厳しいセッター争いにも折れない心。バレー代表・深津英臣「這い上がる」

厳しいセッター争いにも折れない心。バレー代表・深津英臣「這い上がる」

 限られた時間を「まだ」と取るか。「もう」と取るか。

 東京五輪の開幕まで1年。競泳や飛び込み、レスリング、陸上、柔道など、この夏から秋にかけて開催される世界選手権の結果次第で、東京五輪の出場枠、出場選手が決まる。

 日々少しずつ色濃くなる五輪。

 個人競技のみならず、その場に日本代表として立つためにしのぎを削るのは団体競技の選手も同じだ。

 男子バレーボールはチームとして出場する権利は獲得したが、代表選手としてコートに立てるのは12名。1年、もっといえば1日1日が勝負であるのは言うまでもない。

 その、息が詰まりそうな日々の中、セッター・深津英臣はもがいていた。

石川、柳田らを活かしたセッター深津。

 4年前のワールドカップは5勝6敗で6位という成績以上に、活躍した石川祐希、柳田将洋の人気が沸騰。開幕当初は空席を隠すために張られていた幕がスタンド席から外れ、広島から大阪へ会場を移すと体育館には連日満員の大観衆が押し寄せた。

 もちろんその中心にいたのは若き両エースであるのは確かだが、アイドル的人気のみに限らず、攻めるべき場面で攻め、サーブからチャンスをつくった。世界の強豪と呼ばれるチームとも堂々と渡り合う姿は、久しぶりに「見ていて楽しい男子バレー」だった。

 アタッカーの打点を活かす高さと、ブロックを見て打つ間があるトスを伸びやかに石川や柳田、清水邦広が打ち切り、彼らを活かすべく布石としてミドルブロッカーも効果的に使う。日替わりのヒーローが生まれる理想通りの展開を生み出した立役者は、紛れもなく、セッターの深津だった。

 だが、そこから苦悩の日々が始まった。

新体制で主将を務めるも……。

 あのトス回しは完璧だった。そう称えられれば称えられるほど、なぜあの場面であの選択をしたのか。理由ばかりを考えるようになった。

「遡って高校時代や大学時代を振り返ったら、もしかすると今以上にもっと大胆に、当たり前にできていたことがあったと思うんです。でも戦うレベルが上がって、相手が強くなればなるほど、1つ1つなぜできたのか、できないのか、と考えないと戦えない。自分では同じようにやっているつもりでも、何かが違うんです。

 だから余計に『どうしてあの時はできたんだろう』と考える。悩んで悩んで、それでも答えが見えないけれど、僕はそうやっていくしかないのかな、と思うんです」

 リオ五輪の出場を逃がし、東京五輪へ向けて中垣内祐一監督体制でスタートした2017年。深津は日本代表の主将を務めた。だが、レギュラーセッターを務めたのは藤井直伸。

 パスが返ったところからのコンビ展開を得意とする深津に対し、パスが崩れたところからでも積極的にミドルを使い、バックアタックを絡める展開を得意とする藤井のスタイルが日本代表の目指す戦い方にはマッチしたからだ。

国内三冠に貢献、しかし代表落選。

 ならば結果を出すしかない。並々ならぬ決意のもと、所属するパナソニックパンサーズでは17/18シーズンにVリーグ、天皇杯、黒鷲旗と国内三冠を獲得した。だが、2018年9月にイタリアとブルガリアで開催された世界選手権のメンバーからは外れた。

 日本で結果を出したとはいえ、世界に目を向ければそれがイコールとは限らない。学生時代から多くのタイトルを獲得し、いわばエリート街道を歩んできた男が直面する、大きな壁と、屈辱。

 だが一方で、その現実を素直に受け入れる自分もいた。

「スキルが違うんです。同じコートで練習していても、藤井や関田(誠大)を見ると、『こんなところからそこに上げるのか』と思わされることばかり。俺は同じ状況では無理だ、と負けを認めざるを得ないんです。

 三冠で日本で一番になったんだ、と自信を持っていたつもりだったけれど、個々の能力を見たら、自分はこいつらには勝てないな、と。だから落ちても納得できたし、余計に思いました。『ここから絶対、這い上がってやるぞ』って」

アタッカーを活かすためのトス。

 星城高ではインターハイを制し、東海大学でも日本一を経験。即戦力としてパナソニックに入団した。周囲は、それまでレギュラーセッターを務めた宇佐美大輔から今度は深津に移行するのだろうと思っていたし、深津もその覚悟は持っているつもりだった。

 だが、それは自信ではなく、慢心だったのかもしれない。そう気づかせてくれたのが、同じパナソニックでプレーし、大学時代から日本代表にも選出されてきた清水、福澤達哉の存在だったと深津は言う。

「スパイク練習をしていても、中途半端なトスを上げると打ってくれないんです。とにかく細かく、この場所で取って、ここにこのタイミング、これぐらいの高さで上げてくれ、と要求されて、それを僕がクリアできなければ打ってくれない。でもそれだけこだわりがある分、実際にそのトスが上げられれば、あの2人は確実に絶対決めてくれるんです。

 この2人を活かせなければ絶対コートには立てないし、そのためにどうしたらいいかと考えたら、練習するしかない。とにかく必死で、あの時、清水さんと福澤さんを追いかけて、練習したおかげで今があるんだと心から思います」

中垣内監督も認めた深津のゲームメイク。

 Vリーグでも日本代表でも経験を重ねた今も、その根本に変わりはない。できなければ、ひたすら練習するのみ。なぜ自分が今代表では選ばれないかと考えれば理由は明確で、まずクリアしなければならない課題は勝負所でトスを偏らせず、前衛、後衛を含めたミドルラインの攻撃を展開すること。

 実際に18/19シーズンはとにかくミドルの打数を増やすこと、サイドに偏らずバックアタックも絡めた攻撃展開をつくる意識を持ち続け、練習に時間を割いた。

 その結果、Vリーグで連覇を遂げ、中垣内監督にも「俺を選べ、選んでくれ、と伝わってくるようなゲームメイクだった」と言わしめた。

練習の成果が表れた会心の1本。

 這い上がる、と誓ってから1年。

 日本代表のユニフォームを着て臨んだ6月のネーションズリーグ東京大会、第3戦のイラン戦では会心の1本があった。

 12−16とイランが4点をリードした第1セット、深津は関田に代わってコートへ入った。自身のサービスエースを含めた連続得点で猛追、19−21の終盤だった。

 大竹壱青のサーブからイランの攻撃を切り返し、チャンスボールが日本へ。決して万全の状態ではなく、走ってアタックラインの付近で2本目をつなげた深津は、すぐ横で助走に入って来た石川のバックアタックを選択した。

 それは偶然ではなく満を持したものであり、練習中に石川から「(シエナで共にプレーしたイラン代表セッターの)マルーフは離れた位置からでもバンバン上げてきたので、僕も入るから、オミさんもどんどん使って下さい」と言われ、スパイク練習やゲーム形式の練習を通して何度も試してきた結果だった。

 迷わず上げ、完璧なタイミングで石川が打ち抜く。

 その1本は、ルーキーの頃と同様に「うまくなりたい、試合に出たい」という一心で自分と向き合い、ひたすら練習を重ねた成果だった。

 たった1点ではあるが、大きな自信につながる1点をつかみ、ようやく、ここから――。

 そう思えるきっかけになるはずだった。

チャンスを生かせず、関田と交代。

 だが、深津はその大きなチャンスを活かしきることができずに大会を終えた。

 スタートからコートに入った第2セット。自身のサーブで相手守備を崩し、ミドルの李博、オポジットの西田有志、ほぼ全員が攻撃に参加できる絶好の状況であったにも関わらず、レフトの石川に上げたトスは短く、上がる前から石川サイドに寄っていたイランのブロックに止められる。19−21の終盤にも、同じように西田のサーブで崩したところで福澤が止められ、ブロックポイントを献上。その後、再びコートには関田が投入された。

 自らのサーブで崩した西田が、帰って来たチャンスボールを高く上げ、万全の状態で助走に入っていた。もしもあそこで西田に上がっていたら、結果も変わっていたのではないか。たら、れば、を言い出せばキリがないとわかっていても、そう思わずにいられない。

 誰よりその重さを噛みしめていたのが深津だった。

「ここで決めてほしい、決めさせたい、という思いもあるけれど、それだけじゃ世界とは戦えない。まず技術をつけないといけないし、何より、試合に出るチャンスがあった中で結果が出せなかったこと。負けたことが悔しいです」

「バレーボールを愛しています」

 東京五輪まで、もう1年しかない。

 東京大会の翌週から外れた深津の代わりに合流した藤井が関田と共にネーションズリーグでトスを上げ、両者共に一定の成績を残し、結果で証明して見せた。10月のワールドカップでおそらくセッターとしてコートに立つであろう2人に、異論を唱える声は少ないはずだ。

 目指すべき場所は遠く、その道のりは厳しい。それが深津の現実だ。

 でも、それでも願うのはなぜだろう。ここから這い上がれ、と。

 目指すべき場所から今は遠く、その道のりは厳しいとわかっていても、その1本に心が伝わる。そんな選手はそういないからだ。

 愚直で諦めが悪く、もがき苦しんで、カッコ悪くても。勝ち続けた時も、日本を背負う苦しさを一身に背負ったあの頃も同じ。

「僕はバレーボールを愛しています。もう、その一言に尽きるんです」

 そうだった。言わずとも、思っているはずだ。誰よりも、ここから這い上がる――と。

文=田中夕子

photograph by Itaru Chiba


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