18歳、遠藤保仁デビュー戦の真実。中村俊輔の共感、岡山一成の嫉妬。

18歳、遠藤保仁デビュー戦の真実。中村俊輔の共感、岡山一成の嫉妬。

 三ツ沢とヤット。

 1964年の東京五輪においてサッカーの会場として使用された伝統あるスタジアムの味も手伝ってか、何だか21年前にタイムスリップしたようなちょっと不思議な感覚に襲われた。

 ホームの三ツ沢でプレーしていた横浜フリューゲルスのルーキー時代は18歳。そして今は39歳。時を経ても、抑揚とテンポの攻撃転調は遠藤保仁から発信されていく。

 8月31日、横浜F・マリノスとガンバ大阪の一戦。0−2で迎えた後半13分にピッチに入ると、小野瀬康介とのパス交換からゴールが生まれた。左サイドでフリーとなっていたアデミウソンへのロングパス、相手の背後に飛び出してからのクロスと立て続けに彼のキックがチャンスをもたらした。

 記者席で観戦するフリューゲルス時代の先輩、波戸康広(現在はF・マリノスのアンバサダー、解説者)も「ヤットはうまいし、見ているし、(状況を)分かっている」とうなっていた。

レジェンドと肩を並べる数字。

 彼は今夏、前人未踏の記録にたどり着いた。

 8月2日のヴィッセル神戸戦で日本人選手初となる公式戦通算1000試合出場を達成した。J1で621試合、リーグカップ72試合、天皇杯48試合、ACL58試合、J2で33試合、A代表152試合、その他16試合。1998年、横浜フリューゲルスに入団して以来1年平均45試合以上のペースでこなしてきた。世界に目を移してもパオロ・マルディーニ、ライアン・ギグス、シャビ、ハビエル・サネッティら一握りのレジェンドしか達成していない。

 この日のF・マリノス戦で1003試合目。遠藤のプレーを眺めながら、ふと隣にいる波戸にキャリアの出発点となるJリーグのデビュー戦について聞いてみたくなった。

観衆5万人のJデビュー戦。

「あのときは三ツ沢じゃなかったんですよね。横浜国際総合競技場(日産スタジアム)のこけら落とし(Jリーグオープニングゲーム)で、フリューゲルスもあの年、結構試合やったんです。開幕がマリノスとの横浜ダービー。5万人以上のお客さんが入ったんですよね。すごい盛り上がりのなか、ヤットも先発で出たんですよ」

 そうだ。ヨココクだ。遠藤はあの日、大観衆の中で涼しい顔でプレーしていた。普通、18歳ルーキーのデビューなら後半途中でお役御免となるのが一般的だが、延長Vゴールで勝利するまでピッチに立っていた。振り返ってみれば、ファーストゲームから鉄人のにおいを漂わせていたのだった。

 1998年3月21日、Jリーグ開幕の横浜ダービーマッチ。

 それまでもマリノスとフリューゲルスのサポーターであふれる人気カードであった。完成したばかりの横浜国際には5万2000人強が詰めかけた。

 バルセロナのOBで引退後もトップチームのコーチを務めたフリューゲルスの新監督、カルロス・レシャックは高校を卒業して間もない遠藤とFWの大島秀夫の2人を先発に送り出した。

「楽しんでプレーできていましたね」

 遠藤本人にデビュー戦のことを聞いたことがある。

「Jリーグを経験している監督なら僕のこと、使ってなかったでしょうね。レシャックさんは初めてJリーグに来たわけだし、たまたま監督のサッカー観に僕が合ったという感じじゃないですかね。

 あの試合、確か花火とかも上がったんですよ。すべてが初めての経験なので新鮮で、“Jリーグってすげえな”っていう感覚だけでしたね。マリノスには井原(正巳)さん、小村(徳男)さん、(川口)能活さん、シュン(中村俊輔)、(フリオ・)サリナス……みんな代表や代表クラスでしたから、頑張ろうって思った記憶はありますよ。レシャックさんからも確か『好きなようにやれ』みたいなことを言われていたと思うし、プレッシャーみたいなものも感じなかった。楽しんでプレーできていましたね」

18歳の頃からバタつかないヤット。

 この発言からも、開幕スタメンデビューだからと言って肩の力が入っていなかったことは伝わってくる。ならば周りはどう見ていたのか。3-4-3のウイングで起用されていた波戸は、右MFに入るルーキーとの連係を一切、心配していなかったという。

「レシャックさんは攻撃のリズムというものを凄く大切にしていた人で、パスサッカーを志向するにあたってヤットの能力は最初から高く買っていたと思います。20年以上前のことなので細かく覚えているわけではないけど、ヤットが後ろでキープしてくれるから、僕はとにかくやりやすかったなっていう記憶がありますね。みんなとのつなぎ役というものをやっていました」

 この試合、フリューゲルスの永井秀樹が前半に先制ゴールを挙げ、後半開始早々、サリナスに同点ゴールを決められた。1−1で延長戦に突入し、波戸と交代して入った佐藤一樹が三浦淳宏(現・淳寛)からのクロスに合わせて延長Vゴールを決めている。

 今季から京都サンガのコーチを務める佐藤に、この試合について尋ねたことがあった。昔の取材ノートを引っ張り出してみると、遠藤についての言及もあった。

「レシャック監督になって間もないし、戦術的にも完成していない状態。マリノスには井原さんはじめビッグネームがそろっていて、対するフリューゲルスは18歳のルーキーを2人先発させているわけですから、大崩れもあるんじゃないかっていう怖さもありました。でも蓋を開けたら互角に戦えたし、ヤットは肝っ玉が据わっていましたね。技術がしっかりしているし、バタつくこともなかった。まあ、ヤットがバタつくことなんて結局見たことないですけど(笑)」

裏表がなく、壁をつくらない。

 デビューなのに、もう何年間もここでプレーしているような落ち着き。なぜ、それができるのか。頭に浮かんだ疑問を波戸にぶつけると、彼はハハハと笑って言葉を続けた。

「ヤットって、ピッチ内でもピッチ外でも壁をつくらないんですよ。裏表がないし、何があってもマイペース。それって今思うと、凄いことだと思うんですよ。僕のほうが3つ上。ヤットもチームの寮に住んでいたんで、よくトランプ遊びをやってましたね。アイツ、メチャクチャ強いんですよ!」

松田も俊輔も、みんなが褒める。

 裏表のない愛されキャラという話は、あの横浜ダービーの終盤に出場したマリノスの岡山一成(現在はJFL、鈴鹿アンリミテッドコーチ)にも聞いたことがあった。

 学年は岡山のほうが1つ上。パーソナルトレーニングのつながりで遠藤のことは入団当初から知っていた。最初「嫌い」だったそうだ。

「いやいや、古い考え方かもしれないですけどね、マリノスの選手がライバルのフリューゲルスの選手と仲良くするってことにちょっと抵抗があったわけですよ。それに俊輔も、マツさん(松田直樹)もみんなヤットを褒めるんです。“凄いよなあ”って。俺、マツさんに褒められたこと一度もないし、俊輔なんて俺と話をするときはサッカーの話なんてしないのに、ヤットとは“分かる、分かる”みたいな感じでサッカーの話、弾んでいるんです。嫉妬ですね、これは(笑)。嫌いというよりはちょっとした嫉妬。お兄さんのアキさん(遠藤彰弘)まで“ヤットはうまいから”ってずっと言ってましたから」

対戦してわかった“凄い、凄い”の理由。

 岡山は川崎フロンターレ時代にいち早く中村憲剛の才能を認めていた一人だが、遠藤についてはそれがなかったという。

「俊輔や憲剛は最初から凄いなっていうのはありました、でもヤットには特に感じなかったんです。でも10年くらい経ってかな、(コンサドーレ)札幌でDFとして起用されるようになってガンバと対戦したら、アイツの凄さがはっきり分かりました。取りにいけないヤバいパスを何本も出してくる。周りが“凄い、凄い”と言っている理由が、10年越しに理解できたんです。

 交流はずっと続いていますよ。奈良クラブ時代には僕の知り合いの人とわざわざ写真を撮ってくれたり、いいヤツなんです。ホント、大好きです」

サッカーは一人じゃ何もできない。

 遠藤はボールを大切にする、人を大切にする。その生き様がプレーに表れている。1試合目も、1000試合目も変わらない。

 Number985号で1000試合達成記念のインタビューを行なった。そこで語った彼の言葉を紹介したい。

「(サッカーの世界では)一人で流れを変えるってこと、なかなかないと思うんです。メッセージを出すほうとメッセージを受けるほうが感じ合って、流れは変わる。だから良いときも悪いときも、一人じゃ何もできない。だから周りを賢く見ていかないといけない。僕はそう思うんですけどね」

「1」があって、「1000」がある。

「1000」があって、あの「1」がある。

 サッカーは人につれ、人はサッカーにつれ。

 遠藤保仁の息づくパスは、サッカーというスポーツの真理を帯びる。

文=二宮寿朗

photograph by J.LEAGUE


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