見るや、一転、キャッチャーのサインに首を振り、緩いカーブを挟むと、最後はこの打席唯一のストレートを外角高めに投げ込んで、空振り三振を奪った。

伊勢大夢が決勝までバトンを繋いだ。

 コンビを組むキャッチャーの西野真也が、このシーンを振り返る。

「内にカットボール、カットボールと続けて、粘られていたので、やっぱりアイツ(森下)が一番自信ある力のある真っ直ぐで勝負かなと思ってサインを出しました。

 ちょっと(球は)抜けてしまったんですけど、アイツが『腕を振った』と言ったとおり、力があるボールだからこそ空振りが獲れたと思っています。あの場面は冷静に、思い切った攻めができたんじゃないかと思いますね」

 前回登板から決勝戦まで中3日、体調もほぼ万全だった。

 同じ4年生でドラフト候補の伊勢大夢がトーナメント初戦(2回戦)の福井工業大戦で先発。打線も奮起して9対2で(7回コールド)勝ちを収めると、準決勝の東農大北海道戦でも、再び伊勢が3回から2番手で登板し、7イニングを1安打無失点に抑える好投を見せていた。

 伊勢が、決勝のマウンドで待つ森下に、しっかりとバトンを繋いだのだ。

「このメンバーと野球をやってきて、本当に良かった」

「チームのみんなが決勝の舞台に(自分が)立てるように繋いでくれて、野手陣も本当にピッチャー陣を助けてくれるバッティングをしてくれて……。何が何でも今日は自分が抑えなければいけないと思いながらマウンドに上がりました」

 決勝戦直後、森下はこんな言葉を口にしていた。

「今までこのメンバーと野球をやってきて、本当に良かったです」

 彼の心の奥から自然に出てきた、21歳のエースの本音だ。

 もちろん、森下のエースとしての活躍や、日頃の言動だけでチームがまとまっていったわけではない。日々の生活の中で、チームの手本となるような森下の姿を見てきたからこそ、「森下をみんなで盛り立てよう」と部員全体が1つになることができたのだ。

 副主将でチームの主砲も務める北本一樹は、森下について次のように語る。

「3年生のときまでは、わりとチャランポランな性格だなって見えていたんです。でもキャプテンになって、本当に責任感が生まれたというか、みんなが自分を見ているということを、ちゃんと気にするようになったと思います。悪いことはもちろん全くしないし、先頭に立って、良い見本を見せてくれている。キャプテンになって本当に変わったなと思います」

トイレ、風呂場を率先して掃除する主将。

 捕手の西野が、さらに続ける。

「たとえば寮生活の中で、寮の掃除だったり、食事もですけど、そういう面でも(森下は)しっかりやっていくぞという姿勢をいつも見せてくれるので。

 部屋の中をキレイに掃除するのは当たり前のことですけど、トイレであったり、お風呂であったり、洗濯場であったりの共同スペースをアイツが率先して掃除するんです。

『当たり前のことを、きっちりやっていけば野球の結果にも繋がるんだ』という姿勢を、アイツ(森下)が中心になってチーム全体に伝えている。それを徹底してできていることが(勝利の要因に)あると思います」

 こうした森下の変化に、善波監督も目を細める。

「例えば私が(選手たちに)小言を言ったとき。部員たちに向かって『こんなことを(監督に)言わせちゃダメだろ』と、ハッキリ物を言うようにもなりましてね。それを私も横で聞いていたんですが、『こんな面もあるんだ、頼もしい奴だな』と。そんなことが(シーズン中)ちょこちょことありましたから」

 試合で出番がないときもベンチ内では人一倍、声を出してチームを盛り上げる森下の姿が常にあった。

「アイツのひと言で雰囲気がガラッと変わる」

「練習のときも試合のときもそうですけど、チームの雰囲気がおかしいとき、アイツのひと言で、チームの雰囲気がガラッと変わることがあるんです。それが不思議というか、それだけ説得力がある、と。そういう力を持っている人間なんだなと、見てて思いますね」(西野)

 昨年まではゲーム後半で粘り切れないピッチングが見られるなど頼りなさもあったという。それが最終学年になり、主将を任されたことにより、チームを牽引するという自覚が徐々に育っていき、自然とエースとしてのマウンドでのパフォーマンスも変わっていったという。

9回投げきって勝利する投球術を身につけて。

 善波監督も、公私ともに取り組み方が変わったと森下の大きな変化を認める。

「リーグ戦から良い結果を出してくれるんじゃないかなと思っていたんですけど、この間の東洋大戦、今日の佛教大との決勝と、(1試合を)投げ切るピッチングを両試合で見せてくれたので、本当に頼もしく映っていますね」

 この全日本大学野球選手権、準々決勝の東洋大戦(108球)、決勝の佛教大戦(105球)といずれも9回を投げるにしては少ない球数でまとめていた。

 力任せの投球にならず、要所要所でギアを上げていく大人の投球――長いイニングを安心して任せられるようになったのは、そうした投球術面での成長も少なからず関係あるだろう。

 勝って兜の緒を締めるかのように、森下自身もこう話している。

「ここが終わりじゃなくて(春のリーグ戦から)この2カ月でチームのみんなが成長できたように、まだまだこの1年間で成長できると思っていますし、秋に向けてチーム一丸で、また戦っていけたらと思っています」

 明治大学として38年ぶりの優勝という偉業の直後に聞いた、森下の、この飽くなき探求心がうかがえるコメントに、秋の更なる成長を予感した。

文=永田遼太郎

photograph by Kyodo News


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