ラグビー代表と1997年のサッカー。競技の命運を背負う、という共通点。

ラグビー代表と1997年のサッカー。競技の命運を背負う、という共通点。

 ラグビーW杯に挑む日本代表に、1997年のサッカー日本代表が重なる。

 自国開催のW杯に臨むチームとしてなら、'97年ではなく2002年の日本代表では、と思う方がいるかもしれない。チームが置かれた立場としては、そのとおりだろう。

 個人的に共通点を見つけるのは、チームのメンタリティである。

 '97年のサッカー日本代表は、翌'98年に開催されるフランスW杯アジア予選を戦った。オマーン、マカオ、ネパールと対戦した1次予選は難なくクリアしたが、9月開幕の最終予選ではジェットコースターに乗っているかのような日々を過ごしていく。

 ウズベキスタンとの初戦に6−3で勝利し、第2戦は敵地アブダビでUAEと勝点1を分け合う。ここまでは、用意したシナリオどおりだった。

2カ月の集中開催、ダメージは甚大。

 ところが、韓国との第3戦で景色は暗転する。山口素弘の芸術的なループシュートで先制するも、80分以降に連続して被弾し逆転負けを喫した。

 中央アジアへ遠征した第4戦でも、格下のカザフスタンと1−1で引き分けた。ロスタイムの失点は韓国戦の再生映像のようで、試合後には加茂周監督が更迭される。

 指揮官交代という劇薬も、結果には結びつかない。1週間後のウズベキスタン戦、ホームへ戻ったUAE戦は、どちらも1−1の引き分けに終わってしまう。

 アジア最終予選は5カ国によるホーム&アウェイで争われ、首位チームが出場権を獲得し、2位チームは別グループとの第3代表決定戦に臨む。UAE戦まで6試合を終えた段階で、日本は韓国の首位通過を許し、自力での第3代表決定戦の可能性をも失った。

 当時の最終予選は、およそ2カ月間の集中開催だった。移動を繰り返しながら戦ってきたことで、疲労は確実に蓄積している。何よりもここまでの戦いで、選手たちはメンタル的に強烈なダメージを被っていた。

Jリーグの人気も落ちてきていた。

 それでも、諦めの言葉を口にする選手はいなかった。

 '98年の次のW杯は、日本と韓国の共同開催で行われることが決まっている。過去にホストを務めた国は、漏れなく出場経験を持っていた。フランスW杯出場を逃すようなことがあれば、'94年までに4度出場している韓国との違いが浮き彫りになる。国際的な信用を失ってしまう。

 Jリーグの足元も揺らいでいた。'93年の開幕初年度は1試合平均で約1万8000人の観客を動員し、翌'94年は1万9500人を超えたものの、'96年には約1万3500人まで減少する。'96年夏のアトランタ五輪で沸騰した熱も、同年末のアジアカップで日本代表が連覇を逃したことで鎮火されてしまった。国内の盛り上がりを取り戻すためにも、代表チームはフランスへ辿り着かなければならなかった。

 個人的な野心に駆られるわけでなく、日本サッカーのためにひたむきに戦う選手たちのメンタリティは、絶体絶命の窮地から這い上がるエネルギーとなっていく。

 UAEとのドローゲームから1週間後、岡田武史監督が率いるチームは敵地ソウルで韓国を下す。続くカザフスタン戦にも勝利して2位に滑り込み、イランとの第3代表決定戦で初出場を勝ち取ったのだった。

ラグビー代表が背負う競技の命運。

 ジェイミー・ジョセフのもとに集う選手たちも、ラグビー界の未来を見据えている。

 4年前のW杯で強豪の南アフリカを撃破し、史上初の3勝をあげたことで、ラグビーはメディアに大きく取り上げられた。W杯後に行われた2015-'16シーズンのトップリーグは、1開催平均で過去最高の観客動員を記録した。

 ところが、翌シーズンにはおよそ1400人も減った。平均値は'15年以前より高い水準を保っているものの、南アフリカ戦が巻き起こした熱はラグビーがこの国に根付くことにつながらなかった。

ラグビーW杯の盛り上がりは正直控えめ。

 '15年以降の4年間で、国内のスポーツ環境も変わっている。'16年に開幕したバスケットボールのBリーグは、シーズンを重ねるごとに熱狂の度合いを増している。'18年には卓球のTリーグもスタートした。プロ野球やJリーグも含めて、スポーツ観戦の選択肢は広がりを見せている。

 ラグビーW杯の認知度は、7割を超えたとのデータがある。開催都市や出場国のキャンプ地では、期待と興奮が高まっているのだろう。しかし、全国的な盛り上がりはかなり控え目と言っていい。

 9月20日の開幕戦でロシアに勝てば、一気に盛り上がるという声は聞こえている。9月6日の南アフリカとのテストマッチに勝てば、開幕を待たずに火が付くのでは、との見立てもある。

 では、南アフリカに敗れたら? ラグビー関係者は冷静に受け止めても、一般的な期待値は下がってしまうかもしれない。

 昨年11月のテストマッチで勝利したロシアを退けても、プール戦と呼ばれるグループリーグでは世界ランキング4位のアイルランド、同7位のスコットランドが待ち受けている。

 準々決勝へ進出できる2位以内を、最終的に逃したら?

 南アフリカを撃破した4年前でさえも、ラグビーへの注目度は持続力を保てなかったのだ。野球やサッカーの背中は遠のき、バスケットに迫ることも難しいだろう。

「本当にラグビーだけのために純粋な気持ちで」

 だからこそ、ラグビー日本代表は史上初のベスト8入りをノルマとするのだ。自国開催のW杯は黄金の好機であり、日本ラグビー界が変わるラストチャンスとも言うことができる。

「代表でプレーしている選手たちは、本当にラグビーだけのために純粋な気持ちでやっています。ジャージに対する誇り、そしてワールドカップで日本を代表して戦うという気持ちが、非常に大きな力になると思っています」

 31人のメンバーを発表した記者会見で、ジェイミー・ジョセフHCはこう話した。ジャージを身にまとう誇りはラグビー界の未来を背負う責任感と使命感を呼び覚まし、選手たちの支えとなっているのだ。

ラグビーをこの国に根付かせるベスト8。

 '98年のフランスW杯に出場したサッカー日本代表は、グループリーグで敗退した。それでも、世界の舞台に立った経験は4年後への財産となり、2002年の日韓W杯でのベスト16入りにつながっていく。

 2002年だけではない。W杯で勝利する代表チームをスタジアムで、テレビで観た少年たちは、W杯で勝ち上がることを当たり前の現実としてとらえていった。

 浮き沈みを経験しつつもサッカーが人々の日常に溶け込んでいったのは、'97年の日本代表の戦いがあったからである。

 2019年のラグビーW杯で、ジェイミー・ジョセフとその仲間たちがベスト8入りを果たしたら──。

 ラグビーに興味のなかった人たちの眼を、楕円球に惹きつける大きなきっかけとなるはずだ。所属クラブに戻った選手たちは、W杯の結果に恥じないプレーを見せるだろう。それがまた新たなファンの獲得につながり、競技人口の拡大にも結び付いていくに違いない。

 W杯での8強入りによって、ラグビーがこの国に根づくための種が蒔かれていくのだ。

文=戸塚啓

photograph by Getty Images


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