愛すべき貴公子トーレスの名ゴール。イニエスタ、ビジャとラストダンス。

愛すべき貴公子トーレスの名ゴール。イニエスタ、ビジャとラストダンス。

 フェルナンド・トーレスほど「記憶に残る」タイプの点取り屋は、そうそういないと思う。

 金髪の長髪で、そばかすもキュートに感じるイケメンぶり。その俊足で相手最終ライン裏に抜け出し、ジェラードやシャビ・アロンソのパス1発からゴールを仕留める。そんな鮮烈さの一方で、ゴールの女神から見放され、哀愁を漂わせる時期もあった。

 点を獲ればヒーロー、獲れなければ戦犯扱い。ストライカーの宿命を、これほどまでに体現したワールドクラスもいないのではないか。

 そんなトーレスが今シーズン途中での引退を決断した。

トーレスが愛された理由。

 Jリーグを戦いの場に選んだのは2018年夏のこと。サガン鳥栖ではケガの影響などもあって2018シーズンはリーグ戦17試合3ゴール、2019シーズンは16試合2ゴール。本人も引退会見で「自分のベストなレベルに達していないのではないか」と話しており、35歳での幕引きを決断したのだろう。

 それでも「ベストなレベル」のトーレスは本当に凄かった。

 実績を見てもスペイン代表通算38得点は歴代3位。リーガとプレミアという世界最高峰リーグで2ケタ得点をコンスタントに獲っていたのだから、超一流のストライカーだったのは間違いない。

 でもトーレスが多くのサッカーファンに愛されたのは、ゴール数以上に「そんな体勢で叩き込めるの?」「このタイミングで決めちゃうの!?」といった感じで、やたらインパクトに残るゴラッソが多かったからだと思う。

 引退が迫るこのタイミングで、アトレティコ・マドリーやスペイン代表、リバプール、チェルシーで決めたスーパーゴールをいくつか思い出してみよう。

カシージャスの牙城を破ったゴール。

アトレティコ時代(第1期)
2007年2月24日/レアル・マドリー戦

 今ではアトレティコはディエゴ・シメオネ監督のもと、バルサ、レアル・マドリーに肉薄する3強となっている。しかしトーレスがトップチームに昇格した21世紀初頭は2部にいたほど低迷していた。

 同都市のレアルとはライバルと言えないほどの差があり、トーレスの所属時にアトレティコは一度もダービーに勝てず、トーレスもゴールを奪えなかった。しかし自身にとって、ひとまず最後のダービーとなった試合で、トーレスは右サイドのクロスを鮮やかにトラップし、GKカシージャスの牙城を破った。これにはかつての本拠地ビセンテ・カルデロンが沸かないわけがなかった。

 ちなみにトーレスは2002-03シーズンから'06-07シーズンまですべてリーガで2ケタ得点をマークしている。これだけの結果を残せば、クラブのアイドルになるのも納得である。

EURO制覇を決めたチップキック。

スペイン代表時代
2008年6月29日/EURO2008決勝ドイツ戦

 かつてのスペインは、強い強いと言われるけど評判倒れの繰り返し。それを払拭したのは2008年のユーロだった。「クワトロ・フゴネス(4人の創造者)」と評されたイニエスタ、シャビ、セスク、ダビド・シルバの華麗な中盤のパスワーク。そして仕上げ役を担ったのはビジャとトーレスだった。

 得点王に輝いたのは計4ゴールのビジャだったが、準決勝ロシア戦で負傷して決勝は欠場。そんなピンチに大仕事をしたのはトーレス。シャビの心憎いほど正確なスルーパスに反応し、相手DFラームを一瞬で出し抜くと、飛び出してきたGKレーマンを見極めたチップキックで勝負あり。トーレス、そしてスペインらしさを凝縮させたゴールで、1−0勝利の立役者となった。

 2008年のトーレスはリバプールも含めて抜群の勝負強さを発揮。バロンドールではロナウド、メッシに次ぐ3位と、2人に比肩する実力だったのだ。

代名詞となった右足ボレー。

リバプール時代
2009年4月11日/ブラックバーン戦

 リバプールのクラブ公式YouTubeが配信した「トーレスのトップ10ゴール」動画の中で、栄えある1位に選ばれているシュートである。最終ラインやや右から来たロングボールを胸トラップで受けると、マーカー2人もまったく寄せ付けず右足ボレー。ファーサイドのゴールネットを撃ち抜いた。

 シーン描写だけではなかなか伝わらないのが惜しいが、最終ライン裏に抜け出すトップスピード、胸トラップからのターン、そしてシュートに持ち込むスピーディーさは躍動感にあふれている。またシュートを放つまでのモーションで、ゴールに視線を送った様子が見当たらないのが末恐ろしい。

 そんな才能を毎回のように見せつけ、アンフィールドの英雄となったのだ。

 ちなみにこの前のシーズン、トーレスはリーグ戦24ゴール、CLで6ゴール。文字通りスーパーエースだった。

チェルシーではクラブ初のCL制覇に貢献。

チェルシー時代
2012年4月24日/CL準決勝バルセロナ戦

 トーレスファンにとってみれば、チェルシーは暗黒時代だろう。リバプールから巨額の移籍金で加入したものの、在籍4シーズンでいずれもリーグ戦2ケタ得点を挙げることはできず、イージーに見える決定機を外して大バッシングを受けた時期もあったからだ。

 ただし、クラブにとって初となるCL制覇は、トーレスなしでは実現しなかったかもしれない。バルセロナとの準決勝、ホームでの1stレグを1−0で勝利していたチェルシーだったが、アウェーでの2ndレグでブスケッツに先制ゴールを浴び、主将テリーが退場、イニエスタに合計スコアを逆転されるゴールを食らう。

 まさしく逆境のチェルシーだったが、前半終了間際にラミレスのゴールで貴重なアウェーゴールを奪った。もう1点が欲しいバルサのポゼッション地獄を必死で耐えきると後半アディショナルタイム、途中出場のトーレスが、カウンターでゴールを難なく陥れたのだ。

 約10万人が詰めかけた敵地カンプノウが完璧に諦め、チェルシーがビッグイヤー獲得へ大きく踏み出した瞬間だった。ある意味“空気を読まない”一撃を決められるのも、トーレスらしさだったのだと思う。

チームメイトも驚いたセルタ戦。

アトレティコ時代(第2期)
2017年2月12日/セルタ戦

 チェルシー、ミランでの苦悩を経て、トーレスは2014-15シーズンにアトレティコに復帰した。ただしかつてのエース扱いとは違い、グリーズマン、マンジュキッチ、ジエゴ・コスタらがそろう前線のバックアッパー的存在になっていた。

 それでも2015-16シーズンにはリーガで11得点を奪うなど、シメオネ監督の下で再生。そしてゴールへの嗅覚が衰えてないのを証明したのは、2017年のセルタ戦だった。

 左サイドのカラスコからのパスを受けたトーレス。この時点でゴールとGKの位置はまったく見えておらず、マーカーも背負っていた。しかしトーレスはボールをわざと浮かせて、ポンと蹴り上げる。するとボールは絵に描いたような弧を描き、ゴール右隅へキレイに収まった。

 現地の『マルカ』、『AS』紙にも「キャリア最高のゴールじゃないか?」と言わしめたゴラッソ。セルタ守備陣だけでなく、トーレスを祝福に来たチームメートも「マジかよ」という表情を浮かべていたのは、ファンにとっては痛快だろう。

ラストダンスは盟友たちと競演。

 トーレスの実績を細密に振り返った時、イニエスタのタイトル数、ビジャのゴール数には及ばないかもしれない。

 しかし「ああ、あのシュートはシビれたよね」と各クラブのファンが語りたくなるゴールがあるのは、トーレス自身が“持っている”からこそだ。

 8月23日、彼にとっての引退試合の相手はイニエスタ、ビジャらが所属するヴィッセル神戸戦である。かつての盟友と対峙し、有終の美を飾るゴールを決めてくれるか——。きっとトーレスなら、何かを起こしてくれるはずである。

文=茂野聡士

photograph by Getty Images


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