「僕に柏からオファーが来るなんて」“代役”川口尚紀が掴み始めた自信。

「僕に柏からオファーが来るなんて」“代役”川口尚紀が掴み始めた自信。

 J2第29節FC岐阜vs.柏レイソル。この一戦で柏は岐阜を4−0で下し、破竹の11連勝を飾った。

 この試合の先制ゴールとなったのが、7分のクリスティアーノの強烈なミドルシュートだ。そのシュートの凄さゆえに、このゴールシーンばかりが注目されるが、そのクリスティアーノにラストパスを送ったのは7月31日に新加入したばかりのDF川口尚紀。このプレーは彼が柏に来て初めて決めた「アシスト」だった。

「ようやく点に絡むことができたと思います。あれはクリスのスーパーゴールだけど、クリスにボールを繋げるまで、自分の意図通りにプレーできました。それは本当に嬉しかった」

 柏に加入後、4試合連続で右サイドバックとしてスタメン出場した川口は、常に自身の前方にいるクリスティアーノの動きに目を光らせていた。

エースに繋げたインターセプト。

 ゴールシーン、川口はまずクリスティアーノが相手の左サイドバックにプレスにいく姿を捉える。次の瞬間、ボールを受けに下がった岐阜MF塚川孝輝と、それにプレスにいく柏のFW江坂任の動きを見た。

「落ちてきたボランチの塚川選手にパスが出ると思ったので視線を送ったら、塚川選手がチラッと僕がいるサイドを見た。その視線の先に岐阜の馬場(賢治)選手がいたので、(塚川は)馬場選手に縦パスを出してくると確信した」

 塚川がダイレクトで馬場に縦パスを送ったのを見て猛ダッシュをすると、「スライディングで飛び込めば間に合うと思ったし、最初にパスを出した選手が前に出てきていたので、クリスが完全にフリーだった。スライディングしてダイレクトでクリスに出せばチャンスになると思った」と、インターセプトのボールをクリスティアーノの足元にピタリと預けた。

「一連のプレーで一切の躊躇はなかったです。でも、あんなすごいシュートが決まるとは思っていなかった(笑)」

 確かにクリスティアーノのシュートはとてつもないゴールだった。だが、完全にフリーで前向きにボールを受けることができたからこそ、落ち着いてシュートを狙うことができたのだ。

ようやく表情が明るくなった。

 その後も終始攻守においてバランスを取りながら、献身的なプレーを見せた川口だったが、53分に接触プレーで左の肋骨部分を負傷。MF田中陸との交代を余儀なくされた。

「こっちにきて初めて点に絡むことができて、ちょっとホッとしているし、嬉しかったです。まだミスも多いし、守備のところで後手を踏むことが多かったけど、加入した直後と比べたら絶対に良くなっている感触はあります。CB2枚とタニさん(ボランチの大谷秀和)が安定しているので、ようやくクリスと2人で連携ができるようになってきましたし、手応えは感じています」

 試合後のミックスゾーン、川口は左の肋骨付近を気にしながらも安堵の表情を浮かべていた。その表情は加入2試合目だった第27節レノファ山口戦後のミックスゾーンでの曇った表情とはまったく違っていた。

本人も驚いた突然のオファー。

 彼にとって、今回の移籍はまさに突然の出来事だった。

 新潟県に生まれ育ち、アルビレックス新潟の下部組織で過ごしてきた川口は、2013年にトップ昇格をすると、'16年に清水エスパルス(当時J2)への1年間の期限付き移籍を経て、'17年からは再び新潟の一員として戦っていた。

 今季は新潟で右サイドバックとして開幕スタメンを掴み、第16節ヴァンフォーレ甲府戦まで連続出場、そのうち15試合はフル出場だった。しかし、13節から16節までチームが4連敗を喫したことも影響してか、次節以降は出番がなくなり、ベンチ外が続いていた。

「はっきり言ってしまえば、『2段階落ち』だったので相当悔しかったし、このまま自分が落ちていってしまうのが嫌だった。レギュラーに戻るためにもう1度自分の良さを見つめ直しながら、試合勘だけは落とさないように意識して練習していた」

 そんな中、突如首位争いをしている柏から自分にオファーが来た。新潟が4−0で快勝した第24節FC琉球戦をスタンドで見つめていた翌日にこの知らせが届いた。

「正直、めちゃくちゃ驚きました。まさか僕にレイソルからオファーが来るなんて思ってもみなかったですから」

小池の海外移籍で得たチャンス。

 当時、6連勝を飾っていた柏にとって、右サイドバックの補強は急務だった。以前から噂をされていた不動の右サイドバック小池龍太の海外移籍が現実味を帯びたからだった(7月30日にベルギー2部リーグのロケレンへの完全移籍が発表)。

「(驚きと)同時に嬉しいオファーでした。この状況でありながら、僕を見てくれて、評価してくれたことが本当に嬉しかった。もちろん新潟で生まれ育った人間として、多くの人にお世話になった分、レギュラーを取り返したい気持ちはありましたが、新たな環境でやることでもっとレベルアップできると思ったし、何よりレイソルという日本では有数のクラブでやれることに大きな意義を感じた。

 レイソルは今はJ2ですが、戦力的にはJ1と遜色ないクラブだと思っているので、僕もここで上を目指したいと思えた」

比較されることはわかっている。

 当然、単に柏だから飛びついたわけではない。今回の移籍が持つ意味の重さは重々に理解をしていた。周りからは「小池龍太の代役」として見られ、それ相応の活躍ができなかったら、「獲らない方が良かった」という烙印を押されるリスクもある。それを川口は承知の上で移籍する覚悟を決めた。

「小池選手と言えば、Jリーグの右サイドバックといえばと聞かれたら、すぐに名前が浮かぶ選手。攻撃面ではスピード、タイミングが非常に良い。クサビのボールの質が非常に高くて、伊東純也選手やクリスティアーノとの連携でサイドを制圧していたイメージ。その穴を埋めるために僕が呼ばれたわけですから、周りは小池選手の尺度で僕を見る。

 僕は小池選手とはタイプも違うし、すべて重ね合わせる必要はないとは思っているけど、相当な覚悟を持って移籍をしないとダメなことはわかっていました。

 前回、清水に移籍をした時は『ここで成長する』というか、『試合に出続けて、経験を積む』という感覚でした。でも、今回は違う。『プロサッカー選手を続けていく上で、ここでダメだったら個人としても上に行けない』という強烈な危機感を持ってここに来ました」

いきなりスタメン、ぶっつけ本番。

 オファーから翌々日の7月30日に柏へ期限付き移籍が発表されると、8月4日の第26節のホーム、琉球戦でいきなり右サイドバックのスタメンとして出場をした。

「柏での練習は3回しかしていないし、試合に出ている組との練習は前日のセットプレーの練習のみでした。なので、スタメン起用は驚きました。ぶっつけ本番状態で、右も左も約束事も、スタジアムの雰囲気も分からない中で、模索しながらプレーしました。

 いっぱいいっぱいでしたが、試合後にネルシーニョ監督が『相手のクサビに対して強く行けていなかった』とか、『攻撃面での立ち位置はもっとこうした方がいい』とこのチームでのプレーにおける課題を指摘してくれた。そこで自分でも映像を見直して、頭の中を整理した」

 続く山口戦、彼はさらに模索しながらのプレーが続き、連携面でのズレも見られたため、58分でDF宮本駿晃との交代を余儀なくされた。前述した通りミックスゾーンでの表情は少し暗かった。

「まだクリスを活かしきれていない。クリスは間違いなく今のチームの得点源で、攻めるのが好きな選手だし、彼が高い位置でプレーすることで効力を発揮するというのがチームの共通認識。だからこそ、その背後にいる僕が常に彼の位置を視野に入れながら、サポートや時には攻撃に絡む動きをしないといけない。

 特にカウンターには気をつけていて、相手はクリスの裏のスペースを狙ってくるからこそ、自分のポジショニングが悪ければやられてしまう。常に頭を働かせて『やるべきこと』を探りながらプレーをしています」

 このバランス感覚をピッチで表現することは、言葉で表すよりも遥かに難しいことだろう。

“持ち味”よりも、まずは“規律”。

 もともと川口の持ち味はスピードに乗ったオーバーラップとクロスの精度の高さ。それに加えて戻りながらの守備も上手い。自分の良さを発揮することに集中したいが、加入間もなく試合に起用されたことで、チームの戦術、戦略と自分の持ち味をアジャストする時間がまったくなかった。

 それゆえにどちらを優先するかの葛藤は生まれたが、機転が利く川口はあくまでチームの規律を崩さないプレーを選択。戦術、戦略を自分の身体に染み込ませていく作業を選んだのだ。

 だからこそ、彼は4試合連続でスタメンを張り、第28節V・ファーレン長崎戦でフル出場、岐阜戦で初アシストをマークし、11連勝に貢献することができているのだ。

「正直、『自分が入って連勝が止まったらどうしよう』という気持ちは物凄くありました。まだまだミスはたくさんありますが、やっと徐々にチームに入れてきたというか、自分の中でも狙いを持ったプレーを成功できるようになってきて、手応えを得られるようになってきました」

「代役」と言わせない貢献を。

 まだまだ「小池龍太」の残像は残る。これは今季、消えることはないだろう。彼が真に柏サポーターに認められるには、小池の残像を消すような活躍をしないといけないし、「川口尚紀」という1人のサッカープレーヤーの持てる力を出しきり、新たな右サイドバック像を築かないといけない。

「僕は小池選手の代役であることは間違いないですが、やっぱりはっきりとは言われたくない。でも、自分が悪いプレーをしていたら、言われても仕方がないことは分かっているので、言わせないようにこれからチームに貢献する。そして、右サイドバックの川口尚紀をもっと知ってもらいたいです」

 すべてを承知の上で川口は黄色のユニフォームを身に纏った。

 次節の古巣、新潟戦は契約上、出場することができないが、次のホームで迎えるモンテディオ山形戦に向けて、コンディションと頭をさらに整理している。

 柏の一員として、右サイドでさらに躍動する自分の姿を思い描いていた。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando


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