新星扱いに苦しんだ甲子園経験者。スーパー1年生という表現の危険さ。

新星扱いに苦しんだ甲子園経験者。スーパー1年生という表現の危険さ。

 そのフレーズは活躍した1年生すべてに付けられているようだ。

 全国高校野球選手権大会の地区大会が熱気を帯びてきたここ数日、活躍した選手たちが見出しを賑わせる。特にそれが1年生だと、たちまち彼らはこう呼ばれる。

“スーパー1年生”。

 1年生の中でもスーパーな存在。高いパフォーマンスを見せつけ、入学したばかりの逸材にそんなフレーズが付いて回る。

 この夏、1年生の前川右京を4番に抜擢するなど、ベンチに3人の1年生を登録した智弁学園(奈良)の小坂将商監督はこのように語っていた。

「(1年生が注目されるのは)それだけ今いる2、3年生が不甲斐ないっていうことでしょ。前川を4番で抜擢している理由は練習試合で結果を残してきたというのもあるし、将来の4番として期待するのもある」

 小坂監督は1年生の起用に関してはポテンシャルに経験値を加えていく意向だと語っているが、指揮官はそれぞれビジョンを持っているものだ。目先の勝敗だけではなく、個人にとってチームにとって何が大事かを念頭に置いて決断している。

“スーパー1年生”は限られた選手のみ。

 ただ、気がかりなのは、“1年生”というだけでスター選手に祭り上げられることの危険性だ。いわば、伝える側のメディアがどういう見立てで、“スーパー1年生”と書いているかだ。

 高校野球の歴史において2、3年生を凌駕するような1年生が出てくることは少なくない。誰がみてもワクワクする逸材の登場は、競技レベルの高まりを感じさせる喜ばしいものである。

 かつて「桑田・清原」のKKコンビ登場には誰もが驚いた。甲子園で145キロを連発し、ホームランを放った中田翔もそうであろう。大谷翔平は高校1年生での甲子園出場はならなかったが、もし1年夏に甲子園に出場していたら、“スーパー1年生”と呼ばれたはずだ。

 ただ、本当にそう呼ばれるにふさわしいのは限られた選手だけである。

入学当初から“スーパー”だった中田翔。

 この表現が恐ろしいのは、まだ入学したばかりの1年生に過剰なプレッシャーを与えてしまう危険があるからだ。

 注目度が時に無茶な登板を呼び、あるいは、選手のプレースタイルまで大きく変えてしまう。注目を浴びることで適正な育成の階段を踏み外すことが少なくないのだ。

 これまでの取材の中で忘れられない大会の1つに、2005年夏の甲子園がある。

 駒大苫小牧(北海道)の連覇で幕を閉じた第87回大会の甲子園は、優勝投手となった田中将大(ヤンキース)とともに、中田翔(日本ハム)というスター選手を生み出している。

 彼が高校野球の門を叩いた2005年は、入学当初から中田の評判で持ちきりだった。

 大阪府大会を3年ぶりに制覇して甲子園に出場した当時の大阪桐蔭には、辻内崇伸(元巨人)、平田良介(中日)という投打の軸がいたが、中田はこの2人を凌駕する存在だった。甲子園の1回戦・春日部共栄戦では、乱調の辻内に代わって5回途中からマウンドに上がると、140キロ台のストレートを連発。相手打線を抑えて流れを呼びこんだ。打っても、試合終盤に勝ち越しのホームラン。中田はまさに“スーパー”な存在だった。

劇的な本塁打で注目を浴びた美濃一平。

 ただ同じ大会に、中田以外にも注目を浴びた1年生がいたことを覚えているだろうか。

 その代表格が、山形県代表・酒田南の美濃一平という選手だった。

 美濃は入学してまもなくレギュラーの座を掴むと、県大会決勝戦では2本塁打。中でも2本目は9回1点ビハインドの展開から飛び出した起死回生の同点弾で、美濃は瞬く間にスター選手として騒がれるようになった。

 甲子園1回戦の姫路工業戦でも本塁打を放った美濃は、中田らと並び称され「スーパー1年生」と呼ばれるようになった。

中田級の存在ではなかったが……。

 拙著『甲子園という病』の中で、美濃は当時をこう振り返っている。

「ホームランを打った日の夜に『熱闘甲子園』を見ていたら、酒田南の試合があった日なのに中田たちが紹介されていたんです。そしてそのあと、僕のホームランが取り上げられました。その時に初めて中田の存在を知りました。中田も1年なんやなぁって知るきっかけになりました。その後から意識するようになりました。あいつには負けたくない、と」

 美濃には申し訳ないが、当時の中田と美濃のスケールの違いは明らかだった。美濃の上背が170センチを少し超えたくらいと小柄だったこともあるが、投打で圧倒的な才能を見せる中田とは差があったと言わざるを得ない。

 もちろん、1年生ながら甲子園で活躍した彼は素晴らしい選手だし、美濃にポテンシャルを感じなかったわけではない。しかし、スーパーな存在かというと中田と同等とは言えなかった。

 だが、美濃は世間から祭り上げられた。

美濃を苦しめたギャップ。

 結局、美濃は2年生の秋に酒田南を退学した。彼を苦しめたのは、自身の目指すプレースタイルと世間が美濃に寄せる期待とのギャップだった。県大会の決勝から甲子園まで3つの本塁打を立て続けに放ったが、入学以来それまでホームランはなかった。

 その3本による周囲からの視線は、彼に強く影響した。

「周りに意識させられるというか、自分の考えとのギャップがありました。僕は入学した時からプロに行けると思ってはいなかったんですけど、『どこの球団に行きたいの?』とマスコミの方に聞かれると意識してしまいますよね。マスコミの存在は大きかった。自分は注目されていると思っていなくても、周囲から必要以上に意識させられました。

 僕のプレースタイルは甲子園に行っても変わっていなかったんですけど、周りから“すごいバッターだ”と見られているのは感じていました。打って当たり前、みたいな。だから、かっこいいところを見せないといけないと思いながら打席に立っていました。それは僕がやりたい野球ではなかったです」

「高校生は未熟。自覚がなくても意識する」

 まだ精神的に不安定な部分も多い高校生にとって、報道のあり方というのは再考していくべきではないか。

 彼1人の力ではないが、酒田南が甲子園に出場できたのは美濃がいたからであるのは間違いない。ただメディアから大きく取り上げられるようになり、時の人となった「美濃一平」は、自身のプレースタイルを高いところに設定され、それを意識させられることで正気を失った。

 美濃はこうも話している。

「高校生は未熟です。だから『ドラフト1位候補』や『ドラフト候補』と言われると、本人はそれほどの選手だと自覚していなくても意識すると思います。でも、プロに行けるかどうかなんて100%ではないじゃないですか。高校生の話題を増長させる表現を使うのは疑問に思います。

 たとえば『ドラフト候補』と騒いだ人たちは、その対象の選手がプロに行けなかったとして、声をかけてやるのか? 知らん顔じゃないですか。『〇〇選手は絶対にプロに行く』と記事を書いて、それが現実にならなかったとしても、書いた人が責任を取るわけでも、選手たちに声を掛けるわけでもない。責任を取らない大人がそうやって子どもの夢を勝手に大きくして、慢心させる環境は良くないと思う」

言葉の重みを理解して伝える。

 彗星の如く現れるスターの誕生は喜ばしいことだ。伝える側として、ワクワクするような選手は少しでも知ってもらいたいと思う。

 だが、書いている人間がどういうつもりで扱っているのか、その責任は負わなければいけないと思う。だからこそ“スーパー1年生”という言葉の重みを理解して伝えるべきではないか。

 印象度の高いフレーズを使えば、原稿を書く上では楽ができる。物事を冷静に見る必要がなく、その表現がイメージを作ってくれるからだ。しかしメディアは、いやジャーナリストは本来、そうあるべきではない。

今年も200球以上投げた1年生が。

 先日、昨夏準優勝を果たした金足農が秋田県大会の3回戦で敗れた。

“吉田輝星2世”とも呼ばれる1年生投手が、タイブレークまでもつれた延長13回を1人で投げ抜いたそうである。

 その球数は200球を優に超えている。これは異常な数字と言えるだろう。入学して間もない1年生が、いや、数カ月前までは中学生だった選手が200球台ものピッチングを課せられているのだ。

 彼を“スーパー1年生”と書くだけでは、メディアの役割を果たしているとは言えない。高校生に200球を投げさせている現状をどう捉えるかは、ジャーナリストの役割とも言えるはずだ。

 もっとも昨夏、県大会から甲子園の決勝戦の5回まで1人で投げ抜いた吉田の明らかな登板過多を、「金農フィーバー」によってうやむやにしたことが今年の過剰な投球数にもつながっているとも言える。冷静に物事を見ることを怠ってはいけないと改めて思う。

 流行語のように「スーパー1年生」が乱立する2019年夏、新星の登場を喜ぶ一方で、報道の危険を感じずにはいられない。

文=氏原英明

photograph by Kyodo News


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる

あわせて読む

主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る 動画一覧を見る

記事検索