自分自身の限界を知るために──。男子バレー福澤が自らに課す使命。

自分自身の限界を知るために──。男子バレー福澤が自らに課す使命。

 人は変われる。進化できる。弱点は武器に変えられる。

 それを証明しているのが、バレーボール日本代表のウイングスパイカー、福澤達哉(パナソニックパンサーズ)である。

 昨年、2年ぶりに日本代表に復帰した福澤は、ネーションズリーグで、リベロと2人でサーブレシーブの中心を担った。

「こんなことあります?」と福澤は笑っていた。

 なぜなら、以前は攻撃型の選手で、サーブレシーブが弱点だったからだ。

 最高到達点355cmの抜群の跳躍力を活かした攻撃が早くから評価され、中央大学1年の時に代表デビューし、大学4年だった2008年には北京五輪出場を果たした。以降日本代表の主軸になったが、サーブレシーブを崩されて途中交代となる試合も多かった。

 それが今では、福澤のサーブレシーブが代表チームで重宝されている。

1kgのメディシンボールで特訓。

 福澤の助けになったのは、フローターサーブに対するオーバーハンドでのサーブレシーブだった。

 福澤はパナソニックに入社した2009年から、オーバーハンドでのサーブレシーブを練習していた。当時はまだアンダーハンドが主流だったが、パナソニックの全体練習が終わると、真保綱一郎コーチ(現・FC東京監督)が台上から1kgのメディシンボールを打ち、それをひたすらオーバーハンドで返す福澤の姿があった。

「フローターのサーブレシーブに関しては、早々とアンダーに見切りをつけて、オーバーの練習を始めました。アンダーが苦手という意識がすごくあったので、得意なものを伸ばした方がいいんじゃないかと思って」

 毎日の地道な練習で身につけたオーバーハンドのサーブレシーブは、「自分の強み」と自負する武器になった。

 変貌したのはサーブレシーブだけではない。スパイクでの得点の奪い方も変わった。

 以前は真っ向勝負で、国内ではブロックの上から打てても、対海外になると高いブロックに阻まれ苦しんだ。しかし今ではそのブロックを巧みに利用してブロックアウトを奪ったり、リバウンドを取るなどプレーの選択肢が増えた。跳躍力だけを比べれば若い頃の方が高かっただろう。しかし今の福澤の方が、相手にとっては嫌な選手のはずだ。

点を取れば使われる、という真実。

 転機は2015/16シーズンのブラジルリーグ、マリンガへのレンタル移籍だった。そこでの考え方の転換が、福澤のプレーを変えた。

 福澤は、2008年から2013年まで日本代表の不動のメンバーだったが、2014年に左前距腓靭帯損傷で離脱し、2015年は登録メンバーから外れた。石川祐希(キオエネ・パドヴァ)や柳田将洋(ユナイテッド・バレーズ)が目覚ましい活躍で世代交代を印象づけた2015年のワールドカップが行われていた頃、福澤は地球の裏側でもがいていた。

 マリンガでスタメンを外れ、再びポジションを取り戻そうとあえぐ中でたどり着いたのが、泥臭く結果に執着する姿勢だった。帰国後、福澤はこう語っていた。

「考え方が逆転しました。以前は、こういう打ち方をしたい、こういう決め方をしたいと、形にこだわりすぎていた。きれいにプレーしようとしすぎていました。でも、きれいに(ブロックを)抜いて打った1本も、無理やり押し込んだ泥臭い1本も、1点は1点。

 まず何がなんでも得点につなげるぞ、というものがあった上で、じゃあそのためにどうするかという考え方になった。監督も、こいつがこういうスパイクを打ったから使おう、とはならないけど、どんな形であれ、こいつが出て点が入った、こいつが出て勝った、となれば使ってもらえるんです」

覚悟を持って、腹を決めて。

 どんなトスが来ようと、それを何とかして得点や味方のチャンスにつなげることが、自分の先にもつながる。その環境が、福澤の進化を促した。

「ギリギリに追い込まれた中で、それをやらないと生き残れない、という意識が、結果的にプレーの幅につながっていったのかもしれません。それをやらないと自分はここで終わるんだ、という一種の覚悟を持って、腹を決めて、コートに入っているので」と言う。

 今年のネーションズリーグでは、得点を決めた後に、チームメイトと胸をぶつけ合って激しく喜びを表すシーンが度々見られた。そんなコート上での感情表現も、ブラジルリーグを経て、自然と出るようになったもの。ブラジルで感じた危機感と、その時、腹に据えた覚悟を、福澤は今も持ち続けているからだ。

「今が大事」という考え方。

「自分の成績次第で次のシーズンの所属先がないかもしれないとか、その1試合の結果によって次から試合に出られなくなるというプロの厳しい世界に身を置いた時、『今まで自分はどれだけぬるま湯につかってたんだろう』と思いました。

 そこに行くまでも、自分の中では常に100%でやっている認識だったけど、いざそこに放り込まれた時に、もっとやらないと生き残れない、逆にまだこれだけやれる余白があったんやなと、当時すごく感じました。やっぱりそこまでやらないと、結果はついてこない。それ以来、先のことよりも何よりも、今が大事だという考え方に変わりました。

 同じチームで長くやり続ける日本の企業スポーツの中で、自分は無意識のうちに、『今年うまくいかなくても来年頑張ろう』というふうに、先を見てプランを練っていたところがどこかにあった。でも海外に出たら、トップでやっている選手にそんな人は誰一人いない。それが世界との差なんだなと感じました。海外では自然と追い込まれる状況があって、当たり前のようにストイックで、だからストレスにも耐性があるんじゃないかなと」

この1本で自分の人生が決まるかも。

 それ以来、福澤は自分で自分にプレッシャーをかけ、自分を追い込み続けている。

「自分の頭の中に常にあるのは、『この1本で自分の人生が決まるかもしれない』、『この1戦で結果が出なければもう自分のバレー人生は終わるかもしれない』ということ。そういうプレッシャーをずっと自分にかけているので、自分の中にある不安を、声を出したり、激しい感情表現をすることによって、吹き飛ばそうとしているところはあります。それをやらないと押しつぶされてしまって、もうコートの上で戦えなくなるから」

 東京五輪が1年後に迫った今、五輪経験者でまだ現役を続けているのは、福澤と清水邦広(パナソニック)、松本慶彦(堺ブレイザーズ)だけだ。ただ、だからと言って、福澤は五輪の経験を他の選手に伝えることが使命だとは捉えていない。

なぜ日の丸を背負って戦うのか。

「最年長だから、オリンピック経験者だから、それをチームに還元することを求められているんじゃないかと僕自身も考えましたけど、でも僕が思うには、人に言われてやることって、そこまで身が入らないんですよ。たとえ僕が経験談から10のことを言ったとしても、それを聞いた人が、10全部自分のものに消化できるかと言ったら、そうじゃない。じゃあ、僕がやるべきことって本当にそこなのか……。

 自分がなぜ日の丸を背負って戦ってるのか、なぜバレーボールをこの年齢でまだ続けてるのか、なぜオリンピックを最後の望みとして、これだけ自分自身を追い込んでいるのかと考えた時に、やっぱり結局は、自分自身の限界がどこにあるのかを知りたいからなんです。だから、僕がやるべきことは、(言葉で伝えるよりも)取り組み方だったり、『オレはこれだけのものをかけてやってるんだ』、『だからお前たちに負けへんぞ』という思いでやり続けていくことかなと思います」

自分の中に“はかり”を置く。

 1年後の東京五輪のコートに立つ自身の姿は、まだ見えていないと言う。

「チームスポーツである以上、必要がないと思われれば弾かれるし、(選考は)自分ではコントロールできないですから。でも自分の限界を超えていくことは、誰に邪魔されることなくやり続けられること。人と比べるんじゃなく、あくまでも自分の中に“はかり”を置いて、そこの限界をちょっとずつ超えていく。そうすることで、気づいたら現在地にたどり着いていた。自分が信じて進んでいる道の先に、オリンピックというものが出てきてくれれば、すごく幸せなことだなと思います」

 プレーの幅、経験、覚悟を身につけ、達観した雰囲気が漂う福澤だが、もちろん課題もある。その1つがサーブである。

優等生からの変貌。

「サーブは自分の中でまだ迷いがある。間違いなくサーブは日本のキーポイントで、柳田、石川、西田(有志)という3本の軸は日本の強み。それが機能した時はトップチームにも引けを取らないパフォーマンスが出せる。だからと言って、今から自分が彼らのようなビッグサーブを打てるかというとそうじゃない。

 まずは、サーブに対するコンプレックスをなくさないと。それが一番邪魔をしてるなと思うので。ゲームの状況や自分のメンタルによって、まだまだ不安定で腹をくくりきれていない部分があって、そこは自分の弱いところ。でもそこが改善されれば、自分のレベルももう一つ進めるんじゃないかなと、ポジティブに考えていきたいと思います」

 以前は優等生という印象だった。大学時代から、何を聞かれても淀みなくスラスラと受け答えをしていたが、想定内の答えが返ってくることが多かった。だが今の福澤からは、予想しない答えが返ってくるし、自分の弱みも語る。33歳の福澤達哉は、人間臭くて面白い。

文=米虫紀子

photograph by Itaru Chiba


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