2007年の高橋由伸とタイプは違えど、1番・亀井善行が勇気を与える理由。

2007年の高橋由伸とタイプは違えど、1番・亀井善行が勇気を与える理由。

「僕にはあんな長打はないですよ」

 巨人・亀井善行外野手は、その言葉にちょっと照れたように首を振った。

 オールスター前の東京ドームでの試合前のことだった。

「1番・亀井は2007年の1番・ヨシノブの姿が被ってしょうがないね」

 そう振ったときの亀井の反応だった。

 2007年。前年に原辰徳監督が3年ぶりに監督復帰したもののリーグ4位に沈み、チームとしても4年連続で優勝を逃した。そこで復帰2年目のシーズンに原辰徳監督が、ペナント奪回の勝負手として打ったのが、開幕からの高橋由伸外野手の1番起用だった。

 高橋はこの年、プロ入り10年目の32歳。中堅からベテランに差し掛かり、脂も乗り切る時期で、その実力からすれば当然、クリーンアップを任されて然るべき選手だった。

 ところが、度重なるケガで満身創痍。'05年には右足首の手術などもあり出場試合は88試合に留まり、翌'06年も守備中のダイビングキャッチによるケガで2度の戦線離脱などもあり、2年連続で規定打席を割る97試合の出場に留まっていた。

 そんな高橋の再生と、チームの活性化のために原監督が選んだ場所が「1番」だったのである。

切り込み隊長、リーダーとして。

 当時は3番に小笠原道大内野手、4番にイ・スンヨプ内野手がいて5番は二岡智宏内野手、プロ7年目の阿部慎之助捕手が主軸打者に駆け上がってくる時期で6番か、二岡の状態次第で5番を打つというオーダーだった。

 そこにケガから戻ってきた高橋をどう組み込むか。7番ではない。現在のように2番最強説もなく2番は「つなぎ役」という考えが主流で、そこには谷佳知という適役がいた。

「体調が万全なら確実に3割を打てる力があり、ガツンとスタンドに放り込める長打力もある。攻撃的に打って出てチームの道を切り開いていくバッティングは切り込み隊長というかチームのリーダーとして打ってつけだ」

 こう評して原監督が選択したのが「1番・ヨシノブ」というオーダーだった。

35本塁打を放って新境地を開拓。

 その期待に応えて高橋もトップバッターとして暴れまくった。

 横浜との開幕戦では1回の打席で初球を右翼スタンドに運ぶ開幕戦先頭打者初球本塁打という離れ業を見せると、7月26日には早くも9本目の先頭打者本塁打を放ってプロ野球新記録も樹立した。

 シーズン終盤には古傷の腰痛によって成績を落としたものの、それでもこの年は1年間を通じて戦線離脱なくプレーし、3年ぶりに規定打席にも到達。リーグ6位の3割8厘を記録すると共に、自己最多の66四球で出塁率は4割4厘、本塁打も35本を放ってOPS.983と新境地を切り開いたのである。

 脂がのりきった中堅からベテラン選手をトップに据えて、チームに勢いをつける――高橋を1番に据えた指揮官の狙いは見事にハマって、その年、チームは5年ぶりにセ・リーグの覇権を手にした訳である。

3年目の亀井が見ていた由伸の姿。

 そのとき亀井はプロ入り3年目だった。

「高橋さんの1番はすごかった。いきなりホームランを打てるし、ヒットもガンガン打って、チームに勇気を与えられるトップバッターでした」

 同じ外野手ということもあり、かつては沖縄自主トレにも同行するなど、亀井にとって高橋は目標であり憧れであった。高橋監督時代の2017年6月18日のロッテ戦では、チャンスで前を打つケーシー・マギー内野手が3度も敬遠される屈辱の中で、3度目の正直でサヨナラホーマーを放つと指揮官の胸で泣き崩れた姿も強く印象に残っている。

 だから――。

「高橋さんの1番が目標なんて全然、考えていません。僕は僕でしかない。僕なりの1番打者になるだけですから」

 亀井が1番打者として考えることは、チームの勝利のために1打席の質をいかに高めるかということだった。

福本豊が話した「ナイスアウト」。

「もちろんヒットを打つことが第1だと思います。初回の打席に先頭バッターがヒットを打つと、チーム全体に『いけるぞ!』というムードも出ますし、勢いがつく」

 四球を含めて出塁率を高めることが、もちろん各打席でのファーストミッションだが、たとえアウトになるときでも、アウトの質をどれだけ高められるかなのだ。

 かつて最強の1番打者として阪急黄金時代を支えた世界の盗塁王・福本豊さんからこんな話を聞いたことがある。

「阪急には『ナイスアウト』って言葉があったんです。僕なんかも1回に粘って、球数投げさせて三振して帰ってきても、西本(幸雄)さんから必ず『ナイスアウト!』って声をかけられたもんですわ。どれだけ粘って球数を投げさすか。いろんな球種を見させられるか。そういう風にアウトの質を高めることが、1番打者の仕事なんですわ」

 たとえアウトになっても、三振しても、初球をポンと打ち上げて凡退してくるのと、フルカウントからファウルで粘って三振してくるのとでは、アウトの質が違うということだ。

亀井はオーソドックスなタイプ。

 高橋は超攻撃的打者で、1番に座った'07年も初球を打ったときの打率は4割4分1厘と高打率を残している。決してボールを見るタイプではなかったが、それだけヒットを打つ能力が高かったから高出塁率を残して、リードオフマンとしての役割を十二分に果たした訳だ。

 ただ、亀井が目指す1番はオーソドックスに、安打と四球で出塁率を高める一方で、凡退するときにも「ナイスアウト」を積み重ねるタイプである。

「追い込まれるとどうしてもヒットを打てる確率も下がってしまうので、そこではいかに相手投手の全球種の球筋を見せられるか。ファウルで粘って球数を投げさせて、相手の持っている球種を使わせる。やっぱりそこが自分の役割だと思っています」

「亀ちゃんはしっかりと仕事を」

 プレーボールがかかっていきなり打席に向かう1番は、準備の時間も少なく、リズムを作るのが難しい打順で、嫌がる選手も多い。

 高橋も後に「1番は好きではなかった」と語っている。

「でも僕は5番を打つより、いまは1番を打たせてもらって良かったかなと思っています。あれだけ得点圏打率が低かったから(笑)。1番で役割を果たせることでチームの力になれますから」

 亀井が本格的に1番に起用されだしたのは5月26日の東京ドームでの広島戦からだった。その試合で3打数2安打1四球を記録してチームも5−4で1点差勝ち。その後は1番で先発した31試合でチームは21勝10敗と首位独走への道を一気に突き進みだしている。

「亀ちゃんはね。しっかりと仕事を果たしてくれている。何より彼が1番で出塁し、相手投手にしっかりと球数を投げさせる姿からチームは勢いというか、勇気をもらっている」

 こう評したのは原監督だ。

「チームに勇気を与えるトップバッター」――ベテランに差し掛かった選手が必死になってチームの先頭に立つ姿に、チームは勇気をもらう。

 タイプは違うかもしれないが、まさにそこが亀井に2007年のヨシノブが被って見える理由なのだろう。

文=鷲田康

photograph by Nanae Suzuki


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